国の基本政策とは何か
−労働者の願いに反する基幹労連の提言−
今年5月7日に発行された「川重労連ニュース」第57号に、基幹労連が提唱している「国の基本政策についての要旨」(以下「基本政策」)が出ています。
基幹労連では今年9月の定期大会で「基本政策」の最終報告をする予定ですが、その要旨を見る限り、憲法改悪によって自衛隊海外派遣を目指したり、労働者・国民の利益よりも大企業のもうけを優先させる内容になっています。以下、それらを詳しく取り上げてみたいと思います。
注)基幹労連:正式名称は「日本基幹産業労働組合連合会」。2003年9月9日、旧鉄鋼労連、造船重機労連、非鉄連合の3組織が統合されて発足した。大企業中心の組合で、組合員の減少、財政悪化から組織の建て直しを図るのが目的だったといわれる。2008年現在730組合(単組・支部)、25万人が加盟する。川重労組を含む川重労連も加盟している。
1.組合と国政の関係
政党と労働組合は別物です。
労働組合は思想信条の違う人達が、労働条件その他の労働者の利益を守り、生活の向上を目指す組織です。当然それは企業から独立した存在です。
一方の政党は、思想信条を同じくする人達が労働者だけでなく、国民全体を対象とした国政全般について政策を作り、議会を中心として行動します。
だからといって、労働組合が国政について発言を行ってはならないということではありません。逆に政党に対して提言を行ったり、共同行動を行うことは労働者の利益に合致する限りにおいて当然だといえます。
そうした上で今回の基幹労連の「基本政策」に対する川重労連ニュースの冒頭を見ると、
私たちが求める社会、例えば『働く者の安定と安心の確立』、『国民生活の向上・発展』を実現させていくには、労働組合が取り組んでいる労働条件の改善や産業の発展に関する取り組みだけでなく、日本が発展していくための国のしくみ、国と国民の安全、他国との関係、学校教育等、広範な問題についても取り組んでいく必要があります。
とか、
『国の基本政策』については、組合員個人によってさまざまな意見があって当然です。従って組合員ひとり一人の思想・信条を縛るものではありません。
と、言葉の上ではなんら問題のあるような表現はありません。
しかしながらその詳細を見ていくと、労働者の利益に反するような項目がいくつも出てきます。また、基幹労連ならびに傘下にある川重労連は実態として民主党やその候補を支持しています。
以下に述べる「基本政策」も民主党が主張するものとほぼ一致しており、組合員の思想・信条の自由に反する内容が含まれています。同時に労働者の利益に反して許容できないものもあります。
2.憲法問題と自衛隊の海外派兵
「基本政策」はその半分が憲法と自衛隊の海外派兵に関するもので占められています。
まず憲法ですが、各種の世論調査でも憲法を改正する・しないで国論が2分しているのに、「堅持すべきものは堅持し、改めるべきは改め、そして追加すべきものは追加していく必要がある」(基本政策1−1)と、部分的にでも改憲を容認する立場に立っています。また、民主党が2007年7月に出したマニフェストも同様に改憲もやむなしとの表現になっています。
安倍前政権は、憲法改正の入り口となる「国民投票法」をゴリ押しで国会を通した後、改憲を公約に掲げて昨年の参議院選挙に臨み、惨敗しました。その後政権を引き継いだ福田内閣は改憲を正面に掲げることはしていないものの、改憲を完全に諦めたわけではありません。
このような政治状況で、「基本政策」も同じく改憲を容認する立場は、労働者を含む国民世論を反映したものではありません。しかも最も大きな焦点である憲法9条改正については、新聞などのアンケートで改正すべきでないとする人が次第に増えつつあり、半数を超える状況になっています。
また、自衛隊に対する態度も「『国連安保理決議に基づいて行われる活動であること』『派遣にあたっては国際平和協力法の5原則』を遵守したうえで参加すべきである」(基本政策2−3)としており、これは憲法違反の自衛隊の海外派兵以外の何ものでもありません。
民主党は先の「テロ対策特措法」で政府与党が衆議院の再可決によって自衛艦再派遣を強行した際、「恒久派遣法」を提案して憲法違反である自衛隊の常時派遣が可能になるよう提案しました。
これも憲法に対する態度と合わせて、労働者・国民の願いに反するものです。このような民主党の主張と瓜二つの主張を掲げた「基本政策」は、平和を愛する労働者の利益に反するものです。
3.大企業の利益を擁護する主張
「基本政策」には大企業の利益を代表する立場での主張も見られます。
例えば、石油やレアメタルの問題では外交政策にも言及して、他国の資源ナショナリズムが日本の産業発展を阻害する要因として指摘し、その打開を政府に求めています。しかしこの主張は、石油価格の高騰に見られるように、投機筋による価格吊り上げやそれに便乗して儲けを上げようとする大企業の意図については不問にされており、片手落ちの議論です。もし相手国と資源供給について対等平等の交渉を行うのならば、それを阻害している要因、例えば資源開発に伴う相手国の環境破棄を日本政府としてどれだけ取り除く努力をしているのかが問われているのです。大企業労組が多くを占める基幹労連の態度は、そのことにはまったく触れていません。
また、地球温暖化の問題も「基本政策」は取り上げていますが、原子力発電を温室効果ガス削減にもっとも効果が高いとして、推進を主張しています。
原子力発電は一見、化石燃料のようにエネルギーを発生させる際の二酸化炭素が発生しないので優れているように見えますが、熱効率が悪いこと、遠距離送電のためにロスが多いことが問題視されています。しかも建設コストが非常に高い。さらに核廃棄物処理、安全性、対テロ対策などの問題を解決する方法が確立していません。だから、代替エネルギーとしての原子力発電を制限あるいは縮小している国が出ているのです。
ところが日本の大企業と政府は、その設備の生産や建設費の大きさに目をつけて大もうけの目玉にしようとしています。しかし実態は相次ぐ事故、耐震性の甘さなどが露呈して彼らの思うようには進んでいません。それをあえて推進しようとする「基本政策」は国民の不安を無視するものですし、安全性に対する責任を国と電力会社だけに押し付けて原発メーカーが取るべき責任は不問にする無責任なものです。これも原発用設備を作っている基幹労連傘下の大企業の利益しか頭にないことから来るものです。
4.資本や政党からの独立を!
以上見てきたように、基幹労連が提唱している「基本政策」は、憲法改悪をも政策に入れている民主党に対する一党支持を組合員に求めるものであり、また組合員が働く大企業のもうけを増やすことを主眼に置いたものです。これが労働者の利益にかなうものであるはずがありません。
国政についての労働者の真の利益は、労働者の声を届けてくれる民主的議員との共同行動と、資本から独立した労働運動からしか得られません。
(08.07.04)