すべての人を技術・技能と共に人間的にも「育てる」企業に!


『育てる』問題を提案した動機

「はぐるま」2018年秋季号(NO.237)から2019年夏季号(NO.240)の4回にわたり、『すべての人を技術・技能と共に人間的にも「育てる」企業に!』の提案を掲載しました。

その動機は、「はぐるま」2018年夏季号(NO.236)で述べた以下のことでした。

「いま職場では企業の持続性を脅かす事態が進行」していること、その具体的な事例として、「製品の面では、昨年末、世間に衝撃を与えた新幹線台車枠き裂問題、そして年々増加傾向にある仕損じ費。ものづくりの担い手の面では、増え続けるメンタル疾患、自殺を含む死亡退職者の高止まり、目立つ青年層での離職者、そして、パワハラのまん延等々」を指摘しました。
そして、その根底の一つに、「労働者を技術だけでなく、リーダーシップや人間的魅力を持った働き手に『育てる機能』の衰退」があるのではと提起しました。

いまも「育てる機能」の弱体化が進行

「はぐるま」2018年夏季号で指摘したメンタル疾患や離職者などの問題は、現在も依然として深刻な状況です。

以下は、川崎重工のHPや会社提示資料から拾った2019年/2015年の比です。
<メンタル疾患> 67件/44件=1.5 <労働災害> 104件/52件=2.0
<離職率>全体 1.3%/0.5%=2.6 29歳まで 3.1%/1.1%=2.8 39歳まで 1.4%/0.4%=3.5
<コンプライアンス報告・相談のパワハラ> 12件/9件=1.3
<平均残業時間(1ケ月)> 24.6H/25.8H=0.95
<女性従業員率> 8.5%/6.0%=1.4 <60歳以上の従業員率> 3.4%/9.0%=0.4

一般的には、離職率と残業時間が少なく、障がい者や女性・高齢者の雇用率が高いほど、働きやすい環境と社員同士の助け合う風土がつくられていると言われています。

川重においては、残念ながらそのような環境と風土はほど遠く、ものづくりの担い手を「育てる機能」の弱体化が進行し、企業の持続的発展が危うい状況と言えるでしょう。

『グループビジョン2030・事業方針』への懸念

川重は、コロナ禍に便乗したかのように、「車両およびモーターサイクル&エンジン事業の分社、ならびに船舶海洋とエネルギー・環境プラントの事業統合」を発表(11/2)しました。それと同時に『グループビジョン2030・事業方針』を発表し、その質疑応答で橋本社長は、「営業利益が 5%であれば税前 ROIC8%は越えることができるため、5%については早期に達成したい」「現在の当社の人事制度はやや年功序列型になっているため、より能力を中心に据えたジョブ型に近づけたい」などと答えました。

これは、いままで進めてきた短期的利益とROIC8%の追求という株主利益最優先の方針をまい進し、さらに、賃金の「生計費原則」を否定する処遇制度の見直しに留まらず、日本経済団体連合会が推進する「ジョブ型雇用」*を実行するというものです。

  *:短期的利益を求めた事業取捨選択やM&A(合併と買収)を強力に推進するために、従来の新卒一括採用・年功賃金・終身雇用を特徴とする「日本的雇用」を破壊し、ジョブ(職務)に応じた雇用と処遇を行うというもので、雇用の流動化・不安定化と成果主義が加速される。  


これでは、研究開発や人財育成の努力がいっそう弱められ、『育てる機能』がいよいよ衰退していくのではないかと懸念されます。

みなさん、『育てる』問題について、一緒に考え職場で議論していただければと思います。
その一助として、4回にわたって「はぐるま」に掲載した『すべての人を技術・技能と共に人間的にも「育てる」企業に!』の提案を1つにまとめ、以下に掲載します。
ぜひご覧ください。



