2006年社長年頭挨拶より!
現中期経営計画目標ROIC9%以上の意味するものは?
川崎重工の大橋社長は、No.173号「かわさき」の中で、「−さらなる飛躍の出発点として−川崎重工グループの総力で現中計目標を達成しよう」と、グループ全従業員に理解と協力を呼びかけています。
大橋社長は、年頭挨拶の最後に「2010年度を最終年度とする新中期経営計画」について、「新中計は、現中計の『構造改革路線』を継承し、それをさらに進化」させるとしています。これが進められることにより、固定費引き下げという名目で苦難を強いられる従業員の今後はどうなるか、大橋社長が述べる現中期経営計画達成の呼びかけと、職場の声をもとに考えてみたいと思います。
<社長が語る現中期経営計画の主旨とは>
大橋社長は、まず、「『質主・量従型経営』へと方向転換することによって、『企業価値の増大を図ること』を目標に、下表のような具体的目標を述べています。
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<マーケティング力の強化とは>
「高収益体質の実現に大きく寄与する」眼目は、「ビジネス・スキーム(計画)も含めた提案力を鍛えることが差別化につながっていく」ことになると述べ、「それがマーケティング力」であると結んでいます。
しかし、実態は、育成事業においては若干の人員プラスですが、不採算事業と決め付けられた部門では、到底、達成不可能な無理難題を付加されて受注減になり、そのことを理由に徹底した人員削減が行われています。
不採算事業と決め付けられた職場では、「上の連中は、事業回復の努力もせずに、無理難題ばかり言ってくるけど、職場を潰そうとしているとしか思えないよ」という悲痛な声が聞こえてきます。
<収益率の向上とは>
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<コンプライアンスの徹底とは>
「コンプライアンスは、企業活動において、最優先されるべきものです」「どんな些細なことであっても、コンプライアンス違反は、グループ全体に多大なダメージを与え、手が届くはずの夢を壊しかねません」と大橋社長は、まるで川崎重工が起こした一連の不祥事(橋梁談合事件・環境談合事件・不当労働行為事件・アスベスト事件・サービス残業摘発事件、等々)を思い出させるかのように、「各々の組織」と「従業員一人ひとり」が「意識を持って行動するよう強く要請します」と述べています。
職場では、「まるで従業員個人が、勝手に法令違反をしたように、会社は言うけど、何億・何十億円という仕事は、必ず会社上層部の決裁が必要だ。まず、会社上層部が自らの責任を内外に表明して責任を取ったうえで、従業員に言うのが筋だし、そうでないと、世間は認めないよ。」という声が、たくさん聞こえてきます。
<固定費引き下げとは>
ここで、改めて、職場の声にもあった「訳のわからないROICとやらの数値目標」と大橋社長が述べる「固定費の引き下げ」が、どのように関係しているのか、考えてみたいと思います。(ROICとは? 経常利益とは?については、下表を参照下さい。)
大橋社長が述べる「ROIC4.5%前後」から「ROIC9%以上の達成」への目標を実現するには、経常利益を2倍にするか、投下資本を半分にするしかありません。しかし、年頭挨拶では、ROICのアップで最も足を引っ張っている有利子負債(2004年度で3538億円)には、一言も触れようとはしていません。触れるのは、経常利益のアップについてのみです。
経常利益をアップするには、営業外損益を除けば、売上高を上げるか、製品原価や管理費を下げるしかありません。川崎重工では、ここ数年、売上高が飛躍的に伸びない状況から、TAR−GET(労働条件の引き下げ・賃金の引き下げ)やKPS(ムダ・ムリ・ムラの排除に名を借りた労働強化)などによって、「固定費の引き下げ」(従業員の人件費削減)を猛烈に進めています。
つまり、製品原価に含まれている生産部門関連の従業員人件費や、管理費に含まれている間接部門関連の従業員人件費を、「固定費の引き下げ」という従業員自らに提案させるという巧妙な手段を使って、引き下げる所に、現中期経営計画達成と、新中期経営計画策定の狙いがあると言えます。
◎ ROIC(投下資本利益率)とは 当期経常利益 ◎
経常利益とは |
<本当の飛躍の出発点とは>
大橋社長は、「現在、当社グループは、『21世紀のグローバル・カワサキ』に向けて新たな夢を描こうとしています」「それぞれの事業における構成員であるみなさんが、ビジョンと中長期の戦略を共有することによって、より高い目標の実現のために、一層活躍されることを期待します」と述べています。
本当の飛躍の出発点とは、「固定費の引き下げ」に名を借りた従業員の賃金切り下げや、労働強化なのでしょうか。「固定費の引き下げ」という安易な手段によるのではなく、大橋社長自らが述べているように「新たな夢」を「それぞれの事業における構成員であるみなさん」と「共有する」ためには、労働条件向上や賃金引き上げを行ってこそ、本当の意味での飛躍の出発点になるのではないでしょうか。
皆さんは、いかがお考えでしょうか。
(06.02.19)