川崎重工の2014春闘を考えました "その2"

"賃上げ拒否論"が破たん、賃上げの再検討を


1.驚き


 川崎重工グループ報2014年5月30日、No.214誌のP6を見た瞬間、目を疑いました。2013年度決算で"有利子負債の削減を実現"と謳っているではないですか。しかし、直前の春闘要求に対する回答で会社は、"有利子負債が過去に例のない高水準"だから賃上げは厳しい、と言っていたのに。
 とても、驚きました。

 前掲「川崎重工の2014春闘を考えました」では、株主への過剰な優遇の改善を提起しました。ここではその後明らかになった有利子負債の変遷から春闘を考えました。

2."賃上げ拒否論" が破たん

表1:有利子負債に関する会社の発言

日付

会社の主張

2013年11月25日
中央経営協議会
昨年度末の当グループの連結有利子負債残高は4,846億円で、この9月末では、5,831億円という状況にある。今年度末残高4,500億円台を目標に有利子負債削減の取り組みを実施しているが、この目標を達成できた場合でも、過去と比べて有利子負債はなお高水準である。
2014年2月25日第3回労働協議会 人への投資は、年収の引き上げとして、賞与で対応している。業績そのものは比較的好転しているが、持続的な継続は約束されていない。また、有利子負債が6,500億円を超え、キャッシュフローが悪化している中、固定費の増加につながる対応は厳しい。
2014年3月12日春季諸要求について(回答) このように不透明な経営環境の中、有利子負債が過去に例のない高水準となっている現況において、固定費およびキャッシュアウトの増加につながる施策の実施には慎重を期すべきところであります。
2014年5月30日川崎重工グループ報"かわさき" 2013年度決算概要のP6のタイトル。
"売掛債権、棚卸資産の圧縮、前受金の増加などになどによって" "有利子負債の削減を実現"
2014年6月10日
中央経営協議会
昨年度より喫緊の課題として取り組んできた有利子負債削減対策については、グループ一丸となって積極的にキャッシュ・フロー改善策を推進してきた結果、2012年度末4,846億円から2013年度末4,446億円にまで削減が進んでおり、「中計2013」最終年度の2015年度末目標4,000億円台の達成も視野に入ってきた。
 表1は有利子負債に関する会社発言をまとめたものです。

3月12日までは"地獄"
 会社が有利子負債高水準の問題を労組に提起したのは、昨年11月25日中央経営協議会です。そこから、春闘回答の3月12日まで有利子負債の高水準は続き、そのことを賃上げ拒否の最大の論拠にしました。

3月31日、突然
19日間で"地獄から天国"へ
 しかし、直近6月10日の生産協議会で会社は一転して有利子負債400億円削減の成果を誇らしげに語っています。
 会社はたった19日間で勝ち取った大きな成果を具体的に語っていません。そのため、「会社は春闘回答時点で有利子負債削減を知っていたが、有利子負債の高水準を賃上げ拒否に利用したのでは?」といた疑念が出かねない状況です。

 疑念はさておき、有利子負債が少なくなったことは経営的に良いことだと思います。更に我々にとって喜ばしいのは、有利子負債高水準による"賃上げ拒否論"の論拠がなくなり、論が破たんしたことです。

3.今からでも遅くありませんー有利子負債400億円削減は賃上げ2,000円に相当

 今回削減した有利子負債400億円、その多くは短期借入金の削減(図1)ですが、これにより金利負担が年間約6億円[注1] 削減となります。 
 一つの考察ですが、この削減は2,000円[注2]の賃上げ相当額です。既に決まっている1,000円と合わせて3,000円の賃上げの可能性を物語っていると考えます。
 会社は今後も友好な労使関係を構築したいのであれば、自ら主張した有利子負債高水準による"賃上げ否定論"が破たんしたことを認めることです。そして、今からでも遅くありません賃上げを再検討すべきです。

 私たちは今回の経緯からこのように考えましたが、みなさんはどのように思われましたか?

[注1]:短期プライムレートは、1989年以降、都市銀行が優良企業向けの短期貸出に適用してきた最優遇金利で、日本銀行のデータでは、2014年 2月12日現在で最頻値は1.475%です。この金利で金利負担削減を計算すると、400億円×0.01475=約6億円です。
[注2]:前掲の「川崎重工の2014年春闘を考えました」で説明していますが、1,000円賃上げに約3億円必要です。

(14.07.07)