「はぐるま」 2020年 夏季号
NO.244



網走近郊(Y.N)
Contents
 川崎重工 〝必死になって頑張る人〝を評価し応援する人事処遇制度を提案
「生計費原則」の否定は大企業の社会的責任の放棄ではないか
 大河
 労働者派遣法の脱法的な運用は大企業の社会的責任に反する
 読者の広場
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川崎重工
”必死になって頑張る人”を評価し応援する人事処遇制度を提案
生計費原則」の否定は大企業の社会的責任の放棄ではないか


6月25日の株主総会後に、新しく選任された橋本康彦社長から、川崎重工グループの皆さんと、幹部職員にそれぞれ「メッセージ」が発信されました。

その直前に開かれた労働協議会において、「一般従業員及びパートナー社員の処遇制度の見直し」が提案されました。

それらの社長メッセージと「見直し」提案に含まれる重要な問題点について、考えてみたいと思います。


「総労務費の圧縮」は「人財」を「コスト」として見ていないか?

社長メッセージでは、コロナ禍により「業績は大きく低迷する可能性」があると危機感を訴え、「総労務費の圧縮」のために、幹部社員についても「身を削る対応」を実施するとしています。

経営が厳しければ、幹部社員の身を削っても良いのでしょうか。幹部の次は一般従業員への適用でしょうか。

2004年に導入されたTARーGET(現行の処遇制度)の時も、経営状況が厳しいという理由でした。下のグラフを見ると、導入前年から2010年までの7年間に、内部留保も配当金も増えているのに、平均基準賃金だけが月額3.4万円もダウンしています。

会社は、「従業員は最も重要な財産であると考え、『人財』と表現」する宣言していますが、「人財」を「コスト」として扱っているようにしか思えません。グラフをさらに見ると、2010年以降徐々に平均基準賃金が上昇しています。この傾向を抑える対策として、今回の「見直し」提案を持ち出したのではないかと推察されます。

「頑張る人を人事面でも、報酬面でも評価」は何をもたらすか?

社長メッセージでは、「会社を変えることに必死になって取り組める人事制度や、給与体系も整備していき、頑張る人を人事面でも、報酬面でも評価し、応援」するとしていますが、従業員一人当たりの売上高は10年前から約1.3倍伸びており、従業員は十分に頑張っているのではないでしょうか。これ以上に必死な頑張りを求めれば上司のパワハラがまん延し、支え合い助け合う風土が壊れてしまう恐れがあります。

三菱電機では、昨年8月にパワハラによる新入社員の自殺がありました。必死な頑張りを強制すればこのような事態がおこることも予想されます。

「生計費原則」の否定は大企業の社会的責任の放棄では?

TAR―GETが導入される以前は、定昇(平均約5千円)や年齢給で年々賃金が上がり、それに家族手当もあり、将来に対し安心感がありました。今回の「見直し」提案は、年齢給として唯一残っていたLS手当を、「生計費見合いとして年齢に応じた定額を支給しているが、職務や能力に関係なく賃金が上下する」との理由で廃止ということです。これからは、生活実態(結婚、子育て、持ち家等)に関係なく「能力と役割」で賃金を決めるというものです。

職場からは「家族手当は復活するのか」「LS手当は生活する上で重要であり、無くなるのは不安」「A1の職能給17万円では手取賃金だともっと減るので生活がギリギリ」との声が上がっています。

昨年発表の「最低生計費試算調査」によれば、若者が自立して人間らしく暮らすには、全国どこでも月額22~25万円が必要とあります。提案のA・G系列の最低職能給基本額の17万円では、とてもそれに届きません。

憲法第25条では、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定め、労働基準法第一条では「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と規定しています。また、ILOの国際基準では、賃金は最低生活の水準として、「生計費」あるいは「労働者とその家族の必要」、「労働者の家庭生活に不可欠な需要」で決めると定めています。

憲法や国際基準に反するような人事処遇制度を策定することは、他企業や国内だけでなく、国際社会に対しても極めて否定的な影響を与えます。これでは、社会的責任を放棄することになるのではないでしょうか。

処遇制度で、他に気になる点

●15年間昇進しなかったら、毎年、習熟加算累積額に80%を掛けて圧縮するとしており、58歳以前にも減額になる人が多く出るのではないか。

●組替時調整給は、3年目で解消される(R系列は移行の年だけ保障)ので、基準賃金が大幅に減額される人が出るのではないか。

●V系列からA系列への系列転換で、「V系列の従業員が希望し、会社が認めた場合はA系列に転換する」とありますが、「希望」を強要されないだろうか。

これまで、経営が苦しくなると人件費の削減で乗り切ろうとする安易な経営姿勢が見られました。いま戦後最悪の感染症に遭遇しているわけですから、こういう時こそ5,000億円以上もある内部留保を活用すべきです。

