川崎重工
KPS 生産管理板アンケート結果の分析と提案について


アンケートは5月にホームページより実施し、その結果を8月に掲載しました。今回はその結果を分析し、それをもとに私たちの提案をまとめました。

あらためて回答されたみなさんに心から感謝します。多くの方に本稿を読んでいただき、職場での話し合いが進む一助になることを願っています。

分析や提案にあたって重視したことは、私たちが2018年に発行した『私たちの職場綱領』(私たちはこんな新しい職場をめざしています)の中で述べた、以下の「労働の役割」についてです。

労働は、人間生活全体の第1の基本条件であり、もっとも人間らしく社会的な行為です。
人間がより豊かに生きるための生活の元手や有用な財などをつくる
人間を互いに結びつけ、社会をつくり、社会に参加する
主体的で計画的で創造的な自己表現であり、人間の能力を発達させる 


T. アンケート結果の分析について

アンケート結果の数量的な概要について


詳細は、ホームページの「KPS生産管理板の運用・評価に関するアンケート結果について」を参照ください。

以下は、切実な訴えや提案のアンケート結果から、生産管理板の何が役立っていて、何が役立っていないのかを分析したものです。

(1)生産管理板は役立っているという側面

生産管理板で重視している作業の標準化、手順の細分化、目標時間の設定と実績の把握などは、仕事の経験を集約し、分業を促進して生産効率を高め、品質を向上させる重要な要素であり、それらの効果が発揮されている。

【回答事例】
「目標時間等が明確に指示されており、作業のペースがつかみやすい。」(岐阜)

「作業が標準化され、品質確認項目をきちんと入れれば役立つ。」(神戸)

「作業時間の目安が確認できるのはよい。」(明石)
 


(2)生産管理板は役立っていないという側面

@余裕のない作業時間や分・秒単位に細分化された作業を厳しく追及されるので、仕事に集中できず、神経が極度に疲れ、また、生産効率の低下や安全・品質の面でも障害になっている。

【回答事例】
「全く余裕のない目標値を負わされるのは、安全面、品質面では、全く邪魔でしか無い。」(岐阜)

「指示されている作業時間を2分オーバするとその理由を書く必要が生じるので、書かないでいいような対応をしている。生産管理板は自分たち作業者の思いは吸い上げてくれない。一方的に作業を細分化してその実施を要求するだけ。」(神戸)

「毎日、作業時間の達成率を赤文字掲示される為、作業者の意識は、作業時間に全て奪われてしまう。」(兵庫)

「分刻みの作業でタブレットに書き込むとかを強制させられるとストレス、プレッシャーで精神がやられます。」(兵庫)
 


A指示する側・される側の一方的な関係や細分化された個人作業で、協業の力(個人の一面性を取り除き多方面から対象をとらえる、良いものをつくろうとする助け合いなど)を弱めている。

【回答事例】
「上長は、指示する役割。作業者は、指示通りする者。そこには、仲間としての一体感などない。」(兵庫)

「KPSは形だけ細かくなりすぎ『みなさんと共に』を忘れた。」(西神)

「社員同士の協力とかが、失われる気がする。」(播磨)
 


B管理業務に追われ若手の育成に手が回らない。作業指示に従うだけでは技術・技能が向上しない。目先の利益(業務)を最優先する経営施策が、人財を「育てる」ことを弱め、先行きを危ういものにしている。

【回答事例】
「管理をする側の数値解析の為と、人を秒刻みで業務に従事させる事しかなく、著しく技術レベルの低下を感じる。」(岐阜)

「品質面は、置いてきぼりにされており、コンサルタントは、収益面で儲かる事を煽るばかり。管理板に従わせるやりかたは、若年層へのレベル向上には、害悪でしか無いと思う。」(岐阜)

「多くの現場の中堅層が管理者側に行った為、若手の育成がままならない状態で作業にあたらせているので、品質は落ちてきている。上からは、現場で教育しなさいと指示を受けるが、管理者側への要望が日々増えていき手が回らない状態。」(兵庫)
 


C生産管理板の記載内容が理解できない、作業時間の記入が面倒でシステム機能に問題があるなど、生産効率を向上させるという道具の役割を十分に果たしていない。

【回答事例】
「書いてある内容が理解できないことが多い。そんな物を作るのに時間、経費をかけるのが無駄である。」(兵庫)

「他部門との共同作業が多いので多大な差異が発生する。」(兵庫)

「確認行為が無い為戻る事が出来ない。作業者が疲弊してます。」(西神)

「どの職場も動きながらの作業がほとんどで作業性は格段に落ちている、尚且つ分刻みの指示によってデータが重くなり正常にタブレット等を操作できない、室内のためWi-Fiが届きにくい等のトラブルも起きてます。」(神戸)
 


Dパワハラ的な指導や強制で、萎縮し、ものが言えない。言っても聞いてくれない。仕事量が増えてサービス残業を強いられている。とくに派遣社員の扱いがひどい。これらは、生産管理板とは直接的に関係のない問題ですが、働く自負や誇りを奪い、離職者も相次いでいる。これらのことが、上記@ABの問題をさらに深刻にしている。

【回答事例】
「KPSにはコンサルタントがかかわっているが、毎月各現場を回っており、班長クラスの方は、現場巡回の為資料を夜遅くまで作成しており、いたたまれない。また、巡回時には大声で怒鳴りつけるなど、一般的にみるとパワハラといわれる言動が頻発しており、みんな萎縮してしまっている。」(岐阜)

