迷走する「もんじゅ」 廃炉あるのみ!

1.高速増殖炉とは何か
プルトニウム(WIKIPEDIAより)
  高速増殖炉とは、簡単に言うと従来の原発から出る使用済み燃料を再処理したMOX燃料を使用し、元のプルトニウムの量がさらに増えるという特殊な原子炉のことです。
 高速増殖炉の主燃料はプルトニウムで、非常に毒性が高いものです。また冷却と減速に使われているのは普通の水(軽水)ではなく、液体の金属ナトリウムです。金属ナトリウムを使うのは、中性子をほとんど減速させずにプルトニウムの核分裂を起こさせるためです。しかし金属ナトリウムは漏れると水と激しく反応して爆発を起こします。
 日本では「もんじゅ」の名前で燃料が次第に増えていくという「夢の原子炉」として政府主導で開発が進められましたが、開発当初から事故が多発していて未だにまともな運転ができない状態にあります。
 本稿ではこの「もんじゅ」についての現状と問題点を探ります。

2.「もんじゅ」の不幸な歴史
もんじゅ全景(WIKIPEDIAより)
 高速増殖炉は先進各国で開発が進められ、日本でも原型炉(発電用施設としての性能を確認したり、大型化することが技術的に可能かどうか評価したりするために、実験炉の次に建設・運転される原子炉)としての「もんじゅ」が1985年着工、94年臨界(連続して核反応が続くこと)に達しました。
 しかしながら度重なる事故で2016年に至っても発電開始されていません。
 これまでの「もんじゅ」の経緯は以下のとおりです。

1985 本体工事着工
1991 試運転開始
1994 臨界に達する
1995 8月発電開始 12月ナトリウム漏洩事故発生、事故当時撮影したビデオを公開したが、編集されたものであることが発覚
2007 ナトリウム漏洩対策の本体工事完了
2010 5月運転再開、その後臨界に達する 8月原子炉容器内に筒型の炉内中継装置(重さ3.3トン)が落下、運転停止
2012 規定に基づく点検漏れが9679個あったと原子力規制委員会が公表
2013 点検漏れ、虚偽報告が発覚、原子力規制委員会は再発防止に向けた安全管理体制の再構築ができるまで無期限の運転禁止を命じる
2015 2月さらなる点検漏れが発覚 11月原子力規制委員会は日本原子力研究開発機構に運転を任せるのは不適当と勧告
2016 9月政府は「原子力関係閣僚会議」を開き、廃炉を含め抜本的な見直しを行い年内に結論を出す方針を確認

 そもそも、先進各国でも問題が多すぎるために開発が中止されたのに、日本ではずっと政府が開発に固執していましたが、長期にわたって停止したままになっていて、先が見えないことに政府も再考を迫られる結果になりました。
 但し政府は「もんじゅ」の廃炉を視野に入れながらも、核燃料サイクル政策を推進するとしたうえで「高速炉開発会議」を設置し、今後の高速炉開発は続けるとしています。

3.廃炉は当然、しかし・・・

 これまで「もんじゅ」にかかった費用は1.2兆円、22年間で稼動したのは250日です。しかも今後運転しなくても維持費は年間200億円以上かかります。だからこれ以上無駄遣いしないためにも廃炉はもはや避けられないのです。
 もっとも、日本原子力研究開発機構が2012年に試算した廃炉費用は3千億円。但し、冷却材であるナトリウムを取り出す技術はまだ確立していないため、その研究開発費用はさらに増えることになって、廃炉が完了するまでにも多大な費用が必要になります。

 もんじゅの廃炉により、政府が描いていた「核燃料サイクル」はほぼ破綻することになります。
 従来の原発から出た使用済み核燃料を再処理して高速増殖炉で燃やし、増えたプルトニウムを新しいウラン燃料と混ぜて原発で燃やす、という図式が崩れるわけです。しかもこれまで海外に依頼していた再処理を、自前で六ヶ所村に工場を作って開始しようとしましたがこれもまったく稼動していません。だから行き場のないプルトニウムがどんどん増えていきます。プルトニウムは核兵器に転用可能ですから、国際社会から日本に対する疑惑の目が向けられることになるでしょう。
 こうした核燃料サイクルの破綻を解決するには、「もんじゅ」の廃炉に加えて使用済み核燃料がどんどん増える原因となる従来原発の廃炉も必要になります。核廃棄物の処理をどうするのかという問題はとりあえず脇において、最優先すべきは「核のゴミ」をこれ以上増やさないことです。

 今政府が考えているのは高速炉開発であり、従来原発の再稼動です。
 これまでの失敗、わけても福島原発事故からの教訓をまともに受け止めず、「もんじゅ」の廃炉の代替設備に固執しています。加えて核廃棄物の最終処理も地中に埋める案から脱却できていません。
 繰り返しになりますが、危険な高速炉の開発の断念、現在の原発再稼動を中止して廃炉にすすむ、これ以外に道はありません。

(16.09.24)