2016年度決算の「減益」を社長が「赤字」と発言

 川崎重工は4月27日2016年度決算を発表しました。
 連結で営業利益459億円、経常利益366億円、純利益262億円で、昨年度からの大幅減です。売上高はあまり減っていないのですが、為替差損を除くと、ブラジルでの造船合弁事業で約193億円の特別損失を計上したことが響いています。これによって配当金を昨年度の12円から6円に減らすとしています。

 決算と同時に、会社は社内向け社長メッセージを配信しました。
 この中で社長は、決算数値を挙げた上で、ROICが目標にしていた8%を下回る5%になったことについて「Kawasaki−ROIC経営においては、 2016年度は残念ながら赤字決算なのです」と述べています。
 普通赤字といえば収入−支出がマイナスであることを意味します。ところがこのアメリカ流のROIC、すなわち投下資本に対する利益率(利益の絶対値ではない)を金科玉条にしている上に、これまたはっきりした根拠を示さずに目標の8%が5%になったことを「赤字」と断定しています。この8%の根拠については「コストがかかる」とだけしか会社は説明していません。
 そもそもROICは生産の特徴や業界の動向などを一切無視し、資本論で言うG-G'すなわち投下した資本がどれだけ増殖したかを率だけで見るという極めて恣意的で表面的な指標なのです。こうなる背景には、上述した利益率だけしか問題にしない、外資系投資家が大幅に増えた株式市場の下でひたすら株価の上昇だけを追い求めるという背景があります。
 社長メッセージは「赤字だ、赤字だ!」と、経常利益などは黒字にも関わらずROICの数値を元に労働者にひたすら危機感をあおっています。
 そもそも2016年度が減益になった理由について、社長メッセージではその理由や経営陣の責任について何も触れていません。経営数値に関する事項は経営者の専決事項であり、結果についてもその責任は経営者が引き受けるべきものです。しかしながら、社長メッセージはその責任には触れず、ひたすら労働者を鞭打ってもっと利益を出せ!と叫んでいるだけです。
 同時に造船事業の縮小で生じる地域経済への悪影響については一顧だにしません。また今後予想される造船に関わる労働者の人減らしについても口をふさいでいます。
 普段はCSR(企業の社会的責任)を口にしている会社は、株主に対してはROICがどうのこうのと配当や株価について詳しい説明をしますが、一方でステークホルダー(利害関係者)である労働者や地域社会への責任はなおざりにしています。

 社長メッセージは、目標としてきたROIC8%を達成できなかったという「減益」のことを「赤字」という言葉にすりかえて、自らの責任を明らかにしないまま労働者を恐怖心で煽っているに過ぎません。

(17.05.04)