ディーセントワークとは?
最近マスコミ報道などで「ディーセントワーク(decent
work)」という言葉が時々出てきます。
ちょっと判りづらい、日本語に訳しにくい英語ですが、「働きがいのある人間らしい仕事」とでも言えばいいでしょうか。
ではディーセントワークとは何なのか、日本における労働者の現状と問題点を明らかにしながら、この言葉の意味を考えたいと思います。
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写真はILO第89回総会 |
ディーセントワークという言葉の始まりは1999年、現在のファン・ソマビアILO事務総長が第87回総会において、就任演説で行ったILOの理念・活動目標として表明した言葉です。
その後、2007年に開かれたILO第96回総会における一般的討議で、「持続可能な企業は成長、富の形成、雇用、ディーセント・ワークの主たる源である」とする結論が採択されました。ILOとして企業の社会的責任のひとつとしてのディーセントワークの重要性が確認されたわけです。
ILO駐日事務所が発行しているチラシによれば、ディーセントワークを次の4つの目標として展開しています。
1.仕事の創出
2.仕事における権利の保障
3.社会保護の拡充
4.社会対話の推進と紛争解決
ただ、これらの目標はILOの条約のように加盟各国の法律や政府の行動を拘束するものでなく、それぞれの国の実情に応じた行動計画目標を立てるという原則になっています。それは各国のレベルが現状ではすべて同じではないとされているためです。
厚生労働省のホームページでは、「我が国としては、『ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)』を、以下のように整理している」として、ディーセントワークの理解と目標を以下のように定義しています。
◎ ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)とは、人々が働きながら生活している間に抱く願望、すなわち、
(1) 働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること (2) 労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること (3) 家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティーネットが確保され、自己の鍛錬もできること (4) 公正な扱い、男女平等な扱いを受けること
といった願望が集大成されたものである。 |
◎ ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を図るためには、各国は、以下の4つの状況に照らし、国内事情等に応じそれぞれに達成可能な目標を立てることが重要である。
(1) ILOで制定された労働に関する国際的な基準(条約等)の適用状況 (2) 雇用と収入の確保の状況 (3) 社会的保護や社会保障の適用状況 (4) 政労使三者を含む関係者による対話促進の状況 |
このことを踏まえ、各地の労働局ではさらに具体的な方針を定めています。
先に書いた政府の目標とは裏腹に、日本国内ではディーセントワークとは程遠い実態になっています。それは昨年末、トヨタを皮切りに大企業が相次いで非正規社員を切り捨て、大量の労働者が職を失ったことからも明らかです。しかもこのような大量失業が発生した根源には、ILOに代表も出している大企業が、ディーセントワークの目標よりも利益を最優先させるていることと、その大企業の意を受けて労働者派遣法など政府が作った法律に大きな原因があります。つまり目標を作りながら一方でそれに反する状態を自ら作り出しているのです。
その矛盾を、政府が作った「願望」と派遣労働者の実態で比べてみましょう。
(1)の「働く機会があり、持続可能な生計に足る収入」に説明の必要はないでしょう。「ワーキングプア」とか「ネットカフェ難民」などという言葉がマスコミをにぎわせていることがすべてを物語っています。職を奪われた労働者には「犯罪、自殺、ホームレス、餓死」の4択しかないとさえ言われているのです。
(2)の実態として、日雇派遣などでは劣悪な条件で働かされ、派遣先に対するクレームは「それは派遣元に言ってくれ」などと、無権利状態にあります。最近はやっと偽装請負や派遣期間途中での一方的打ち切りなどの違法行為に対して、労働組合を結成してたたかうという機運が始まったばかりです。
(3)も同様です。年収200万円以下が1000万人を越え、給与所得者の4人に1人以上にもなっている状態は、結婚すらままならず、少子化にさらに拍車がかかります。また、日雇派遣には雇用保険も適用されない、当然自らの職業訓練の費用も捻出できないという状態にあります。
最後に(4)に至っては、派遣労働者に「同一労働同一賃金」という原則もない、派遣から正社員になる道は非常に狭いなど、法律としてもまだ多くの不備があります。
以上のことから見えてくるのは、今の日本ではおおよそ先進国とは呼べないほどの劣悪な労働条件が存在し、政府が定めたディーセントワークの目標の達成どころか、それに逆行する事態が今も進行しているということです。しかも「政」と「使」が一緒になって労働者派遣法のようなディーセントワークに反することを法の名で積極的にやっており、政府の目標はそれをごまかすための看板として使われる危険性を持っているのです。
もちろん労働者は黙って見ているわけではありません。偽装請負の告発をきっかけに派遣労働者が組合を作って企業との交渉を行ったり、「年越派遣村」に集まった労働者が厚生労働省に宿泊場所を確保させるなど、これまでになかった動きが出てきています。
労働団体としても、連合、全労連それぞれがディーセントワークをテーマとしたフォーラムや集会などを開いていますし、個々の産別や労働組合単独でもディーセントワークの実現ということを運動方針に掲げるところが出てきています。
政党レベルでも、ディーセントワークということを念頭に置いた発言が出始めていますが、特に日本共産党は99年、不安定雇用を大量に発生させる派遣労働の「原則自由化」を認める、労働者派遣法の改悪に唯一反対しました。同じ年にディーセントワークと言う概念がILOに提起されていますが、その言葉が世に出る以前から、日本共産党はディーセントワークの実現に向けてたたかってきました。
もちろんディーセントワークを名実ともに実現するためには、労働者・国民が一体となって大企業や政府に要求をつきつけ、労働条件の悪化を防ぐ必要があります。そのことはまたILOの精神とも合致し、世界的にも人々をはげますものになるでしょう。
(09.01.25)