退職時の年休消化はだめなのですか?
そもそも年休制度とはどのようなもの?


会社が「退職するに際して、年次有給休暇を濫用してはならない」と就業規則を改正 「そもそも年休制度は労働者の心身の疲労回復のため」と説明

川崎重工は、年次有給休暇の取得に関する就業規則に「退職するに際して、年次有給休暇を濫用してはならない」という一文を追加しました。

職場では、”退職に際し、年休を取得できなくなったのか”、”年休の取得を制限する内容だ”という戸惑いや反発などの声があがっています。就業規則の改正によって、組合員がそういう気持ちを持つのは、日頃からの有給休暇が取りにくい状況からすればもっともなことだと思います。

5月24日の生産専門委員会において、退職時の年休消化に関する労働組合の質問に対し、会社は「そもそも年休制度は労働者の心身の疲労回復のために設けられているもの」だと述べました。これでは、年休は「心身の疲労回復」のためなのだから、”退職時に年休を消化するな”と聞こえます。

日本では、年休は「心身の疲労回復」のためとよく言われていることなので、つい”そうなのか”と思ってしまいます。果たして退職時の年休消化はだめなのか、そもそも年休制度とはどのようなものなのかなどについて考えてみました。


以下は、就業規則の改正についての労働組合と会社とのQ&Aです。

労働組合の質問  退職するに際して、年次有給休暇を濫用してはならない」と就業規則が改正されたが、これについて、一部の組合員に、退職に際し年休を取れなくなるとの誤解があるがそのような解釈ではないとの理解で良いか。 
会社の回答  当該規定については、退職に際して業務の引継ぎを一切行わずに未消化年休を一斉消化するなど、信義則に反するような年休の乱用を防止するものである。既に労働協約に同様の記載があり、運用についてはなんら変更はない。ただし、そもそも年休制度は労働者の心身の疲労回復のために設けられているものであり、日頃から年休を計画的に取得するようにお願いしたい。 
(川重労組ニュース 第1882号から抜粋) 

会社は、「信義則に反するような年休の乱用を防止する」ためだと述べています。
たしかに、会社の言わんとすることもわかりますので、まず、年次有給休暇とはどのようなものかについて簡単に押さえておきましょう。

なお、会社の回答で「既に労働協約に同様の記載」があると述べている問題は、労働協約が労働組合と会社との間で合意した事項を書面にしたものであり、就業規則よりも強い効力を持つという点で、年休取得の権利を狭めるもので問題だと思います。なぜこのようなところに書いてあるのか問題ですが、本論から外れますのでこの程度で収めておきます。

年休は会社に「お願い」するものではなく、自分が働いて得た権利であり、堂々と使ってよいものです

それでは、労働基準法第39条(年次有給休暇)を見てみましょう。

1項で「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」、5項で「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する
時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と定めています。

上記の第1項と第5項の前半部分を読めば、年休とは、ある期間継続勤務したことによって、事後的に与えられるものであり、働き続けたことにより得た権利であること、また、年休の取得にあたっては、会社に「お願い」ではなく、「時季」を指定して請求すればよいことになっています。

したがって、退職時にまとめて年休を取ること自体は何ら問題ありませんし、年休を取らずに仕事に励んできたからこそたくさんの年休が溜まっているわけですから、堂々と使ってよいものだと言えます。

会社は年休請求を拒否できませんし、請求された時季を「忙しい」という理由では変更できません!

前項で紹介した労基法39条5項の後半の但し書き部分が「使用者の時季変更権」と呼ばれるものですが、会社が年休の取得理由等で請求された時季を勝手に変更できるものではありません。「事業の正常な運営を妨げる場合」においてのみ「他の時季」に変更できるとなっています。

川崎重工の就業規則を見ると、「業務の都合上やむを得ない場合には、休暇の時季を変更させることがある」となっており、「業務の都合上」と表現がすり替えられています。これでは、仕事が忙しいというだけで請求した時季に認められないということになりかねません。

これまでの法令では、代替要員を配置しようとすればできるのにその努力もしない場合や、「恒常的な要員不足により、常時代替要員の確保が困難である場合には、事業の正常な運営を妨げる場合には当たらない」となっており、不適法な時季の変更がなされた場合、会社には損害賠償責任が生じることもあります。それだけ、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは厳しい要件ということです。

そういうことを前提としながらも、退職時にまとめて年休を請求されると、会社としてはそれなりの事情があったとしても「他の時季」に変更することが不可能となるので、年休を取る前に引継ぎだけはしっかりと行い、すっきりとした気分で年休を取るのが労働者の本望ではないかと思います。

なお、「時季」という用語ですが、決して「時期」ではなく、第39条1項に「継続し、又は分割」と記載されているように、継続した年休の取得を前提としているということです。