第1回「はぐるま」2018年秋季号 NO.237


あの『下町ロケット』の放送が3年ぶりにお茶の間に帰ってきました。

「何より人の役に立つものをつくりたい」「会社だって人と同じさ。損得以前に相手のことを思いやる気持ちとか、尊敬の念を持つとか、そういうことが大事なのではないか」・・・ものづくり魂を熱くさせます。川重もこのような会社にできないかと考えてみました。

「もう耐えられないので退職します」 離職者が急増

職場の現実は、「上司のパワハラに耐えられない」「自分の能力を発揮できない」「品質を軽んじてる」等々。夢と希望を持って入社したはずの青年が次々と退職しています。

「会社としても想定を上回る自己都合退職率となっており、優秀な人財の流出を危惧する」これは船舶海洋C経営協議会での会社説明です。

いま離職者だけでなく、精神疾患の増加も深刻です。なぜなのでしょうか。

人財を単なる利潤追求の労働力にしていませんか?

会社は、「従業員はもっとも重要な財産」であり「人財」と表現していますが、問題は本当の人財として育てきれていないことです。原因として、少なくとも次の二つことが考えられます。

①人財に必要なお金をかけていない
従業員の平均年収は20年前と比べ減少、70年代・80年代は経営悪化を理由に大量の人員削減と長期の新規採用の抑制、2000年代に入り非正規雇用への大規模な置換、育成より即戦力ということで中途採用の大規模な拡大など、人件費の削減ばかりです。

②人事政策の基本が個人の尊重になっていない
欧米は一人ひとりの能力を把握し、それを生かすのが人事政策の主流ですが、日本の大企業は、労働者の全生活を企業の枠内に閉じ込め、労働組合を企業の利益に従属させるなどの労務管理が主となっています。根本は、非正規雇用の待遇に見られるように労働者を人間として扱っていないことです。

すべての人を人間として尊重し、大切に「育てる」ことが、強靭で、すばらしい仕事ができる会社にする

企業が社会に貢献しながら持続的に発展していくには、どうしても前述の二つの問題を解決し、技術・技能と協働の能力を持つ自立した人財を、絶えず育てていく必要があります。

そのためには、健康で文化的な生活を送れる賃金と労働条件に、差別的な雇用をやめて雇用は正社員に、そして、労働者を分断させる人事制度の廃止など、すべての人を人間として尊重することだと思います。

そうすれば、どのような時代の変化にも対応できる強靭で、すばらしい仕事ができる会社になるのではないでしょうか。



第2回「はぐるま」2019年新年号 NO.238


(前号)
人財として育てきれない現状と要因

前号の「はぐるま」秋季号において、いま職場では、とくに青年層の離職者と精神疾患が急増していること、その背景として、人財を単なる利潤追求の労働力として扱い、①非正規雇用への置換など人財に必要なお金をかけていない、②人事政策の基本が労務管理が主となって個人が尊重されていない、ことを指摘し、非正規雇用をやめて雇用は正社員とし、すべての人を人間として尊重し、大切に「育てる」ことを提案しました。

今回は、「ROIC経営」で人財が育つかを考えてみました。

重工産業の業種は実務での長い経験が必要

会社は、人財育成方針・体系や新人・若手育成などの膨大なプログラムをつくり、人財育成に取り組んでいます。この集合研修には時間もお金もかけていますが、思うように成果が上がっていません。なぜでしょう。

その要因として、上の段で述べた①②の弊害を増幅させる要素が重工産業の業種柄としてあると思います。

重工産業の製品は、何十年も過酷な環境の下で使用されるものが多く、自社の多くの関連部門と広い裾野産業の持つ技術・技能の集大成と言えます。したがって、それらの習得には、集合研修も大事ですが、実務を通じて数十年の経験を積むことが必要となります。

経験を積むために必要な環境と要件

しっかりとした経験を積むためには、★豊富な経験と高い知識・技能等を持つ人間味ある先輩たちがいること、★関連企業も含め他の部門の人たちと互いに学び協力できる人間関係があること、★「何より人の役に立つものをつくりたい」(ドラマ『下町ロケット』)というものづくりの根本精神が満ちていること、少なくともこのような環境が必要だと思います。

そのためには、♦雇用は正社員とし、技術伝承のための間断ない新規採用、♦安心して働き生活できる賃金と労働条件をベースに温かい人間関係の確立、♦製品の利用実態と課題を把握できる仕組み、などが必要になるでしょう。

「ROIC経営」で、人を育てられるのだろうか?

