「2015年社長年頭挨拶への声」
川崎重工では、年頭にあたって各工場では、全員が食堂などの広い場所に集まり、毎年、「社長からの年頭挨拶」をビデオレターの形で聴く習わしになっています。
2015年1月5日も各工場で、一斉に「2015年」バージョンのビデオレターが流されました。
職場では、ビデオレターへの感想・意見が聴こえてきます。
それは、どのような声なのでしょうか。
★ 冒頭挨拶
「・・・世界各地で活躍している川崎重工グループの皆さんに新年のお祝いを申し上げます。」から始まりました。
世界経済の緩やかな成長についての言及のあと、
「国内においては消費税率の変更による消費需要の反動が長引くものの、現時点では当社グループの業績に大きな影響は現れておらず、総じて良好な経営環境が継続しています。」
と語り、アベノミクスによる「総じて良好な経営環境」について触れています。また、「消費税率の変更による消費需要の反動が長引く」影響をまともに受けて、従業員が苦しい日常生活を強いられている状況を、他人事のように触れています。
「国内において、政府の策定する・・・水素利用が取り上げられ促進費が予算化されようとしており、民間企業においても燃料電池自動車・・・水素社会の到来・・・」、「こうした明るい話題が多い・・・」
と従業員の理解と協力を呼び掛けていました。
職場では、「たくさんのノルマや、いろんなプレッシャーで潰れそうなのに、何が明るい話題だ」と年頭から怒りの声が聴こえてきます。
1.経営概況(2013年度業績および2014年度見通し
「2013年度は、売上高・利益とも2012年度の業績をすべて上回り、特に、当期純利益においてはグループ最高益を更新することができました。」
「最高益を更新」を高らかに謳い上げていますが、その利益はどこにいったのでしょうか。
「有利子負債の削減はもちろんのこと、株主への増配や従業員賞与の増加につながるなど、大変喜ばしい状況となりました。」
職場では、「安定した生活を考えると、賞与よりも給与に反映すべきだよ。それなのに今年の給与アップは1000円/月という雀の涙だ。何が喜ばしい状況だよ。」と嘆きの声が聴こえています。
「2014年度の業績見通しは、・・・受注・売上・利益のすべての面においてグループ史上最高値の更新が視野に入ってきました。・・・従業員の皆さんには気を緩めることなく、不断の努力を継続していただきたいと思います。」
職場では、「何が気を緩めることなくだよ。緩めるどころか、いつも潤滑油が無い状態でネジを巻かれていて『ギーギー、ギャーギャー』と悲鳴を上げている状態で、気の休まることが無いよ。」と独り言が聴こえています。
2.2015年の基本方針(重点施策)
「グループ報『かわさき』の216号には、『Kawasaki-ROIC経営』に関する解説を副社長のインタビュー形式で載せるなど、当社グループが目指すべき企業価値向上に向けた・・・説明を、機会あるごとに発信しています。」
その216号の大見出しに「従業員が主役!!」という文字が躍っています。また、松岡副社長は、「従業員も株主もWin-Winになるというのが『Kawasaki-ROIC経営』の究極の目標です。」と語られています。
職場では、「従業員が主役は大歓迎。従業員も株主もWin-WinになることもGOOD。しかし、それが究極の目標では困るよ。」と希望とも諦めともつかない声が聴こえています。
村山社長は、引き続き三つの重要施策を語っています。
(1)シナジー(相乗効果)追求によるコア・コンピタンス(競争優位性)の強化
「ライバルに打ち勝つためには、多彩な事業を営む当社グループの利点を生かした、シナジー追求によるコア・コンピタンスの強化が必要です。」
職場では、「当社グループの利点を生かしたシナジー追求と言うけど、それって、いろんな職場で日夜頑張っている、正規社員や非正規社員、上長や部下、他部門の協力関係を良くして、それぞれの力以上に力を発揮することを追及するということだと思うんだけど、むしろ、逆になっているのが現状だよ。」と手厳しい批判の声が聴こえています。それでは、「コア・コンピタンス」の低下でしかありません。
会議を行っても、「上長からの一方的な伝達の場、上長からの叱責の場」になっていて、「物言わぬ」部下の集団と化しています。隣同士の従業員同士も会話も少なく、メールでやり取りしている始末で、現状ではシナジー追求という掛け声も空しく響いています。
