原発は環境にやさしくない

 最近テレビCMで「原子力発電は発電時にCO2を出しません」というものが良く出ています。しかもCO2が出ないことを風力発電や太陽光発電と同質に扱っています。
 以前には「日本の電力供給の3割は原子力発電」というのもありました。
 電力会社が進めているこうしたキャンペーンには、原子力発電は必要不可欠かつ環境にもやさしいエネルギーだということを誇張し、国民に原発推進を認めさせたいという意図が含まれています。
 原発推進キャンペーンは、原発関連設備の販売を推し進めている川崎重工でも「原子力エネルギーは二酸化炭素を排出しない地球に優しいエネルギー源として近年大変注目を浴びています。」(川崎重工 プラント・環境カンパニー ホームページ)と書いて、環境対策の切り札のように語っています。
 でも本当にそうなのでしょうか?

原子力発電の仕組み
出典:電気事業連合会 「原子力・エネルギー」図面集2010 5-1
 確かに原子力発電の熱発生過程ではCO2は発生しません。原子炉の中ではウラン235(数字は質量数=陽子数+中性子数)が核分裂を起こし、そのときに発生する熱が冷却水に伝わって水蒸気が発生、水蒸気がタービンを回して発電機で発電させるというものです。
 これに対して火力発電は主に石炭や石油などの化石燃料を燃やしてその熱を水蒸気に伝えます。と同時にCO2も発生します。そしてその先の発電過程は原子力発電とまったく同じです。
 ということは、「核分裂」と「化石燃料を燃やす」の違いだけを単純に比べればCO2を「出す」と「出さない」という相違になることは明らかで、原発推進勢力はこのことに依拠してキャンペーンを張っているのです。

 ところで前に書いたウランの核分裂の話ですが、実はウラン235の核分裂と平行して原子炉内では別の過程が進行しています。
 何かと言うと、核燃料の中にはウラン235の他に中性子が3個多いウラン238が大量に(というか90%以上)含まれていることで、その一部が原子炉内で核分裂を起こさずまた熱も発生せずに中性子を取り込んでプルトニウム239に変化します。このプルトニウム239はアルファ線と呼ばれる放射線を発する強い発がん性を持つ物質です。しかも放射線の発生が半分になるまでの時間(「半減期」と言う)が約2万4千年で、その保存方法はまだ確立していません。
 一方のウラン235ですが、使用済核燃料の中にそのまま含まれると共に一部はストロンチウム90やセシウム137などに変化します。これらもまた放射線を発するので、これまた核廃棄物として処理が厄介なものなのです。