そして、今後も新しい感染症への対応は避けられないと言われています。経営陣には、「投資家ファースト」から「働く人々ファースト」へ、大転換する「自覚と覚悟」が、求められているのではないでしょうか。



【大河】
世界のコロナ感染者数は2000万人を突破し、死者74万人超(8月12日現在)、その勢いは止まりません。それと共にコロナ禍は、社会の矛盾を鋭く暴き出し、パンデミックを収束させるための課題を、世界に突きつけています。

その一つは、世界にまん延する新自由主義です。資本の目先の利潤の最大化や、効率至上主義、自己責任の押し付けなどで、どの国も医療や介護等の命を守る仕事が切り捨てられ、差別が拡大し、社会を脆弱にしています。

日本も同様で、医療崩壊が起こったとされるイタリアと比べ、人口比でICUが半分以下、医師数も6割程度です。全国の保健所はこの30年間で約半分に削減されました。一方、辺野古新基地建設を続け、米国製の超高額兵器を「爆買い」しています。国民の命よりアメリカと財界を優先する政治が際立っており、その点、日本はより深刻です。

いま、感染者は「第1波」を大幅に上回っています。感染拡大抑止のためには、PCR検査を大規模に実施し、陽性者を隔離・保護する以外にありません。にもかかわらず、安倍政権は、国民に協力を求めるばかりで、反対に感染拡大を加速させる「Go Toトラベル」を続けています。

コロナ以外に、7月の豪雨災害もあったのに、安倍首相は国会に出席せず、まともな記者会見もしていません。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求には応じず、憲法に抵触する敵基地攻撃能力の保有等の検討については「速やかに実行に移していく」と表明しています。8月の広島・長崎の被爆者団体代表からの核兵器禁止条約への署名要請に対し、「わが国のアプローチとは異なる」と否定するなど、いったいどこの国の首相なのでしょうか。

国民の命と暮らしにまったく無頓着で、国会も開かないで、自分の保身だけを考える首相には退陣を願いましょう。



 労働者派遣法の脱法的な運用は大企業の社会的責任に反する


コロナ禍の「派遣切り」は厚労省等の要請に反する

新型コロナ禍のもとで、厚労省、経団連が各企業に派遣労働者の「雇用維持」を要請しました。それにも関わらず、明石工場のMC&Eカンパニーでは、5月末に多くの派遣労働者が「雇止め」をされ、職を失いました。

この「派遣切り」について、会社は今年の株主総会で、「6カ月間の有期の労働者派遣契約が満了したことに伴うものである。新型コロナウイルスの影響を受けたこと…そのことよりも、例年の二輪車事業の特性から同じようなことをやっており…4月、5月、6月の契約終了時点で更新しないと判断したもので、…社会的責任を果たしていないということはない」と説明しています。

「例年」とは異なり極めて厳しい経済情勢なので、厚労省等が「雇用維持」を要請しているのですが、ここにはコロナ禍における派遣労働者の雇用を守る考えはありません。

人件費を抑えるための派遣労働は国際基準に反します

今回の雇止めされた派遣労働者の中には、3年を超えて働いている方や、1ヵ月ごとの雇用契約の方もいました。

労働者派遣法では、1985年成立以来から、常用代替のの防止(すなわち正社員を派遣労働に置き換えてはならない)を大原則とし、派遣を臨時的・一時的な業務に限定しています。しかし「例年…同じようなことをやっており…」との株主総会の発言にあるような、常用代替を繰り返す働かせ方は、派遣法の趣旨に反する脱法行為そのものです。

ILOは、「労働条件を国際競争力の手段としない」という考えのもとに国際基準を定めています。人件費を抑えるために派遣労働の乱用は許されません。

「雇用安定措置」の厳格な運用を

労働者派遣法では、次の「雇用安定措置」を派遣元事業主に義務付けています。(2015.9.30施行)

この措置は、「特定有期雇用派遣労働者」が、派遣先の同一組織単位(課)で3年継続して勤務した場合に、次の4つのいずれかの措置を義務付けています。3年未満であっても1年以上継続して勤務が見込まれる時点で、同様の努力義務が課せられます。

①派遣先へ直接雇用の依頼
②新たな就業機会(派遣先)の提供
③派遣元での(派遣労働者以外としての)無期雇用
④教育訓練その他雇用の安定を図るための措置(紹介予定派遣等)

この「措置」の厳格な運用にには、派遣元の努力だけでなく、派遣先の積極的な支援が必要です。しかし実際は、この「措置」や派遣契約の中途解除を回避するために、契約期間を短くして逃げている状況です。

