SLAPP (スラップ) 裁判って

 SLAPP裁判【注】を御存じですか。強い立場にある者が、弱い相手の「口封じ」を目的に起こす裁判を言います、別名恫喝訴訟とも言われています。
 今、日本において大きな問題となっている沖縄米軍基地問題と、新たに原発を建設しようとしている山口県上関町の原発建設に関して、このSLAPP裁判が実際に進められています。

【注】 SLAPP裁判
SLAPPはStrategic Lawsuit Against Public Participationの略
もともとこの言葉は、1984年にこうした形態の訴訟の研究を始めたデンバー大学のジョージ・W・プリング教授とペネロペ・キャナン教授が作り出した造語である。

【沖縄県東村(ひがしそん)高江地区】
ヘリパッド建設予定地の進入口前で酒井裁判長(中央)に説明する被告の伊佐さん(左)ら
 8歳の子どもが訴えられる。そんなことがこの日本で実際に起きました。
 沖縄県東村の高江地区、米軍のヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)建設が計画され、騒音や事故の危険を心配する住民たちが反対の座り込みを展開してきました。それが工事の「通行妨害」に当たるとして、2008年11月、15人の住民が国から妨害禁止の仮処分を申し立てられました。
 その中に、反対団体代表の8歳の娘が含まれていました。もちろん、8歳の子どもが特定の意図を持った通行妨害行為をするわけはなく、後に訴えは取り下げられました。
 しかし、那覇地裁は残る14人のうち共同代表の2人に妨害禁止の決定を出しました。
 今は、この2人に対する本訴訟が地裁で進行しています。

【山口県上関(かみのせき)町】
 山口県上関町祝(いわい)島は、原子力発電所の建設に反対する住民4人が、敷地造成工事を妨害したとして中国電力から約4800万円の損害賠償訴訟を起こされました。

 ほかにも、内部告発、マンション建設反対、労働組合結成など、憲法で保障された権利を行使しようとして訴えられるケースが相次いでいます。
 米軍基地、原発など、深刻で議論が分かれる社会問題に対する意見表明が、潰されようとしています。
 社会活動に携わる市民にとって、他人事ではありません。

 アメリカでは28州・地域にSLAPP訴訟を規制する法律があるそうです。
 カリフォルニア州の反SLAPP法では、訴えられた側は裁判所に「SLAPPだ」と動議を出せます。
 裁判所は、1)公的な問題を巡る意見表明が背景にあるか、2)提訴に実効性があるか(法廷に持ち込む価値があるか)、との観点から審理し、長くても半年以内に結論を出します。
 SLAPPと認定されれば、訴訟は棄却されます。
 さらに画期的なのは、SLAPPと認められた場合、訴えられた側の弁護士費用は、訴えた側が払うことです。
 SLAPP訴訟の抑止につながり、弁護士も資金に乏しい住民側の代理人になってくれるといいます。

 自らも被告にされた経験を持つ元朝日新聞社記者のジャーナリスト烏賀陽(うがや) 弘道さんは、「裁判を起こす権利はあっても、法制度を『悪用』する権利はありません。SLAPP訴訟によって、発言をためらうことになれば、民主主義の敗北と言えます。日本でも被害者の救済を急がなければならず、反SLAPP法が必要だ」と強調しています。

 ところが、日本ではSLAPP訴訟は新聞ではほとんど報じられていません。
 国や資金力を持った大企業から訴えられれば、一般の人はびっくりするでしょうし、それに太刀打ちするのは、至難の業です。
 圧倒的な力で弱い相手に白旗を揚げさせるSLAPP裁判の実態を明らかにして、民主主義が保障される日本にしていきましょう。

(11.07.05)