ジュンと飼い主の散歩 

  ジュンと飼い主の出会いは、熱い夏の夜でした。
 玄関を入るなり目に飛び込んできた小さな物体・・・。
 いや、ウサギ?小鹿???
 よーく見ると、何と大きな耳ばかり目立っている子犬ではありませんか。
 あれから17年、長い付き合いでした。
 元気いっぱいのジュンに、我が家の危機を何度となく救ってもらいました。
 公園の散歩もままならない状況に・・・。
 しかし、飼い主は、そんなジュンに教えられています。

1.「ジュンとの散歩」
 我が家の老犬ジュンは、1年くらい前から徐々に後足がヨボヨボ状態で、視覚・聴覚・臭覚もほとんど失っています。
 寒さが厳しいとはいえ、風の無い陽だまりの公園は暖かく、ジュンを連れ出して公園での久しぶりのひと時を過ごしました。
 以前は、公園を走り回っていたものですが、今は前足をうまく使いながら自由のききにくい後足を引きずり、ヨタヨタと歩くのが精一杯です。そんな時、口から「ジャリジャリ」と音がするではないですか。何かなと観察していると、何と土や枯葉をなめているではないですか。
 足もおぼつかなく、視覚・聴覚・臭覚もほとんど失っているので何の楽しみもないのかなと思っていましたが、「味覚」という手段を駆使して楽しんでいるようでした。改めて、我が家の老犬ジュンに何かを教えられたような気がする公園のひと時でした。

2.「枯葉舞う公園」
 枯葉舞う公園。
 陽だまりのベンチにたたずみながら、老犬ジュンを遊ばせながら、そして、読書をしながらゆっくりとした休日を楽しんでいました。
 本の上に枯葉が舞い落ちてきて、煩わしさを感じながらも、その都度、枯葉を払い落として本に集中していたところ、何やら、ガサガサと音がします。
 するとどうでしょう! 目も耳も足腰も覚束ない老犬ジュンが、吹き溜まりの枯葉の上で楽しそうに枯葉と戯れているではないですか。あの煩わしいと思っていた枯葉が、ジュンを楽しませてくれているのです。
 役目を終えた枯葉さん、ありがとう!!

3.「行き場のないジュン」
 我が家の老犬ジュンは、前方と左回りにしか歩けません。
 公園でジュンを遊ばせている時、チョット目を離すと姿が見えません。
 よーく目を凝らすと、ベンチの足の間に頭を突っ込んで身動きが取れないジュンを発見。
 その姿がを見てふと感じたことは、秘密保護法が成立して閉塞感を感じている自分の姿。
 そんなことを感じながら、ジュンをベンチの足の間から引っ張り出すとどうでしょう。また、ジュンは何もなかったように楽しそうに公園の中を左回りに、そして、楽しそうに散歩を始めました。
 安倍自公政権という狭いベンチの足の空間しか見えないと、身動きできずに閉塞感のみつのりますが、ベンチの足から抜け出すと空間が広がり、たくさんの仲間が見えてくる、そんなことを感じながら、今日も何となく老犬ジュンに教えられた一日になりました。

4.「前向きなジュン」
 今日も陽だまりの公園をヨチヨチと老犬ジュンの散歩。
 リードを引く手を弱めると、その場にヘタってしまうジュン。
 また、リードの引く手を強めると、また、ジュンは歩き始める。
 私が公園の風景を楽しんで足を止めると、ジュンは、またまたヘタってしまう。
 だから、ゆっくりと公園の散歩を私は楽しめない。
 最近、立っていることもままならず、後ろにも横にも動けないジュン。
 しかし、前向きに引く力を与えてやれば、ヨチヨチだけど前向きに歩めるジュン。
 そんな光景を見ていると、ふとヨチヨチ歩きの子供の姿と重なる。
 前向きに歩むには、何かの引く力が必要なのかな?と考えさせられる。
 公園の散歩は楽しめていないが、また、今日もジュンに教えられた散歩になった。

5.「パンの好きなジュン」
 お腹が空いたり、喉が渇くと悲しい声で鳴く老犬ジュン。
 ドッグフードを与えても食べようとせず、悲しい声は続く。
 水を与えても飲もうとせず、悲しい声は続く。
 鳴くことしか自分の意思を伝える手段のないジュン。
 近所の冷ややかな視線が気になる。チョット焦ってくる飼い主。
 そうだ!とひらめいた飼い主。ジュンはパンが大好きなのだ。
 パンを口元に差し出すと、むしゃぶりつくように食い付くジュン。
 いつしか、近所の冷ややかな視線も気にならず、無心にパンを食べるジュンを見いってしまう。
 ジュンは、生きようと一生懸命なのだ。そして、パンが好きだと自己主張しているのだ。
 何んとたくましい老犬ジュン。命ある限り自己主張をやめない。
また、ジュンに教えられた飼い主。

6.「ジュン前進あるのみ」
 寒い公園の朝。
 土を踏みしめると霜柱の潰れる音が「シャキ、シャキ」と聞こえます。
 「シャ、シャ、シャキ、シャ、シャキ」リズムにならない老犬ジュンの足音。
 少し前は、左回りと前進を何とか自力で歩いていましたが、最近ではリードを引っ張らないと後ろにヘタってしまいます。
 しかし、リードを引っ張ってやると「シャ、シャ、シャキ、シャ、シャキ」と前進を始めます。
 そして、リードを引き続ける限り、前進し続けるジュン。
 後ろ向きに、猛スピードで時代を逆行しているように感じる昨今、でも、ジュンは前進あるのみ。
 やはり、時代を逆行させずに例えゆっくりでも、前進あるのみ!

7.「立ち上がるジュン」
 まだ陽が昇らない公園。
 いつものようにジュンと飼い主の姿。
 ジュンは寒いせいなのか、足元がおぼつかず一歩あるいては横に転び、二歩あるいては頭からつんのめる。
 とうとう、その場にヘタってしまったジュン。
 飼い主は、散歩を諦めて帰ろうとしたその時、何と!
 また、立ち上がるではありませんか。
 ジュンは、また、一歩あるいては横に転び、二歩あるいては頭からつんのめる。
 それでも、またまた、立ち上がるジュン。
 そんなジュンの背中に、紅色の長い光が照らしています。
 日の出です。
 公園に伸びるジュンと飼い主の影が、だんだん短くなって、そして、暖かくなってきました。

8.「雲の中を駆け回るジュン」
 寒々とした公園。
 ひとりたたずむ飼い主の姿。
 数日前、我が家のジュンは、毛布のうえに横たわっていました。
 もう立ち上がれないジュン。
 食べる力も飲み込む力も無くなったようなジュン。
 するとどうでしょう!夢をみているのか、半目を開けて両足をバタつかせます。
 まるで、公園を駆け巡っているように錯覚するくらい、元気よく足をバタつかせています。
 そして、飼い主との別れを惜しむように何度も何度も「クン、クン、クン」と鳴く。
 しかし、その鳴き声も、やがて聞くことが出来なくなりました。

 寒々とした公園ですが空気は澄みきり、爽やかな青空が広がっています。
 その時、ジュンのような形の雲が、北から南へ向けて足早に過ぎ去っていきます。
 「南の暖かい公園で待ってろよ」と叫ぶ飼い主。
 飼い主とその家族を支えてくれたジュン。
 ありがとう!

(K.A.)

(14.04.12)