2015年のILO総会は、非正規労働から正規雇用への転換を促進する「勧告」を圧倒的多数の賛成で採択しました。日本の政労使代表も賛成しました。

財界の意向を強く反映した労働者派遣法の抜本的改正で、低賃金で不安定な働かせ方を改めさせ、正社員が当たり前の職場を築いていきましょう。

※「派遣先の同一の組織単位で1年以上継続して労働に従事する見込みのあるもので、契約終了後も継続して就業することを希望する者」 今回、MC&Eカンパニーで「雇止め」された派遣労働者も含まれています。


読者の広場 
新しい人事処遇制度って?
新しい人事制度が発表されましたが、正直なところ自分がどうなるのか分からないですね。頑張る人が報われる人事制度になっているのか、本当なんでしょうか?

これだけ大きな変更なのに今後ちゃんとした説明があるのか心配です。

どこかの総理大臣と違って、丁寧な説明をお願いしたいです。
(西神戸の星)
橋本社長のメッセージの一切の無駄とは何でしょう?
より広いマーケットの要請を第一に考え、新たな製品・事業として花咲かせることに取り組もうとの呼びかけには夢と希望があり賛同できます。

一方で効率的な働き方を実現するために一切の無駄を排除した働き方を要請されています。一切の無駄のない働き方がどんなものか考えてもイメージできません。

お茶を飲むのも、トイレに行くのも我慢する暗い職場が思い浮かびます。そんな異様で元気のない職場では新たな製品・事業を花咲かせるアイデアは出てこないでしょう。
(明石・もしかして私も無駄?)
新社長のメッセージに思う
新型コロナウィルス禍のなか、6月株主総会で新しい社長が誕生しました。

いつものように新社長のメッセージが発表されていますが、印象に残っているのは会社のためにチャレンジする人を優遇するというような内容が書いてあったと思いますが、このことが印象に残っています。

会社のために困難な仕事をすすんで取り組む人々が優遇されるというわけですが、努力したけれど赤字損失を出してしまった。この場合でも問題なく優遇されるのでしょうか?

いずれにしても、新社長は2020年度からの難しい経営手腕が問われることになるでしょう!
(神戸 T・K)
感染増えてますが…
第2波とも思われる感染者が日々増え始め、西神戸工場では、8月から通勤バスの臨時増便が再開。食堂の時差喫食や通勤手段の一時的変更の継続となりました。

アベノマスクの配布は見送られましたがGo Toキャンペーンは続行。帰省は、控えて下さい?とチグハグな政府。

私達は、何を信じたら良いのでしょうか?

PCR検査が、自社で出来たら良いのに…。
(世田谷モデル)
リモートワーク積極推進希望
非常事態宣言が解除されてからもコロナ感染者増えていきますね。

しかし、リモートワークを活用しましょうとのトップダウンがあるものの、西神戸ではほとんど利用されることが無くなりました。

5%の削減活動も経営陣から指示があるものの、中途半端になっている感じ。

せめて、些細な事で皆の仕事を止めるあの上司がリモートワークしていれば、5%以上の業務改善にも繋がるのになぁ。
(西神戸の働きマン)
副業も許可を!
年功序列の廃止、ひょっとすると終身雇用の廃止に向かうのは時代の流れから仕方がないかもしれない。しかし、ローカルルールばかりの職場で学んだことは他社では役に立たず、転職時に露頭に迷うことになりかねない。時代に追随するなら、副業も許可していただきたい。
(神戸・たこ焼き大好き)
コロナ対策の窮屈さ
6月下旬から職場の商談スペースのテーブル中央に対面のコロナ対策用簡易シールドが設置されました。

樹脂製の枠と半透明ビニールの自立型自家製のシールドで、わりとしっかりしています。

面談する業者とは、まるで拘置所の面会のようだと苦笑しながら打合せをしています。下部から差し出して資料を確認するもどかしさもあります。

早くこの窮屈さから解放されたいです。
(関連会社の一社員)
HPの記事に共感しました
この半年の間で、新型コロナはそれまで当たり前の日常生活を奪いました。食事会も飲み会も野球観戦も映画も買い物も全てに感染防止をよぎなくさせました。

日本だけではなく全世界が一致して取り組まなければならない課題となりました。自然の驚異を感じずにはいられません。命を守るために企業も個人も団体も組織も全てが、今までの当たり前を変えなくてはいけなくなったのです。

新型コロナとどう向き合うべきなのか、川重党委員会のHPの記事(2020.6.21付)を読んでそのことがよくわかりました。
(明石・社員A)


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