新聞で何度となく報道されていますし、ニュースでもよく取り上げられていました。
石綿(アスベスト)健康被害がその後どうなったか知っていますか?

−「独立行政法人 環境再生保全機構」資料より−

 平成18年3月27日に「石綿による健康被害の救済に関する法律」が施行されました。
 石綿健康被害救済制度は、石綿による健康被害の特殊性にかんがみ、石綿による健康被害を受けられた方及びそのご遺族の方で、労災補償等の対象とならない方に対し迅速な救済を図ることを目的として、『石綿による健康被害の救済に関する法律』に基づき創設されました。
 石綿を原因とする中皮腫、肺がんについては、石綿にばく露してから30〜40年という非常に長い期間を経て発病することや、石綿が長期間にわたって我が国の経済活動全般に幅広くかつ大量に使用されてきたこと等から、個々の健康被害の原因者を特定することが極めて困難であり、一端発症した場合には、多くの方が1、2年で亡くなられるのが実態です。このように、石綿による健康被害者は、重篤な疾患を発症するかもしれないことを知らないままに石綿にばく露し、自らに非がないにもかかわらず、何ら補償を受けられないまま亡くなられるという状況にあり、迅速な救済を図るべき特殊性があります。
 本制度は、石綿を吸入することにより中皮腫や肺がんになられた方及びこの法律の施行前にこれらの疾病に起因して死亡された方のご遺族に対して「医療費等の救済給付」を支給するものです。
 本制度の費用負担については、石綿による健康被害とその個々の健康被害の原因との因果関係を特定することが困難であること、すべての国民や事業主が石綿による恩恵を受けてきたことにかんがみ、事業主からの拠出金、国からの交付金及び地方公共団体からの拠出金による石綿健康被害救済基金を創設して運営されます

石綿(アスベスト)とは何?

性質
 石綿は、天然にできた鉱物繊維で「せきめん」「いしわた」とも呼ばれています。石綿は、熱、摩擦、酸やアルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っており、建築材料など様々な工業製品に使用されてきました。
 石綿は繊維が極めて細いため、研磨機、切断機などの施設での使用や飛散しやすい吹付け石綿などの除去等において所要の措置を行わないと石綿が飛散して人が吸入してしまうおそれがあります。以前はビル等の建築工事において、保温断熱の目的で石綿を吹き付ける作業が行われていましたが、こうした使用は1975年に原則禁止されました。
 その後も、スレート材、ブレーキライニングやブレーキパッド、防音材、断熱材、保温材などで使用されましたが、現在では、原則として製造等が禁止されています。

石綿(アスベスト)による健康障害のメカニズム
 石綿(アスベスト)は、ヒトの髪の毛直径(約40μm)よりも非常に細く(クリソタイルの直径0.02−0.04μm、角閃石族石綿の直径0.1−0.2μm)、肉眼では見ることができない極めて細い繊維からなっています。そのため、飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸入されてヒトの肺胞に沈着しやすい特徴があります。吸い込んだ石綿の一部は異物として痰の中に混ざり体外へ排出されます。しかし、石綿繊維は丈夫で変化しにくい性質のため、肺の組織内に長く滞留することになります。この体内に滞留した石綿が要因となって、肺の線維化やがんの一種である肺がん、悪性中皮腫などの病気を引き起こすことがあります。
 石綿繊維は細くて長いものほど有害性が高くなるといわれています。肺内に滞留した石綿繊維を白血球の一種であるマクロファージが排除しようとしますが、長い繊維は排除されにくく体内に長く滞留するためと考えられています。
 また、発ガン性は、石綿の種類によって異なり、角閃石族石綿のクロシドライト、アモナイトの方がクリソタイルよりも発ガン性が高いとされています。

石綿(アスベスト)による関連疾患
 石綿との関連が明らかな疾病としては、次のものがあります。
 1. 石綿肺
 2. 肺がん
 3. 中皮腫
 4. 良性石綿胸水
 5. びまん性胸膜肥厚
 このうち、石綿肺、中皮腫は石綿ばく露の特異性が高い疾患です。また石綿ばく露の医学的所見として重要な胸膜プラーク(肥厚斑)も石綿ばく露の特異性が高い所見です。一方、肺がんや胸水貯留、びまん性胸膜肥厚は石綿以外の原因でも生じるため、石綿ばく露の特異性が低くなります。とくに、肺がんでは喫煙が重要な危険因子となっています。
 石綿関連疾患は石綿ばく露開始から発症までの潜伏期間が長いことが特徴です。石綿肺、肺がん、中皮腫、胸膜プラークと石綿粉じんばく露量、潜伏期間との関係については、図のようになります。胸膜プラークや中皮腫は石綿肺や肺がんよりも低濃度ばく露で発症することが知られています。
石綿によっておこる主な疾患と部位

石綿粉じんのばく露量と潜伏期間(Bohlig 1975を一部修正)

石綿(アスベスト)による健康被害の実態
 石綿による健康被害と言われている中皮腫の患者は年々増えつづけています。厚生労働省の人口動態統計によると、1960年代の石綿輸入量の増加した時期に潜伏期間(平均約40年)を加えた時期にあたる最近において急増してきています。2004年に中皮腫で死亡された方は953名となっており、1995年の倍近くになっています。一方、石綿にさらされる業務による肺がん、中皮腫として労災補償を受けている方々も1990年代から増えており、2004年には186名(肺がん58名、中皮腫128名)となっています。

石綿輸入量と中皮腫発生動向

石綿による肺がん・中皮腫の年次別労災認定件数


 平成16年度以前の石綿ばく露による肺がん、中皮腫の労災認定件数を業種別にみると、最も多いのは製造業で全体の約60%であり、次いで建設業で約30%を占めています。製造業のなかでは、窯業または土石製品製造業が約40%を占め、次いで船舶製造業(修理業を含む)が約35%を占めています。肺がん、中皮腫それぞれ、認定件数が多い業種は同様な傾向を示しています。

全然関係ないと思っている貴方
石綿(アスベスト)を正しく知れば無関係ではいられなくなるのです。

(07.02.25)