「関係者の長時間残業や会社OBがコンサルとしてやってきて、罵声を浴びせたり、反論を一切封じる、など体制に問題がある。昭和的なやり方で若手の退職が相次いでる。」(神戸)

「管理板をつくるのに早朝から夜遅くまでサービス残業している班長をみかけるが、45時間以上残業をつけられないそう。」(兵庫)

「特に派遣は、ロボットの様に扱われています。鉄道車両の製造という、公共物に少しでも関われる仕事という、自負や誇りさえも、KPSにより奪われ(る)・・・」(兵庫)
 


U.私たちの提案

いま川重グループでは、KPS活動を、生産部門だけでなく、設計、調達、物流部門も含め、すべての部門に広げ、「生産性向上、品質保証および製品のコストダウンなど全社のものづくり力・製品競争力を一層向上させる」(昨年12月臨時中央経営協議会)と位置付けています。川崎車両(株)の新社長は、「KPS活動は経営管理の改革」だと強調しています。

パワハラ的指導やコンプライアンス違反はただちに根絶を!

会社がただちに実行すべきことは、生産管理板の運用により起きているパワハラ的な指導や強制、派遣社員への差別的な扱い、サービス残業などを根絶することです。

それらを放置したまま、生産管理板を含むKPS活動を強力に推進すれば、それらがさらに深刻なものとなり、職場風土を荒廃させ、重大な品質上のトラブルや労働災害なども起こりかねません。

職場環境と生産管理板業務の改善について

生産管理板は一つの道具ですので、便利で使いやすいことが重要ですが、それによって使っている人たちの心身や人間関係に重大な障害をもたらすことがあってはならないと思います。

いま生産管理板の運用を通じて起きている問題は、職場環境(快適か劣悪か)と一体となった運用の問題、とくに道具の使い方の問題だと考えています。

働く一人ひとりが人間として大切にされる「快適」な職場環境を構築すれば、生産管理板が道具としての役割を発揮し、安全で優れた品質の製品をつくることができるのではないでしょうか。

その観点から、以下を提案します。

(1)「快適」な職場環境をつくる

@要員を補充し、長時間労働や過密労働を解消する。

A厚生労働省が「事業者が講ずべき措置」*1として定めている中で、少なくとも以下の項目について充実させる。

「労働により生ずる心身の疲労については、できるだけ速やかにその回復を図る必要がある。このため、休憩室等の心身の疲労の回復を図るための施設の設置・整備を図ること」
「疲労やストレスを効果的に癒すことができるように、臥床できる設備を備えた休憩室等を確保すること」
 
    *1:『事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針』 

B法的義務である「一年以内ごと一回、定期」のストレスチェックを確実に実施し、複数回の実施も検討する。また、厚生労働省が指摘している「ラインによるケア」*2の「部下が上司に相談しやすい環境や雰囲気を整える」の実施状況を把握し必要な改善を図る。それらによって、メンタル不調者を出さず、また早期に発見できるようにする。

    *2:『労働者の心の健康の保持増進のための指針』 

C管理者が率先して人権を尊重する職場風土の醸成に努め、助け合い、何でも言い合える快適な人間関係を構築する。

(2)生産管理板の運用を改善する

@派遣社員も含め、運用改善の議論の場を定期的につくる

  派遣社員も含め、生産管理板を実際に使う人の気持ちを大切にして、つくる人、管理する人らが、自由に問題点や改善点などを出し合える議論の場をつくり、定期的に実施する。

そうすれば、知恵も経験も結集でき、製品や工場、作業方法などの個別性にもとづきながら、最適な細分化や目標時間の設定、システム改善などを行い、便利で使いやすい生産管理板に改善できると思います。
 

A作業手順と細分化の程度については、管理監督者と作業者間で十分な説明と納得に努める

B生産管理板の目標時間に、疲労回復のための疲労余裕時間を組み込む

  一般的に疲労回復に要する休憩時間は、正味作業時間に対し、軽作業の場合は10%、中作業は20%、重作業は30%(例えば、中作業の場合、2時間働いたら24分休憩が必要)と言われています。

水分補給やトイレなどの休憩以外に、疲労余裕時間を組み込み、ゆとりのある作業時間に改善する。
 

C作業の目標時間を強制しない

  作業の目標時間は必要ですが、使う人は肉体的・経験的に差異があるので、それを強制しないことです。また、協業の力をいかに発揮させるか、技術・技能の向上や若手の育成をどのように組み込むかの工夫が必要です。 


以上の提案を実行するには、生産管理板の運用をめぐってパワハラ的指導やコンプライアンス違反などが起きている問題を、経営陣が重大な経営問題として認識することが必要となります。

そのためには、働きやすい職場づくりの問題として、労働組合の力が必要です。職場の労働者と労働組合が一体となって問題点や要求などをまとめ、労組が会社と交渉し、一つひとつ実現していくことが必要となります。その際に、管理職の皆さんにも力になってもらうことが大切だと思います。

この取り組みによって、自由に意見を言える職場づくりや職場の活性化、助け合う気風を高めることにもつながると考えます。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

本稿についてのご意見・感想をお待ちしております。

 

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(21.11.30)