船舶海洋部門の「事業の継承性を含め今後の方針を検討」を考える

職場は突然の発表に不安、従業員・労働組合に情報開示と協議が必要

1.はじめに

 川崎重工は2016年9月30日に、通期の連結業績予想と期末配当予想の下方修正に関する2つのメッセージを発表しました。一つはグループ従業員向け、もう一つはプレスリリースいわゆる報道機関向けです。
 プレスリリースには船舶海洋部門の構造改革、「事業の継続性を含め今後の方針を検討」する旨が含まれ表1、その内容は新聞、ネット上で取り上げられ、従業員のみならず関連企業、請負、派遣労働者等、多くの関係者に衝撃を与えました。

表1:プレスリリースからの抜粋

4.船舶海洋事業の構造改革について
   船舶海洋事業における大幅な業績悪化を受け、以下の通り構造改革を進めていきます。
  (1) 事業構造を抜本的に見直すため、社長をトップとした構造改革会議を早急に設置し、事業の継続性を含め今後の方針を検討 します。今年度末を目途に結論を得たうえ公表し、実行に移します。
(2) 現在受注済の船舶に関しては、全社体制で完工します。(受注済みの契約は、引渡しベースで2019年半ばまで)
 

 しかし、従業員向けにはそのことが一切触れられていません。しかも、労働組合への報告、協議の情報もありません。このような状況下、職場では不安の声が上がっています。
 何の前触れもなく、多くの人が思いもしなかった船舶海洋部門の構造改革、「事業の継続性を含めた今後の方針を検討」を考えました。

2.船舶海洋部門の事業見直しを振り返る
 
 会社は2001年にカンパニー制を導入後、以下のように多くの事業見直しを行っています。
  ・2002年 船舶部門が(株)川崎造船として分社独立、精機部門(油圧機器部門)が(株)カワサキプレシジョンマシナリとして分社独立
  ・2003年 破砕機事業部門が(株)アーステクニカとして分社独立((株)神戸製鋼所との合弁)
  ・2005年 プラント部門がカワサキプラントシステムズ(株)として分社独立
  ・2006年 環境部門がカワサキ環境エンジニアリング(株)として分社独立
  ・2007年 カワサキプラントシステムズ(株)とカワサキ環境エンジニアリング(株)が合併し、新たにカワサキプラントシステムズ(株)として発足
  ・2008年 (株)アーステクニカを完全子会社化
  ・2009年 建設機械部門が(株)KCMとして分社独立
  ・2010年 (株)川崎造船、カワサキプレシジョンマシナリ、カワサキプラントシステムズを再統合
  ・2016年 今回の、船舶海洋部門の構造改革、「事業の継続性を含めた・・検討」を表明

2002年分社は、業績好調、他社との統合見据え、人員整理しない提案

 船舶海洋部門は2002年に一度分社されています。
 2002年分社の理由について会社は、「事業環境の変化に耐えうる柔軟なコスト構造を構築し、造船事業の継続と雇用の維持を図ることを目的」[注1]とし、業績は「2001年度はコスト低減効果と円安の追い風等により収益改善目標を達成できる見通し」、「比較的安定した収益環境にあるこの時期に分社を行い」[注1]、と業績好調な中での分社であることを説明していました。

 当時は石川島播磨重工業(現、IHI)との分社統合協議が不首尾に終わった直後で、「単独分社後も、三井造船含めた3社間の業務提携は継続し、効果を引き出していきたい」、「将来的に経営戦略として必要性が生ずれば、他社との協業に加え、統合も選択肢として全くないわけではない」[注1]、分社は将来の他社との統合を見据えた布石的傾向の面もありました。
 また、一般的に分社は従業員の削減を伴うことが多いのですが、提案は人員整理はしない内容でした。

