「リモートワーク」って良いこともあるけど、
適用をどんどん拡大して大丈夫なのだろうか?


職場からは「持ち帰り残業の温床」にならないかと不安の声が

会社は、2019年11月6日の労働専門委員会にて「柔軟な勤務制度の実現」ということで、リモートワーク取扱規程の改正とフレックスタイム制等の試行導入を提案しました。

労働組合の支部委員会では、支部委員から「今回会社の案では、深夜・休日もリモートワークを認めるとしていますが、…”仕事終わってないなら、家に持ち帰ってやれ”と持ち帰り残業の温床にもなりかねません」と心配する声があがっています。

一方、会社説明では、2019年度のK-Winアンケートにおいて、「(リモートワークは)5993名中203名程度が利用しており、また586名が今後利用予定」と回答したとあるように、従業員の中にリモートワークへの要望が強いことがうかがえます。

会社は「さらなる制度利用の推進」を行っていくと言っていますので、リモートワークの適用拡大の良し悪しや改善方向などについて考えてみました。

会社が「リモートワーク制度」の利用回数・時間帯の制限を撤廃すると提案

リモートワーク制度は、「場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を認めることで、一定の制約下における労働時間の確保及び業務の生産性向上」を目的に、2017年9月に「在宅勤務制度」として提案され、同年11月に「1日の就業を出社と在宅とでフレキシブルに組み合わせる」ことなどから「リモートワーク制度」に名称が変更され、2018年1月から実施されたものです。

今回提案されたリモートワーク取扱規程の改正の主な点は以下です。
●「
回数上限就業場所等に関する条件を撤廃する。
休日および深夜時間帯でのリモートワークについて、所属長の判断により認めることとする。
実施時期は、2020年1月1日としています。

これまで、リモートワークの利用回数は1ヶ月に4回が上限で、休日や深夜時間帯は不可とされていましたが、今回の提案は、
業務の都合上やむを得ない事由」がある場合、それらの回数・時間帯の制限なしにリモートワークを認めるとしています。

なお、これだけ重大な改正内容ですのでしっかりとした職場での議論が必要となりますが、提案から実施までの期間が2ヶ月弱とは短過ぎるのではないでしょうか。

リモートワークの適用拡大の良し悪しは? 本当に従業員の意思が尊重されるのだろうか?

すでに多くの従業員がリモートワークを利用し、今後さらに増加すると言われています。その利用目的として、「通勤時間の削減がもっとも多く、ついで隙間時間の活用、育児に伴う対応」と会社が説明しています。

<従業員にとって良いこと>

上記の会社説明にあるように、
◎混雑した電車を避けることによって、通勤時間の有効活用ができ、健康面・メンタル面にとっても有益である。

◎育児や介護等で社内でのフルタイム勤務が困難な場合でも離職しなくて済む。短時間勤務による欠勤・減給を回避できる。

◎リラックスした服装や環境で働くことができ、業務の内容や人によっては作業効率を向上できる。

などが良いこととして上げられるのではないでしょうか。

<従業員にとって危惧されること>

従業員にとって一番の心配は、労組の支部委員会で発言があったように、リモートワークによって自宅残業や持ち帰り残業が増え、さらにはサービス残業を強いられるのではないか、ということだと思います。

労使の質疑応答の中で会社は、「休日及び深夜時間帯での勤務は本来望ましいものではないが、
業務の都合上やむを得ない事由により会社からの業務命令により実施するものである。その際、従業員が本人都合によりリモートワークを希望する場合で、所属長が認めた場合にのみ当該勤務を認めることとした。客先都合により海外との会議が深夜時間帯に設定されている場合や帰宅後緊急の仕事を命じられた場合など、自宅等で勤務した方が身体的な負担が軽減される場面を想定している」と述べています。

リモートワークは従業員が「希望する場合」と条件付けていますが、その前段に「
業務命令により実施する」とあるように、業務命令された人はその業務を「社内」でやるか「自宅等」でやるかの選択しかないので、あまり意味がないと思います。それどころか、業務命令を出す側にとっては”自宅等なら”ということで、社内での業務より命じやすくなるのではないかと思ってしまいます。

以下に危惧されることを列記します。
●自宅残業や持ち帰り残業につながり長時間労働になる。作業効率によってはサービス残業を余儀なくされる。

●仕事とプライベートの線引きが難しく、自分だけでなく家族も含め生活のリズムが崩れる。

●利用時間が長くなるにつれて、同僚らとの会話・共同作業が減り、上司の業績評価も気になるなど、孤独感・疎外感がつのり体調を崩す。

●規程では、インターネットへの接続環境や通信費・光熱費等の費用は本人負担となっているので、新たに接続環境をつくった場合や夏・冬の光熱費などの費用がかさむ。

希望者が安心してリモートワークを利用できるようにするために

上記の危惧されることを解消して、希望者が安心してリモートワークを利用できるようにするためには、以下の対策が必要と考えられます。

★労働時間と休憩時間の管理を厳格に行う。
本人の勤務実績報告だけでなく、社内イントラネットへのアクセスログなどで労働時間を把握できるようにする。所定労働日のみの利用者の場合は、休日・深夜時間帯にアクセスできないようにする。

★休日・深夜時間帯での利用者については、本当に「業務の都合上やむを得ない事由」であったのかを検証する。

★定期的に利用者の労働環境など把握し、メンタル面の相談・フォローアップを行う。

★通信費や光熱費等の費用について一定額を会社が負担する。

以上の対策を講じれば、従業員と会社の双方にとってもプラスになるのではないかと思います。

経営者は、働く人々の真の願いを汲み取り、社会進歩の方向で勇気ある対応を!

グローバル企業として活動すれば、海外との取引や共同事業などにより休日・深夜関係なく対応が求められるだろうし、また、緊急の仕事も発生するでしょう。

確かに、企業間競争が厳しい状況の中で、人の手配で乗り切る方が手っ取り早いですし、それを要請された(命じられた)人たちも、事情がわかるだけに辛抱して対応せざるを得ない心境になるでしょう。

でも休日は、単に労働による疲労回復だけにあるわけではないし、人間性の回復と実現の貴重な時間になります。子育て世代にとって、朝夕・夜の時間帯は子供や家族と一緒に過ごしたいというのが普通だと思います。

労働者に労苦を一方的に負わせるのではなく、働く人々の真の願いを汲み取り、休日・深夜まで働かなくてすむ方向で諸問題の解決にあたることが、新しい技術や仕組みなどを生み出し、社会を発展させてきたのだと思います。ましてや、進歩した通信技術等を利用して自宅等でまで働かせるというのはいかがなものでしょうか。

これまで人類は、働く人々が互いに密接に結びつくことによって、能力を発達させ、高い生産力と労働時間の短縮を実現し、そして、一人ひとりの人間の尊厳を大切にしてこそ企業も社会も持続的に発展できると、私たちは考えています。

社会進歩の方向で思い切って労働時間の短縮を図り、子育てや介護等をしながら働き続けられる環境、そして、働く人たちがバラバラではなく互いに尊重し助け合う風土、とくに若い世代が活き活きと働くことができる職場をつくることは、企業を活性化させ持続的に発展させ、少子化という社会問題への貢献にもなると思います。

いま経営者は、企業活動での諸問題にどういう立場で臨むのか―目先の利益優先か、それとも大きな視野で社会進歩への貢献か―が問われている時だと思います。働く人々が感動する勇気ある対応を期待したいと思います。


みなさん、一緒に考え職場で議論してみましょう。みなさんからのご意見・感想は大歓迎です。


(19.12.28)