「偽装請負」が社会的大問題になっています
あなたの周りにもありませんか?
●「偽装請負」とは何ですか?
「請負」とは本来注文主から独立して仕事の完成または業務の処理を行う民法上の契約のことで、この場合注文主が作業に従事している労働者を指揮命令することはできません。ところが今、請負契約なのに、注文主が請負業者の労働者を指揮命令するケースが横行しています。これが「偽装請負」です。
●「偽装請負」の5つのパターン
(1)代表型――請負という形式を装いながら、実態は発注者が指揮、管理するパターン。
(2)形式だけ責任者型――請負を指揮、管理すると違法になることを知っていながら書類上、請負業者を責任者として違法を逃れようとするパターン。
(3)使用者不明型――社員と複数の請負や派遣労働者が混在する中で、同じ作業をしていながら、どこに雇われているのか誰が責任者かもわからなくなってしまうパターン。
(4)一人請負型――「一人親方」のように一人で仕事を請け負っている形式にしてしまうパターン。これは請負業者の責任すら免れようとするもので、労災の対象ともならない。
(5)派遣会社からの出向という形をとるパターン――出向という形式では、請負だと違法になる工場からの指揮命令が可能になります。これについて厚生労働省は職業安定法が禁じている労働者供給事業にあたるとの判断で是正を求める方針です。
●何が問題ですか?
使用者は労働者の労働提供によって事業を運営し、大きな利益を上げることができます。その代わりに労働者に対して多くの法的責任負担が義務付けられています。現行法では、(1)労働者保護法(労働基準法、安全衛生法、均等法など)、(2)労働組合法、(3)労災保険、雇用保険、(4)健康保険、厚生年金保険、(5)税金源泉徴収など広範囲に及びます。そこで悪質な使用者は、これらの責任負担を回避しようとして悪知恵を働かせています。そのひとつが「偽装請負」をはじめとする「間接雇用」の導入です。労働者を直接雇用する代わりに、別の業者に雇用させてそこから業務請負(構内下請け)という名目で受け入れるという「労働者供給事業」の利用です。
●間接雇用はどこが悪いのですか?
間接雇用の場合は、実際に労働者を使う企業がこれらの雇用責任を負わずにすみます。企業にとっては、人件費コストが安く、必要なときに必要なだけ労働者を物のように使うことが出来る都合のいい形態です。このため、大企業の製造現場や情報通信業界などでは取締りをかいくぐって活用してきました。
間接雇用は、戦前の日本で広がり、大きな弊害を生み出しました。労働者は法による保護を受けずに悪質仲介業者らによる中間搾取やたこ部屋などでの非人間的労働を強制されました。戦後の労働基準法は国際労働基準を反映して間接雇用の弊害排除と民主的労働関係形成の前提として強制労働禁止、中間搾取禁止等を規定しました。また、職業安定法44条は請負形式による労働供給と供給受け入れを禁止しました。これらの規定は労働者を指揮命令し労働提供を直接に受取り、その労働によって最も利益を受ける者が使用者としての法的責任を負うという直接雇用原則を明確にしたものです。その後、規制緩和の流れの中で1985年制定の労働者派遣法が一定の要件を満たす場合に限って「派遣労働」という間接雇用を容認し直接雇用原則を後退させました。その後度重なる法「改正」で対象業務は拡大され続け、1999年には原則自由化されました。2003年には製造業務も解禁されました。
●どうして増えるの?
構内請負という形での「偽装請負」は1985年の労働者派遣法の制定以前からありましたが、これほどまでに「偽装請負」が蔓延するようになったのは労働者派遣法の「規制緩和」が進められた90年代以降です。本来労働者派遣は一時的臨時で常用雇用の代替としないことを前提としていました。これに反して2004年からは製造業を営むほとんどの業種で派遣が可能となりました。この時期大企業はグローバル競争に勝つための「コスト削減」などとしてリストラと採用抑制をすすめ、正社員を切って派遣、請負など非正規雇用に置き換えていきました。派遣業者はこうした要求にこたえて製造業に売り込み中間搾取をすることで大きな利益を得、急成長ました。
●派遣労働とどう違うの?
労働者派遣は派遣会社が雇用する労働者を企業に貸し出す仕組みです。労働者は雇用関係のない企業で仕事の指揮命令を受けて働きます。そのため労働条件や解雇・雇い止めをめぐるトラブルが起きやすく雇用がいっそう不安定になります。労働者を貸し出す業者から中間手数料が差し引かれますから賃金も直接雇用より安くなりがちです。労働者と企業の間でトラブルが起きた場合労働者は雇用主の派遣会社と交渉することになりますので、労働者の立場に立って派遣会社が企業に是正を求めることは期待できません。言いなりになるのが通常です。
●私も正社員になれるの?
大企業が使い捨てにしてきた請負労働者の偽装請負の告発、直接雇用を求めるたたかいによって正社員化への道が切り開かれています。「偽装請負」は実態が派遣労働なので、派遣契約の期間が原則3年(製造業で1年)を越えれば派遣労働法に基づいて、派遣先は労働者の直接雇用に努力し、直接雇用を申し込む義務があります。
トヨタ自動車傘下の光洋シーリングテクノは06年8月に請負労働者の三分の一程度を期間工(6ヶ月)として直接雇用することを労組に表明しました。キャノンではグループ会社での偽装請負に対して厚生労働省の指導が入り数百人をめどに正社員化する予定です。
(07.01.21)