原子力発電の歴史
 原子力発電は不幸な歴史から始まりました。
 1938年、ドイツの科学者オット−・ハーンは実験室でウランの核分裂を発見します。さらに1942年、イタリア生まれでアメリカに亡命したエンリコ・フェルミがシカゴ大学の原子炉で核分裂を連続して起こさせることに成功します。歴史上初めての「原子の灯」がともったのです。
 ところがハーンやフェルミの成果に目をつけたアメリカのルーズベルト大統領は、同じ1942年に原子爆弾の開発計画「マンハッタン計画」を発足させました。そしてそれは広島、長崎の原子爆弾として実現されてしまいました。
 戦後も核兵器の開発は続き、旧ソ連やイギリス、フランスなども相次いで核実験を行いました。
 同時に核兵器だけに使用されてきた原子力について、「平和ための原子力」という政策を当時のアイゼンハワー米大統領が1953年の国連総会で提案し、これをきっかけに原子力発電の開発が進みます。大統領演説からさかのぼる2年前、1951年にアメリカで原子力発電用炉の実験炉が動きました。続いて1954年旧ソ連のオブニンスクで本格的な原子炉が運転を開始し、1956年にはイギリスのコールダーホール1号機、1957年にはアメリカのシッピングボート発電所が送電を開始します。なお、現在の原子炉の主流である「軽水炉」による発電はこのシッピングボート発電所が初めてとなりました。
 ところが、この「軽水炉」と呼ばれる、核分裂の速度を抑える減速材かつ炉の冷却材として普通の水を使うタイプの炉は、そもそも原子力潜水艦用として開発され、1955年に完成したものです。
 この軽水炉には、米ウエスティングハウス社が先に開発した「加圧水型(PWR)」と、その後米ゼネラルエレクトリックが開発した「沸騰水型(BWR)」の2種類があります。いずれもウラン235の濃度を天然の0.7%から数%に低濃縮した核燃料を使います。
出典:資源エネルギー庁原子力白書2010
  加圧水型は、原子炉で発生させた高温高圧の水(1次冷却水)で蒸気発生器の中の水(2次冷却水)を蒸気に変えて発電用タービンに送ります。原子炉は完全に水没していますから、揺れの多い潜水艦や空母に向いています。ただし構造が複雑であるために技術的難易度が高く、それだけ事故の可能性が高いといえます。
 一方の沸騰水炉は構造が簡単とはいえ、放射能を含んだ水蒸気がタービンに循環するため、遮蔽を厳密に行う必要があります。
 日本では1963年東海村での試験炉を皮切りに、1970年に加圧水型の美浜発電所(美浜1号機)が稼動を始め、2009年12月末には、世界3位の54基が運転中です。
 しかしながら稼働率は地震や事故などによって2009年は64.7%しかありません。その背景として事故が多いこと、地震の多い日本で原発建設をすることの疑問や、事故を起こした際の電力会社や政府の姿勢が「安全神話」を繰り返すだけで、きちんとした解決策を取らないことに住民が運転再開を許さないという事情があります。
 しかしより根本的には、これまでの原子力発電の歴史が示すように、軍事利用が優先され、民間利用はその転用に過ぎないなど、安全面がなおざりにされてきたことが問題です。
 しかも次に述べるように核廃棄物の問題は全く先が見えないのが現状です。

「トイレのないマンション」
 火力発電所からCO2が排出物として出るように、原発からは核廃棄物が出ます。
 CO2が環境を破壊して地球温暖化を進行させることはご存知の通りですが、核廃棄物は人体に有害な放射線を出します。よってむき出しのままでは持ち運びできません。しかもプルトニウムは放射線を約2万4千年出し続けるのですから、完全密封し、どこに捨てるかというのが最大の課題です。ところが今のところ完璧な処理方法がない、だから原発は「トイレのないマンション」と称されているのです。
 加えて古くなった原子炉をどうやって廃棄処分にするのかも決まっていません。
出典:中部電力ホームページ
 使用済み核燃料には分裂しなかったウラン235とウラン238が約96%、プルトニウム239が約1%、そしてストロンチウム90やセシウム137など約3%の核分裂生成物が含まれますが、これはいわゆる「死の灰」に当たるもので、やはり放射線を出す高レベル核廃棄物に属します。
 使用済み核燃料は再処理工場で分離されるのですが、現在はすべてフランスの再処理工場に送られるか各原発で貯蔵されています。計画では青森県六ヶ所村に年間800トンの処理が出来る工場が1997年に完成する予定だったのですが、トラブル続きで2010年現在まで17回の延期を繰り返したまま、未だに動いていません。
 原発全体での貯蔵能力は2万410トン分しかなく、すでに1万3150トン分は埋まり、一部の原発では数年で満杯になる見通しです。しかも六ヶ所村の工場が稼動しても能力を超えた年間200トンはさらに貯蔵するか外国に処理を依頼するしかありません。もしあふれたらどうするのでしょうか。
 そこで考え出されたのが埋設と再使用です。再使用については後述しますが、埋設も問題だらけです。現在低レベル廃棄物の埋設地が六ヶ所村の50m〜100m程度の深さにに計画されていますが、まだ実施されていません。一方の高レベル廃棄物は茨城県東海村と六ヶ所村の「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」で貯蔵されています。これもいずれは満杯になることから考え出されたのが「深地層処分」です。地下数百メートルのところに埋めて放置するというものです。しかも放射能の監視も測定もしない考えです。そのための研究施設を岐阜県瑞浪と北海道幌延に建設中ですが、しかし4枚の大陸プレートがひしめき合う地震国日本の地下のどこに安全なところがあるというのでしょうか。

