川重の「コンプライアンス報告・相談制度」

2005年7月14日、大橋社長名の「法令遵守」に関する示達が従業員全員にメール配信されました。内容は、橋梁事業の談合事件を受け、「全従業員に法令遵守の徹底をはかるとともに、大型構造物事業の最適な施策を講じることを宣言する」として、橋梁事業の分社化の可能性も示しています。同時に、「違反行為が行われた場合には、違反行為者に対して関係法令に基づく処罰があり得るほか、就業規則に従い違反行為者にしかるべき社内処分を行うこととなりますので、役員・従業員の皆さんは『違反行為は絶対に起こさない』という企業運営方針を肝に銘じて今後の業務を推進してください」と述べています。また、参事以上の幹部職員には、「違反行為を行ったときには、関係法令に基づく処罰があり得るほか、就業規則に従い社内処分を受けることを理解しています」といった文章を自筆で書き、提出するよう求めています。これは会社の責任を覆い隠し、違反行為を全て従業員個人に転嫁する人権侵害にもなりかねない内容です。

そもそも、「コンプライアンス報告・相談」制度ができた経緯は、2002年秋に川重の子会社である川崎造船がフィリピン実習生に対し、労働基準法や最低賃金法に違反していたことで坂出労基署から未払い給与5800万円の支払い命令を受けていたことや、2003年5月に日本飛行機が防衛庁に対し水増し請求していたことなどを受け、川重は2003年6月に「コンプライアンス報告・相談制度」新設し、運用を開始しています。この「コンプライアンス報告・相談制度」のガイドブックには、「競争入札や競売において、談合(官製談合を含む)、脅迫などにより公正さを損なう行為は行ってはなりません」と書かれています。にもかかわらず何故、今回のような談合事件に手を染め、逮捕者まで出す事態になったのでしょう。

川重の、「コンプライアンス報告・相談制度」では、社内に従業員からの「報告を聞き、弁護士が処理する仕組み」を作っています。この制度の仕組みは、ガイドブックに照らして正しくないことが行われていると思われた場合、外部の弁護士を通し、「コンプライアンス委員会」(営業企画部長、監査部長、総務部長、人事労政部長、法務部長、弁護士などで構成する)に報告・相談するというものです。「コンプライアンス委員会」の新設など形式的な体裁だけは整っていますが、今回の橋梁談合の逮捕者の中には営業総括部長や営業部長が含まれており、身内の直近で逮捕者を出すなど「法遵守」とはほど遠い組織であることがはっきりしたのではないでしょうか。
「コンプライアンス委員会」への告発は全て記名でなければならず、会社は匿名での告発を一切認めていません。一般従業員が氏名を明らかにして会社や上司が行っている不正行為を会社専属の弁護士や人事労政部に告発できるでしょうか。要するに川重が行っている「コンプライアンス」は、内部告発が外部に漏れないよう、事前に把握するためのものとしかなっていないのが実情です。

また、ガイドブックでは「個人は加害者であり、会社は被害者である」と強調しています。これは「コンプライアンス違反」は個人が個人の利益を目的として犯すものと決めつけ、会社が組織として犯す可能性を否定し、会社の責任を個人に転嫁するものです。今回の談合事件では二人の逮捕者を出しましたが、その後の捜査で政官界を含む業界ぐるみで行われていたことも明らかになってきています。このことは個人の裁量で起こしたものではなく会社の営業活動の中で起こした不正行為であることを示しています。個人にその責務を転嫁するのは筋違いです。逮捕された二人は会社の意思に従い業務として行ったもので、個人の利益を目的に不正行為を行ったのではありません。川重は逮捕された二人が起訴猶予になったことだけを強調し、労組や従業員への説明もなく早々と「橋梁部門の分社化の検討を加速させる」とホームページで表明していますが、くさいものを切り捨てるだけでは会社として社会的責任を果たしたことにはなりません。
もともと「コンプライアンス報告・相談制度」は、社会に対して二度と不正行為は行わないと宣言し設立された制度です。幹部職員や従業員に責任転嫁するのではなく、会社として真摯に反省し、社会的責任を果たすべきではないでしょうか。

(05.08.14)