「安倍三代」青木理著(朝日出版社)を読んで
読者の方から「安倍三代」青木理著(朝日出版社)を読んでという投稿がありましたので紹介します。
反骨のジャーナリスト青木理(おさむ)さん著の「安倍三代」を読みました。
現在の安倍内閣の実に半数が世襲議員に占められています。
その究極的存在が、母方の祖父である昭和の妖怪と言われた岸信介、父は外相を務めた安倍晋太郎である安倍晋三首相です。
この本は、世間的にあまり知られていない父方の祖父安倍寛(かん)氏と、父安倍晋太郎氏の足跡を取材していく中で、三代目安倍晋三首相の今の政治信条のルーツがどこにあるのかを探る本です。
第一部は、父方の祖父である安倍寛氏です。
故郷の山口県旧日置村の村長や山口県会議員を経て、国会議員を二期務めた政治家です。
安倍晋三氏の政治信条とは全く異なる人物でした。戦時中の国政選挙では、大政翼賛会の推薦を受けない非翼賛候補として、三木武夫氏らと共に当選した「反骨と反戦の政治家」でした。
残念なことに戦後すぐに若くして夭折しました。
第二部は、父安倍晋太郎氏です。
子どもの頃父親に対する官憲の弾圧を目にしたことや、新聞記者をしていた経験から、護憲を明言する平和主義者として、バランス感覚にすぐれた政治家という評価があります。また晋太郎氏は、父が若くして早世したため、選挙地盤を引き継ぐことが出来ず、韓国出身の生涯の友の支援を得ながら、どぶ板選挙を繰り広げて国会議員になった人物です。
周囲の人には、「オレは岸信介の婿じゃない、安倍寛の息子だ」と常々もらしていたそうです。
第三部は安倍晋三首相です。
成育過程や青年期を知る人に取材を積み重ねても特筆すべきエピソードが出てこない、凡庸な印象しか出てきません。
出身の成蹊大学の加藤節名誉教授は、「彼は大学4年間で、自分自身を知的に鍛えることはなかったでしょう」と言っています。
そして安倍首相には、二つのムチがある、ignorantの「無知」とshamelessの「無恥」と批判しています。
神戸製鋼に勤めたサラリーマン時代の上司は、「政界入り後に周りに感化されたのではないか、子犬が狼の群れに交じっているうちに自分が狼だと錯覚して、いまのようになったのじゃないか」と語っています。
筆者は、祖父安倍寛氏、父安倍晋太郎氏が、いかに山口県の地元の人達に取材を通じて慕われていたかが心からあふれるのに比べて、三代目安倍晋三氏に対して地元でゆかりのある人たちの評価は手厳しいです。
また、たどった生い立ちもあまりにも薄っぺらなことが、取材を通じてわかったことで筆者は虚しさを感じます。
安倍三代の取材を通じて、安倍晋三首相の今を導き出す著者の目論見は、一代・二代とは、あまりにもかけ離れているために外れました。
しかし、興味ある面白い本になっていると思います。
「福島原発事故は完全にコントロールされている」と平気で嘘をつく「厚顔無恥」、「こんな人たちに負けられない」と首相としてはあるまじき言葉を発する「無知」であるが故の「傲慢」さ。
一連の言動があまりにも凡庸な生い立ちから生まれていることを知って、逆にこんな人に日本は任せられないと強く感じます。
安倍晋三氏が首相になる前に、国会に子供たちを呼んで話をする企画があったそうです。
子供たちが安倍晋三氏に何故政治家になろうと思ったのかと聞かれた時に晋三氏は、「お爺ちゃんも国会議員、お父さんも国会議員、だから私も政治家になったんだよ」と語ったそうです。
子供たちにはもっと大きな志を持った夢のある受け答えが欲しかったと思います。なんと薄っぺらな情けない受け答えでしょうか。
この本には、その背景の一端が描かれていると思いますので是非読んで頂きたいです。(Y.H記)
(17.09.09)