危険な賭け
 さて、政府・電力会社が目論むもうひとつの「解決策」は燃料の再使用です。その方法には、プルトニウムを燃やすとより多いプルトニウムができる「高速増殖炉」と、ウランとプルトニウムが混ざった使用済み燃料と未使用のウラン燃料とを混ぜて使う「プルサーマル計画」です。
 高速増殖炉は冷却材に金属ナトリウムを使います。軽水炉のように水を使うと中性子が減速してしまい、燃料のウラン238とプルトニウム239の混合物からできる、増えたプルトニウムと熱がうまく発生しないためです。しかし金属ナトリウムは非常に危険で、水に触れると爆発します。他にもトラブルを起こすと手がつけられないような事故になることが多く、だから日本以外の先進諸国では開発を中止しました。なのに日本は原型炉「もんじゅ」を強引に作りましたが、ナトリウム漏れで止まったままです。
 プルサーマル計画は、現有の原子炉に再処理で出てきたプルトニウムとウランを混ぜた燃料(MOX燃料)を使うというものです。ウランだけを考えて設計された炉に、実験炉での十分なテストもせずにいきなり実用炉でのテストを始めました。現在は玄海3号機、伊方3号機、福島第一3号機で実験中ですが、これから何が起こるかはまったく未知の世界です。
 政府がこれほど燃料再使用を急ぐのは、狭い日本に数多くの原発を作った上に、廃棄物を安全に貯蔵できる場所もなく、手詰まり状態になっていることがあります。また再処理されないプルトニウムが次々に蓄積されていくために、核兵器開発の疑惑を持たれたくないとの話もあります。
 しかしだからといって、これまた何が起こるかわからない再使用の道を突き進むのはまさに危険な賭けでしかありません。

原発はあきらめて本当にクリーンなエネルギーを
 現在、日本の電力供給の3割くらいが原子力によるものと言われています。なぜこうなったのでしょうか?
 ひとつに技術的問題があります。原発は低出力での安定運転が難しく、海外では出力を変化させているところもありますが、日本ではやられていません。それは減速材に黒鉛を使う旧ソ連のチェルノブイリ原発で低出力の実験中に大事故を起こしたことから、あえて危険を冒すことはしないという電力会社の方針のためです。
 こうなると原発を安定的電力供給のベースとし、需要の変化には火力など他の発電所で調整することになります。
 世界的には原子力から脱却が主流です。「CO2を出さない」という一面的な宣伝で押し戻そうと言う動きもありますが、費用ばかりかかって残るのは危険なプルトニウム、という原発の現状から目をそらすわけにはいきません。
 それとともに、日本が原発推進に固執する背景には他国にはない事情があります。
 軽水炉は、原発の歴史で書いたように米ウェスティングハウス(現在は消滅し、原子力部門がイギリスの会社を経て2006年から東芝グループに入った)とゼネラルエレクトリックによって開発されたものです。その技術を使って日本では三菱重工、日立、東芝など、名だたる大企業が原子炉を作っています。川崎重工もその一部を担っています。つまり政府や電力会社も一緒になって日米大企業の収益源を維持することを最優先しているのです。ここには日本共産党が指摘している、国民の合意や安全よりもアメリカ優先、大企業優先の「2つの異常」の現われがあります。

 日本は、太陽光、風力、水力、地熱など「再生可能エネルギーが現在の日本で消費される電力量の十三倍もの可能性をもっている(「しんぶん赤旗」2008年5月28日)」のです。
 今すぐ原発の運転をすべて停止することはできませんが、核廃棄物の処理の確実な方法を探ると共に、「低エネルギー社会の実現、再生可能エネルギーの開発をすすめながら、原発からの段階的撤退をめざす」(日本共産党第二十二回大会決議)ことが最も大切です。

(10.12.27)