(2)「グループ経営モデル2018」と成長戦略
「昨年10月、当社グループは2018年のあるべき姿を描いた『グループ経営モデル2018』を策定しました。本モデルは、当社グループが現状に満足せず、常に成長にむけた強い気持ちを持ち続けるために定めたものであり、・・・。」と各カンパニーのビジネスユニットすべてが、具体的な成長戦略をもって将来へ向かうことを指示しています。
職場では、「あるべき姿を描いて、常に成長にむけた強い気持ちを持ち続けることは、大切だと思うよ。しかし、職場の実態は、マインドを高める状態かどうかと問われたら、NOと言うしかないよ。仕事がうまく行っても当たり前で褒められることもなく、少しでも失敗すれば叱責の嵐で、マインドを高めるどころか委縮しっぱなしだよ。だから誰も失敗しそうな仕事には、手を上げないよ。」と上層部の掛け声からかけ離れた職場の実態が見えてきます。
「皆さん自身が常に成長したいという気持ちを持ち続けることが大切です。」という言葉が、空しく職場では響くばかりです。
(3)強靭な財務体質の構築
「企業にとって強靭な財務体質ほど心強いものはありません。常に変化する経営環境への適応力の向上や、事業の強化、将来の成長のために必要な投資を行うためにも、強靭な財務体質を構築する必要があります。」
職場では、「将来の成長のために必要な投資を、もっと従業員への給与大幅アップという形で示して欲しい。生活に窮している状態では、虚弱体質になってしまうよ。」という弱々しい声も聴こえています。
3.職場の安全衛生
「従業員は当社グループにとって貴重な財産でありますし、労働災害は企業の信頼失墜も招きます。」
職場では、「社長の言う通りだ。しかし、災害報告が後を絶たない状態だよ。皆、災害を無くしたいんだけど、一人作業や短納期、そして、低コストでなかなか人件費をかけられない状況で、いっぱいいっぱいでやっている。安全はコストがかかる点を会社は、もっと理解して欲しいよ。」という切実な声が聴こえています。
4.プラント・環境カンパニー東京技術部門等の神戸地区集約およびKCMグループの日立建機株式会社への譲渡について
「本年4月をめどに、東京地区に所在するプラント・環境カンパニーエネルギープラント関連事業の技術部門を神戸地区に集約することにしました。」
職場では、「エネルギープラント部門は、今までも工場を転々としてきたと聞いているけど、昨今のインターネット時代に集約する意味がもう一つ理解しにくいよ。ましてや、このために家族も含めた生活設計を崩させるのは確実だからね。」と明日は我が身という悲しい声も聴こえます。
「長年にわたり当社グループの建設機械部門として一緒に働いてきましたKCMグループが、本年10月より日立建機株式会社の傘下となることが正式に決定されました。」
職場では、「元々、川崎重工に入社してたまたま配転された人が、本人の意志に関わらず他社の社員になってしまうというのは、あまりも理不尽なやり方だよ。」と怒り心頭の声が聴こえてきます。
「両部門で働く従業員の皆さんにとっては、不安も多いと思いますが、新しい環境のもと一層ご活躍いただくことを期待します。」
職場では、「何が期待しますだよ、まるで他人事じゃないか。」と怒り爆発の声が聴こえています。
☆ 職場からの声
最後に村山社長は、「当社グループのミッション・ステートメントのカワサキバリューに『テクノロジーの頂点を目指す』という言葉があります。私の好きな言葉の一つです。・・・皆さんの熱意・原動力に大いに期待します。」と語られています。
当社グループとは、何でしょうか?
それは、組織された従業員の集団ではないのでしょうか。
しかし、組織されているだけでは、「テクノロジーの頂点を目指す」ことは出来ません。そこには、英知が出せる活かせる人間集団でなければなりません。
そのためには、正規社員だけでなく、非正規社員も含めた川崎重工従業員の生の声を真摯に受け止められる、スケールの大きな企業でなければなりません。
また、従業員は、川崎重工がいつも表現しているように大事な「人財」です。そのことが体現された先に、、「テクノロジーの頂点」が見えてくるのではないのでしょうか。
(15.02.08)