ROIC値目標を一律に設定し、その達成が困難なら「縮小・撤退などの意思決定」をするという目先の利益最優先の「ROIC経営」で、本当に人を育てられるのでしょうか。

幹部社員からは、「事業の採算面だけで評価し過ぎる。いいモノをつくるという本来の目的が失われている」という不満の声が。みんなで話し合ってみましょう。



第3回「はぐるま」2019年春季号 NO.239


本当に売上や利益を最優先してよいのだろうか?

これまで私たちは、売上や利益を最優先するのではなく、働く人々のことを最優先すべきと主張してきました。

それは、利益とは、企業を継続的に発展させていく上で必要不可欠なものですが、働く人々が先人たちの成果を受け継ぎ、人の役に立つものをつくった結果です。結果である利益を最優先して働く人のことを二の次にしては、働く人は活力を失い、企業自体もいつかは衰退していくことになると考えるからです。

国内には、「社員とその家族の幸せ」をいちばんに大切にする会社が、長期に好業績を持続

坂本光司氏(経営学者)著書の『日本でいちばん大切にしたい会社』の中で、「真に世のため人のためになる経営に懸命に取り組んでいる価値ある企業」を数多く紹介しています。経営幹部はぜひ読んでほしいと思います。

その中から3社だけ紹介します。

●食品工業A社
「社員が幸せになるような会社をつくり、それを通じて社会に貢献する」を経営理念とし、創業以来一度のリストラもなく、同業者ともたたかわず、工場はとことん環境に配慮した公園のような敷地、100年先を見据えて無理な成長を追わず、成長の種まきを常に行う経営により、48年間増収増益を果たし、社員の給料とボーナスを上げ続けている。

●電気設備資材製造販売B社
年間休日数が140日余りと「日本一休みの多い会社」として有名で、全て正社員、就業時間が8時半から16時45分で「残業禁止」、育児休暇が3年で、何歳でも何回でも取得可能と社員の幸福を徹底して重んじ、「ホウレンソウ禁止、自分で考えろ」の管理しない経営で本社要員の割合が2・3%、地域住民や取引先の方々を無料招待する大規模な音楽祭を年1回開催などしながら、常に売上高経常利益が5%以上を持続。

●バネ製造C社
有給休暇消化率100%、子ども手当が第1子10万円・第2子20万円・第3子50万円・4人目100万円、離職率ほぼゼロ、自己啓発助成金が仕事に関係しない資格でも毎年20代2万円・30代3万円支給するなど社員の満足度を徹底追求、値引きをしないことでも有名で、世界をあっと言わせる最先端バネを次々生みだし、創業以来71年間一度も赤字無し。

以上の3社も含め、紹介されている会社の多くは、離職率と残業時間が極めて少なく、障がい者や高齢者・女性の正社員としての雇用率が高いことも共通しており、働きやすい環境と社員同士助け合う風土がつくられています。

会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動(坂本光司氏)

坂本氏は同書で、本当の「経営」とは、次の五人に対する使命と責任を果たすための行動だと述べています。
一、社員とその家族を幸せにする
二、外注先・下請企業の社員を幸せにする
三、顧客を幸せにする
四、地域社会を幸せにし、活性化させる
五、自然に生まれる株主の幸せ

そして、この順番によってこそ、会社が継続でき、社員のモチベーションも向上すること、株主の満足度は、右の一から四番の満足度を高めれば必然的に発生すると述べ、経営者は一から五番の順番を勘違いしてはならないと警鐘を鳴らしています。

残念ながらこの順番の間違いにより、製造業大手の不正行為が一向に止みません。しかも、利用者の命に関わる部品で発生していることは深刻です。

IHIは、4月に、航空機エンジン部品の製造で、2017年から資格を持たない訓練生が検査を行っていたと発表。同月、スズキはブレーキでも不合格車両を合格にしていたとしてリコール対象約200万台を発表。



