安全問題を考える

−JR西日本の快速電車脱線事故に思う−

4月25日午前9時18分、兵庫県尼崎市のJR福知山線尼崎−塚口駅間で宝塚発同志社前行き上り快速電車(7両編成)が脱線、線路脇のマンションに激突し、死者107人、重軽傷者500人以上という大惨事が起きました。犠牲になられた方へは心から哀悼の意をあらわすとともに、負傷された方へのお見舞いを申し上げます。
事故原因についての詳細は、現在「航空・鉄道事故調査委員会」にて調査中ですが、制限速度を大幅に上回る速度オーバーと過密ダイヤがあったことは事実です。また、事故の背景にさまざまな問題があったことも明らかになってきています。

<利益第一・安全軽視>

列車の速度超過を防ぐ新型列車自動停止装置(ATS-P)について、JR西日本は設備工事費を2001年度から激減させていたことがわかってきました。これが地上設備の整備遅れにつながり、事故現場で速度超過が防げなかった大きな要因になっているだけに、同社経営陣の安全軽視体質があらためて問われています。

同時に、競合している私鉄に勝つと集客争いのため過密ダイヤが設定され、運転士には制限速度ギリギリが強いられていました。5秒刻みの時刻表が設定され、遅れると「回復」指令が出され、まるで「サーカス運転」といわれるような運転が求められていました。事実福知山線では遅延・回復運転が常態化していたこともわかってきています。このため遅れを取り戻すため時速120キロを上回ることもあるといいます。このようにJR西日本の利益第一主義と、安全軽視の体質が事故の背景にあったのではないでしょうか。

<徹底した労務管理と・運転士へのプレッシャー>

事故車輌を運転していた23歳の運転士は伊丹駅で40mのオーバーランを犯し、その回復運転をしていたものと推測されています。JR西日本の場合、40m以上のオーバーランをすると、電車から降ろされ再教育「日勤教育」を受けさせられます。この再教育の実態は「教育」とは名ばかりの内容であることもわかってきています。1時間ごとに反省文のレポート書きや、トイレ掃除や草抜きなど教育とは関係のない「いじめ」とも取れるような内容の教育であった実態も報告されています。また、賃金も電車から降ろされると乗務手当(約10万円)がカットされるため経済的にも苦境に追い詰められます。このときの運転士には相当のプレッシャーが加わっていたものと想像できます。

<人員削減で最高収益>

旧国鉄が分割民営化され、JR西日本が発足した当時5万人いた従業員は2000年には4万人を下回るまで削減されていました。また、01〜05年度中期経営計画での数値目標ではさらに9000人削減する目標が示されており、利益追求のためぎりぎりまで人員を削減するJR西日本の姿勢が見て取れます。また、人員構成にも歪が生まれ、30歳代が極端に少ない人員構成で技術の伝承が困難な状況にもなっています。(右グラフ参照)
このような中、JR西日本の3月期最終利益は前年比25.5%増の589億円で過去最高を更新しているのです。
このようにJR西日本の利益第一主義と、安全軽視の体質と運転士など労働者の人権を蹂躙する労務管理が事故の背景にあるのではないでしょうか。

<相次ぐ大企業の事故>

最近、大企業の職場で人命かかわる重大なトラブルや事故が多発しています。三菱自動車のリコール隠し、関西電力の原発蒸気漏れ事故、最近では日本航空が管制官の指示なしで離陸した問題や、気圧調整系のトラブルでジャンボ機が8000m急降下した事故など、一歩間違うと大惨事になるような事故が後を絶ちません。背景には、JR西日本と同様に利益を追求するあまり、人員をギリギリまで削減するなど安全を軽視する傾向があるのではないでしょうか。

川崎重工でも、今まで繰り返し人員削減を実施してきており、災害も後を絶ちません。JR西日本では、相次ぐ人減らしにより運転士の人員構成がいびつになり30歳代が極端に少ない人員構成になっていましたが、このいびつな人員構成は偶然なのか川崎重工の人員構成とよく似ています。安全や技術の伝承が思うように進まない中で、川重でも災害が起こるたび会社が言うのは、個々人の注意を喚起するだけです。JR西日本ではミスをすると「再教育」をさせられていましたが、川重でも不安全行為を犯すとイエローカードをきられ、2度目はレッドカードになり再教育が実施されていたこともありました。

JR西日本の事故の最大の教訓は、不安全行為者への罰則強化や、個人の注意力だけに依存するような安全対策では重大事故は無くならないということです。人間の注意力だけに依存しないで、安心して安全に働ける労働環境の構築が今求められているのではないでしょうか。利益追求だけに奔走するのでなく、これら安全対策へ十分な投資をおこない、人員も増やして余裕を持って仕事ができる作業環境を作ることが今求められています。

(05.05.20)