CSRは行動によって評価される

CSR報告書2010から見えてくる理想と現実

 「CSR(Corporate Social Responsibility)報告書2010」・・・。
 2010年10月、川崎重工グループの従業員へ一斉に配布されました。
 職場では、「なんでまた、こんなに金を使ってこんな冊子を配布するんだ?」、「4社合併と何か関連があるのか?」、「いいこと書いてあるやないか」などなど、いろんな声が飛び交っています。
 「CSR」は、 「企業の社会的責任」と訳されますが、この「CSR報告書2010」から見えてくる理想と、いろんな職場の現実を見ていきたいと思います。

1.長谷川社長が語っていること

 「私は、川崎重工グループのミッション(使命)は、事業そのものによる社会への貢献に加え、あらゆる企業活動の局面においてステークホルダー(利害関係者)に対する責任を意識して行動することと考えています。」と、CSRへの取り組むべき姿勢を語っています。

 職場では、「社長の言う通りや。何かを言ったり書いたりするんじゃなくて、どんな行動をするかで、社会的に認められるもんな」という声が、あちこちで聞こえてきます。

 また、こんな声も聞こえてきます。「どんな行動をするか、じっくり見ていこう」 と・・・。

2.川崎重工の過去の出来事

 2009年10月、最高裁は、ごみ談合裁判で川崎重工他4社に対して、東京高裁判決を支持し、川崎重工他4社の上告を棄却しました。
 2005年5月、鋼鉄製橋梁談合事件で、川崎重工社員も2名逮捕されるという、ショッキングな事件もありました。

 職場では、「あの頃は、川崎重工に勤めているとは言えなかったもんな」、「橋梁談合事件の時は、コンプライアンス違反だの、誓約書に捺印しろだの、お客さんとの会話記録を付けろだの、大変だったな」 などなど本当に辛く恥ずかしい思いをしたことなど、今も事あるごとに話されています。

 過去・現在・未来・・・。川崎重工グループは、1999年より「環境報告書」を発行していましたが、2006年より「環境・社会報告書」と改めたことは、先のショッキングな事件と無関係とは言えません。
 未来を語るためには、過去を真摯に反省して、現在を自他共に認めるCSR実行企業としての、地位を築く必要があります。

3.川崎重工が示すCSRの自己評価

 自己評価は、★の数で行っています。どこかのバラエティ番組に似ていますが、「★:これから取り組みたい〜★★★★:十分だがさらに向上させていきたい」という評価内容になっています。

 評価結果は、全評価項目31項目中、★★★★が42%、★★★:32%、★★:16%、★:10%でした。

 職場では、「★★★★と★★★を合わせると7割以上じゃないか。これじゃ、自己評価というよりも自己満足と言われかねないよ」という声が聞こえています。

 肝心要の「CSR全般:『上記を社内に周知し、全従業員が認識している』」という項目で、★という結果でした。
 会社の思いは★★★★ですが、実際に仕事をこなしている従業員が認識していないということは、会社のやっていることは、★ということになります。

4.きらりと光る「CSR報告書2010」

 職場では、もう一つ前向きの声が聞こえていませんが、「テーマ3:ずっと働きたい職場をみんなでつくります」という箇所では、共感の声が聞こえていました。
 「当社グループでは『人材』を、財産(宝)という意味を込めて『人財』と表現し、すべての従業員のあらゆる階層において、一貫した人財の育成・強化を図っています。」と書かれている箇所です。

 職場では、「確かに、事務・技術職にはISO研修から幹部職員育成研修に至るまで、幅広く会社は金を使っているな」・「生産職では、匠(たくみ)塾や範師制度を導入して技能の向上を図っているな」などなど、会社のやっている行動が見えています。
 しかし、技術や技能・管理能力を育成し向上させることが、『人材』を『人財』に変えることなのでしょうか。職場の仲間の声を聞いてみましょう。

 ある基幹職の人のつぶやきに、こんな声もありました。「組合員はいいよな、なんやかんや言っても、働いた分だけ最近は残業も付くけど、基幹職になったとたんに、時給は学生のアルバイト代以下になった感じだよ。いくら遅くまで働いても休みに働いても給料は決まっているしな・・・。」
 ある組合員の人のつぶやきには、「何人もの上司からいろんな仕事を持ち込んでこられて、クタクタだよ。テレビのコマーシャル宣伝にあった、背中に何人もの上司を背負った映像が頭に浮かぶよ。この人手不足をなんとかしろよ・・・。」

 派遣社員の人のつぶやきには、「本工さん以上の仕事をやっても、給料は安いし、細切れ契約で、契約更新前には眠れないよ。それと、契約する所は資材扱いで、会社の人事とは無関係だしね。『人材』の『人』の箇所が感じられないよ。まさに『資材』だよ。」などの声が聞こえています。

 会社は、本気で職場の声を聞く耳を持たないと、「CSR報告2010」が空文句になってしまいます。

 「テーマ3:ずっと働きたい職場をみんなでつくります」に共感の声をあげている、たくさんの職場の仲間。
 職場は、基幹職の人・組合員の人・派遣社員の人などなど、本来、皆が協力してつくりあげていく場です。

 職場の仲間は、皆、会社が自ら宣言した「・・・財産(宝)という意味を込めて『人財』と表現し、すべての従業員のあらゆる階層・・・」に、どんな行動で取り組んでいこうとしているのかを見ています。
 企業は人なり。この言葉は、企業繁栄の要です。単なる技術や技能・管理などの物づくりノウハウの育成・強化だけでは、人は育たないと思います。

 「すべての従業員のあらゆる階層」の人たちが、会社から「人財」として認めてもらっていることを実感し、協力し合える人間関係が育成されたなかから、すばらしい物づくりが実現して、社会からも認められ、名実共に・・・きらりと光る、「CSR報告2010」・・・の実現に繋がるのではないでしょうか。

 私たちは、会社がCSRで掲げる理想と、職場の実態のちがいをひとつひとつ解決しながら、働き甲斐のある企業になるよう働きかけていきます。

(11.02.10)