川崎重工・岐阜工場での荷役作業中の死亡災害について
個人責任の追及ではなく、本気で「安全を経営の最優先課題」に!

安全衛生強化月間中の7月21日(水)、岐阜工場において、トラックで輸送されてきた廃却治工具の荷降ろし中、その作業をしていた方(59歳)が、荷台から落下した治工具の下敷きとなり尊い命を失いました。

あらためて、故人に対し謹んで哀悼の意を表するとともに、ご遺族の方々に心からお悔やみ申し上げます。

荷役作業はどの工場でも行われていますので、どこも共通した問題を抱えていると思います。
今回の死亡災害から汲み取るべき教訓について考え、「安全で安心して働ける職場」づくりにみなさんとともに取り組んでいきたいと思います。

「重大災害対策会議」の主な内容 ー 個人の「感性」を問題視

8月23日(月)に「重大災害対策会議」が開催され、災害発生の原因究明と類似災害防止対策などについて労使協議が行われました。

開会にあたって労使代表からあいさつが行われ、会社側からは「被災者は手伝ってあげようという気持ちから、決められた範囲を超えて作業をしてしまうという安全に対する感性がずれていた」(総括安全衛生管理者)という発言がありました。

協議で
確認された主な内容は以下の通りです。

○災害発生要因


○再発防止対策

以上のように、開会のあいさつと確認された「災害発生要因」の中で、個人の「感性」が問題視されています。
中でも、会社側の発言は、死者に鞭打つようなものであり、遺族に対しまったく配慮に欠けたものと言わざるを得ません。

個人責任にしては、その背後にある要因や企業責任があいまいになる

私たちは、重大な災害や事故のたびに、以下のことを主張してきました。


今回の死亡災害に関する会社の認識は、被災者が「安全に対する感性がずれていた」とする発言に象徴されるように、原因を個人責任に求めるものとなっています。


その結果、被災者がなぜ手伝ったのかの背後の要因については、ほとんど解明されたとは言えませんでした。例えば、工程や要員に無理がなかったのか、フォークリフト運転者以外に作業指揮者が必要でなかったのか、安全技術が人的に継承される仕組みが十分であったのか、何でも言える人間関係が確立されていたのかなどについて、もっと検討すべきであったと思います。

それらが不十分な結果、確認された再発防止対策は、物的対策や集団での協議・確認などもありますが、傾向としては基準や規則で個人管理を強化するものとなっており、果たしてこれで重大災害を繰り返さない対策になり得るのか心配になります


会社が宣言する「安全と健康が最優先」を本気で実行してこそ企業は発展する

「重大災害対策会議」で、今回の事案以外にたいへん気になることが報告されていました。
それは、今年の4月にも、搬入した治具をトラック荷台から落下させるヒヤリ事故が発生し、その対策として「ヒヤリ速報」の周知や「KY実施」を徹底したということです。

しかし、その後に死亡災害が起きていますので、個人の管理強化に重きを置いた再発防止対策では、やはり限界があることを示していると思います。

会社は、『行動規範』で、「安全と健康が最優先であることを認識し、安全で健康的な職場環境を実現します」と宣言しています。また、2007年の神戸工場でのクレーン倒壊事故の大惨事に際して、経営陣は「安全を経営の最優先課題として企業運営を行う」と誓っています。

今こそ、「安全を経営の最優先課題」とする誓いが、実際の業務に本当に貫かれているのかを、労使で厳しく点検する必要があるのではないでしょうか。

非正規・正規の区別なく一人ひとりを人間として大切にした経営を実行してこそ、安全で健康的な職場環境のもとで、技術・技能が発展継承され、良い製品やサービスを社会に供給でき、中長期的には企業も発展すると考えています。


本稿が労働災害の防止や根絶のための議論の一助になれば幸いです。


(21.10.20)