[注1] 2002年2月13日、会社から労組への分社についての提案資料、および労使協議内容より抜粋

今回、実質的に"見積りより実績コストが増加"を理由とした検討−しかし、飛躍しすぎでは?
 会社はプレスリリースで船舶海洋部門が約130億円の通期営業損益悪化の見通しから、構造改革、「事業の継続性を含めた今後の方針を検討」を表明しました。その内容は以下の通りです。
  (1) ブラジル合弁会社Enseada 社向けドリルシップに関し、2015 年度第3四半期に損失処理の対象としなかった売掛債権約50億円全額を損失処理
  (2) 初めて受注したオフショア作業船で、設計費用の見積り以上の増加、それに伴う建造費等の増加約60億円
  (3) 新設計のLNG船建造で、見積りを大幅に上回る建造コスト増加約20億円

 しかし、ドリルシップの50億円は前期の持ち越し分で、今期の損益は130億円ではなく80億円だと考えます。そして、どちらも新規案件で"見積りより実績コストが増加"した問題です。
 一般的に、「事業の継続性」の検討となると、分社、他社との統合、売却、最悪廃業等が含まれますが、大企業の場合検討結果によっては、従業員と地域社会を巻き込む社会的大問題になります。それだけに、経営者には慎重な検討が求められます。
 新規案件で"見積りより実績コストが増加"したことで、何故、「事業の継続性」の検討を含むのでしょうか?飛躍しすぎていると考えます。
 今後の見積り精度を上げれば良い「見積りの改善」の問題だと考えます。

3.他社から学ぶ

目先の利益確保優先に走るのではなく、大企業としての社会的責任を果たすことが求められている
 この数年、日本を代表する大企業で問題が発覚しています。
 ・ 創業104年のシャープは液晶事業に特化した経営戦略の破たんから、台湾・鴻海グループの経営傘下に入る。
 ・ 創業141年の東芝は不正会計発覚から白物家電事業を中国の美的集団に売却。
 ・ 創業は46年ですが、戦前から自動車を製造していた三菱重工から分離独立した三菱自動車の燃費不正発覚による販売不振、賠償金支払い等で、日産自動車の傘下に入っての経営の立て直し。

 これらのことに共通するのは、「いびつな経済」[注2]から派生した目先の利益確保優先、株主への高額配当を優先する経営にあると考えます。
 今こそ、大企業は社会的責任を果たすべきであり、非正規から正社員への雇用の転換、長時間労働・サービス残業の根絶、中小零細企業の単価切り下げから単価保障、大幅賃金アップ、最低賃金はいますぐ、どこでも1000円、そして1500円をめざす等、外需から内需への転換が求められていると思います。

[注2] 「いびつな経済」についての日本共産党見解。「大企業が、『国際競争力の強化』の掛け声で、人件費の削減や納入単価の引き下げなど、『コスト削減競争』に走り、内需を犠牲にして、外需でもうけをあげるといういびつな経済をつくりあげてきたことが、今日の『デフレ不況』の悪循環をもたらしている。」(第26回党大会決議)

金花社長、発言撤回し提案を受ける決断を

 会社がほとんど情報を開示していない状況下なので推測ですが、今回の"見積りより実績コストが増加"した問題は、"いびつな経済"下で発生した、株主へのアピールのための過大な受注ノルマから無理な見積りをしたのではないかと考えています。
 新規案件での見積りは競合他社との競争に加え、新規設備の導入、技能、技術の向上含めた人材の確保・教育等が必要で、特別な難しさがあると考えます。それだけに、"見積りより実績コストが増加"の原因を明らかにすれば、見積り精度の向上、他の部門への水平展開等、今後の更なる会社の発展に寄与する教訓になると考えます。

 会社は「事業の継続性」を含めた検討でなく、"見積りより実績コストが増加"した原因と再発防止へ検討方針を切り替えるべきだと考えます。


皆さん  私たちは今回の問題は、「事業の継続性」の検討の問題ではないと考えます。
皆さん  私たちは今回の問題は、
新規案件の見積り精度を上げる改善の問題と考えます。
皆さん  私たちは今回の問題は、従業員、労働組合にもっと情報を開示、協議をすべき問題だと考えます。
皆さん
  私たちは今回の問題は、大企業の社会的責任が問われる問題と考えます。

皆さん  大いに、職場、労働組合で議論をしていきましょう。

(16.11.26)