第4回「はぐるま」2019年夏季号 NO.240


(前号まで)
人財を「育てる」には、人間として大切にすることが大前提

これまで3回にわたって、
●企業にとって大切なことは、社会貢献しながら持続的に成長していくこと、すなわち、そこで働く人たちが世代を重ねながら成長していくということであり、技術・技能と協働の能力を持つ自立した人財を絶えず育てていかなければならないこと(NO.237)、

●技術・技能の集大成である重工業産業の場合は、前述のことがとくに大事になること(NO.238)、

●売上や利益を最優先しては人財が育たないこと、育てるためには正規・非正規、協力会社の社員も含め、働く人たちをいちばんに大切にする経営が必要なこと(NO.239)、

などを述べてきました。

とくに若手社員の場合、技術・技能より「人間性」を育てることを重点に

会社は、人財育成にたいへんな労力・資金を注いでいます。若手社員のカリキュラムを見ると、スキル・知識・語学・技能等の能力アップが主になっているように思います。

たしかに、基礎的な技術・技能を学ぶことはとても大事なことだと思いますが、それ以上に「人間性」ー 他人への思いやりや多様性の受け入れ、適切な批判ができて最後まであきらめない強い心など ー を育てることがたいへん重要ではないかと考えます。

それは、一つに労働のそもそもですが、労働を通じて多くの人たちが密接に結びつき生産力と人間そのものを発達させてきたわけですから、自社や他社等の多くの人たちと結びつき協働できる素養が必要になるからです。

二つは、働くことの意味を理解し「できた人間」となれば、技術・技能は自ら学ぼうとし、互いに高め合っていけるからです。

三つは、彼らの前途に、日本の少子高齢化問題だけでなく、科学技術・AI等の劇的発展とともに地球温暖化や格差・貧困などの極めて深刻な国際的問題が待ち受けており、個別企業の利益にとらわれず人間にとって何が大事かという判断が求められ、まさに「人間性」が試されるからです。

最後に、夢と希望を持って入社したはずの青年の中で、離職や精神疾患が増えており、2018年には自殺によって7人もの尊い命が失われているという問題です。要因が仕事以外の問題であれ、共に働く仲間と悩みを分かち合い、生きる力がわいてくるような人間関係が必要だからです。

「人間性」を育てるための重視すべきテーマと具体的内容

私たちは、大株主のもうけ優先ではなく、世の中への貢献という本来の生産活動を合理的に行えば人は育つし、労働はそのような力を持っていると考えています。いまの経営施策はそれを邪魔しているのだと思います。

次は「人間性」を育てるための提案です。

まず、テーマについては次の4点を重視すべきと思います。
❶一人ひとりを人間として大切に
❷自由に意見を言える職場環境
❸リスペクトを持って助け合い学び合う風土
❹チャレンジ精神を大切に

次が具体的内容です。
ⓐ正規・非正規、協力会社の社員も含め、8時間労働で普通に暮らせる賃金。時間外労働の限度は月45時間
ⓑ雇用は正社員に。パートナー社員制度の廃止
ⓒ適正な要員の確保
ⓓ思想・信条の自由の厳格な遵守。女性・年齢・障がい者・雇用形態での差別の一掃
ⓔ労働組合の会社・政党からの独立
ⓕサービス残業、パワハラ等のコンプライアンス違反の一掃
ⓖ成果主義(とくに個人の生産性評価)の廃止。人事評価の公明性の確保
ⓗ製品の製造全過程(社内外)と利用実態の把握。社内外との交流。グループで自由に課題に挑戦できる仕組み

これらは経営者の英断が必要であり、それを後押しする労働者・労働組合の一丸となった運動が必要となるでしょう。

「あの会社に入るとみんな立派な人間になる」と世間から言われるようなワクワクする会社をつくりましょう。

(完)

 


(20.12.25)