厚生労働省は、年休制度の趣旨は「心身の疲労」回復と「ゆとりある生活の実現」と説明

次に、会社が「そもそも年休制度は労働者の心身の疲労回復のために設けられているもの」という問題に移りましょう。

厚生労働省は、平成21年5月29日の『労働基準法の一部を改正する法律の施行について』の中で、「法第39条は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、
ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨から、毎年一定日数の有給休暇を 与えることを規定している。」と述べ、さらに、厚労省の『年次有給休暇取得促進特設サイト』の「事業主の方へ」の中では「年次有給休暇の取得は労働者の健康と生活に役立つだけでなく、労働者の心身の疲労の回復、生産性の向上など会社にとっても大きなメリットがあります。」とも述べています。

以上の厚労省の説明によれば、年休制度とは「心身の疲労」回復はもちろんのことですが、「ゆとりある生活の実現」が趣旨だと述べています。労働者がスポーツ・レク・教養文化や地域活動、家族団らんの等を楽しめる「ゆとり」を実現しようというものであり、「個人の尊重」へと大きく幅を広げていると言えます。そして、そのことが労働者だけでなく、「生産性の向上など会社にとっても大きなメリット」になるということです。

年休制度の趣旨を「心身の疲労回復」に狭められては、仕事の頑張り過ぎや病気・介護などどうしようもない時にしか、年休が使えない雰囲気になってしまうと思います。会社は、厚労省の説明する趣旨をきちんと従業員に徹底し、休みやすくするための制度改革や適正な要員補充、社員同士助け合う気風の確立などの職場改善を、従業員の声をよく聞きながら実行すべできではないでしょうか。

なお、厚労省の2017年の発表によれば、全体の約3分の2の労働者が年休取得にためらいを感じているということです。その理由の1番は「みんなに迷惑がかかると感じるから」が73.3%で、次に「後で多忙になるから」「職場の雰囲気で取得しづらいから」「上司がいい顔をしないから」「昇格や査定に影響があるから」という順になっています。そして、全体の取得率は51.1%と18年振りに5割を超えたというものです。

総合旅行サイトのエクスペディア・ジャパンの2018年調査によると、世界19か国の中で日本の年休取得率、年休取得日数、ともに世界最下位という結果で、先進国としてはとても恥ずかしい状況です。(ちなみに、取得率100%はフランス、スペイン、ドイツ、ブラジルでした。)

国際基準の年休はそもそも「連続取得」が前提です

それでは、国際基準であるILO(国際労働機関)は年休についてどう定めているのでしょうか。

その歴史は驚くほど古く、すでに1936年のILO47号勧告の中で、年休制度の趣旨について、「
休息、娯楽及び能力の啓発のための機会の確保」と規定しています。80年以上も前のことながら、「心身の疲労回復」という考えとは次元が違っています。

そのような趣旨を背景に、現在は1970年の第132号条約が世界基準となっています。そのポイントだけを紹介しますと、第3条の3項で「休暇は、いかなる場合にも、一年の勤務につき三労働週を下回ってはならない」、第8条の1項・2項で「年次有給休暇の分割を認めることができる。年次有給休暇の分割された部分の一つは、少なくとも中断されない二労働週から成るものとする」と規定しています。

要するに、年休はまとめて取るのが前提となっており、22日の年休が付与されている場合は、少なくとも11日は連続して休むことが求められているということです。ドイツなどでは、3〜4週間連続して休暇を取ることは珍しくありません。日本では、病気になったときなど年休を分割して(1日単位で)取るのが普通となっていますが、国際的にはまさに常識外れと言えるでしょう。

病欠の問題ですが、ヨーロッパ諸国では、国によって仕組みが異なりますが、年休とは別枠で取得できるようになっています。その間の給与は社会保険からの支払いや、満額雇用主負担か一部雇用主負担が原則となっています。

このような違いをつくりだしている大きな要因の一つとして、日本が第132号条約を批准していないことがあげられます。それだけではありません。労働時間に関する有効なILO条約は、労働時間を1日8時間・週48時間に制限する条約(第1号)など18本存在していますが、日本は、ただの一つも批准していません。先進国で批准ゼロは、日本と米国だけです。

真に国際社会の仲間入りするには、国際基準であるILO条約を批准して国内法を整備することが日本社会の緊急課題となっています。


以上、退職時の年休消化問題から、年休についての日本の法令や国際基準を紹介し、問題点を提起してみました。少なくともヨーロッパ並みに個人が尊重され、年休が「休息、娯楽及び能力の啓発のための機会の確保」として積極的に連続取得できるようになれば、サービス産業などが発展し雇用も拡大するだろうし、労働者も企業も豊かな展望が見えてくるのではないかと思います。

みなさん、一緒に考え職場で議論してみましょう。また、ご意見・感想がありましたら大歓迎です。


(19.08.05)