労働者の苦汁の選択を無駄にするな!

播磨工場/鉄構ビジネスセンターが事業構造改革の推進を提案−

4月25日神戸本社において労使の生産専門委員会が開催され、会社より「鉄構ビジネスセンターにおける事業構造改革の推進について」提案を受けました。その提案概要は、「中計事業規模の売上高の確保が不可能と言わざるをえず、現状では中計事業規模の3分の2程度の売上高にまで縮小して……3分の2程度の売上高でも収益を確保できる体制への事業構造改革を推進するため、人員のスリム化を実施する」(労組ニュース1497号)という内容でした。
今回提案されたこの「鉄構ビジネスセンターにおける事業構造改革の推進」が、ひとつのビジネスセンターにとってのみならず、川崎重工の将来にとって本当に発展性のある施策なのがどうかを、労組ニュース1497号と職場の声をもとにして、考えてみたいと思います。

<今までに行なわれた事業構造改革>

鉄構ビジネスセンターは、1999年に赤字を計上して以降、この5年間に以下のような施策を実施し、その結果も以下の通りとなりました。
 (1) 千葉工場を閉鎖して播磨工場に集約する。
 (2) 袖ヶ浦工場を閉鎖して播磨工場に集約する。
 (3) 野田工場閉鎖して播磨工場に集約する。
 (4) 2003年度には黒字転換を果たすとともに、播磨工場の操業度も予想以上となる。
しかし、会社は、「野田工場の閉鎖時に描いておりました中計事業規模の売上高の確保という点につきましては、会社の予想をはるかに上回る市場規模の縮小と競争環境の激化により、残念ながら実現は不可能と言わざるをえません。」と述べているように、会社自らこの5年間に行なった、労働者に痛みを伴う施策の誤りを、「市場規模の縮小」と「競争環境の激化」という市場原理自体に責任を転嫁しながら間接的に認めています。
職場では、「家族を家に残して心配だ」、「新しく住居を購入してローンが大変だ」など、労働者の生活の痛みが今までの事業構造改革によって極限まで達しています。

<今後の事業構造改革>

会社は、「中計事業規模の3分の2程度の売上高でも収益を確保できる体制への事業構造改革を推進するため」に以下の施策を提案しています。
 (1) 事業規模に見合う営業・技術体制の構築と、それに伴う社内配転・出向による人員のスリム化
 (2) 播磨工場の生産性向上とベース操業度の増加(他カンパニーからの内販の受注増)
具体的には、右表に示すように一般事務・技術職組合員と幹部職員(課長以上の非組合員)を合わせて、2005年度に84名、2006年度に21名の計105名の人員削減を提案しています。
職場では、「今でも人手が足りないのに、これ以上、人を減らされたら、まともな物づくりが出来ないよ」、「朝早くから夜遅くまで、痛みに耐えながら仕事をやってきたのに、会社はこれからどうしろと言うんだ」、「会社は、自分がやってきた責任を取らないで、いつも従業員に責任を押し付けてくる」など、たくさんの不満が出ています。この言葉は、一般組合員だけでなく、幹部職員の中からも同様に出ています。

<播磨工場の将来構想>

会社は、当面の施策として営業・技術部門のスリム化と、内販受注増による播磨工場操業度のアップにより、「中計事業規模の3分の2程度の売上高」目標を達成しようとしています。しかし、将来の構想については、「今後時間をかけて播磨工場の有効活用について検討することとします」と述べるだけで、具体的な姿は見えてきません。
労働組合からの将来構想検討についての「どのようなメンバーでいつまでに結論を出すのか示されたい。」という質問に対して、会社は、「有効活用については、本社経営企画部を中心に検討を行っていく」こと、「コスト競争力の強化が不可欠と認識しており、工場部門を中心としたメンバーで検討していくことにしている」ことについて述べていますが、「いつまでに」という点については答えていません。
職場では、「縮小して発展させるなんてことが、世の中にあるのかよ。プロ野球でも縮小しないで良かったじゃないかよ」、「営業マンや技術者を減らして、仕事を取らないつもりか」など、将来に対する不安が広がっています。
6月5日神戸新聞朝刊及び各新聞社朝刊で一斉に、「川崎重工業が橋梁部門について、分社化も含め改善策を検討していることが4日、分かった。早ければ2006年春にも実施する方針。」と報道されました。この「分社化」の話は、まだ労働組合にも提示されていない内容であり、改めて、労働組合や労働者を無視した会社のやり方に対して、職場からも怒りの声が聞こえています。このことから、会社がなぜ「いつまで」という点に答えなかったのかという疑問が、解けたように思います。

<経営責任とは何ですか!>

会社は、この5年間進めてきた事業構造改革の誤りを市場原理の問題に転嫁して、責任を認めようとせず、それにも増して大切な労働者を削減しようとしています。しかし、すでに一部の大企業において、人員削減と成果主義が悪い方向への相乗効果を発生させて、労働者が疲弊すると共に会社自体も衰退する傾向が出ています。
職場では、こんな声が出ています。「先人達が言っているように企業は人なりや」、「上の人が苦労した分、下の人はついてくるもんや」、「次の世代により良いものを、バトンタッチする。このバトンは、わしらも先人達から受け継いだバトンやもんな」。
会社は、21世紀を本当に見据えた経営を考えるのなら、会社のことを思う労働者の真摯な声を経営の中に生かしてこそ、激動している世界市場で成長できるための、責任が果たせるのではないでしょうか。なぜなら、労働者は、市場の中にいる消費者でもあるのですから。

<企業の社会的責任とは何ですか!>

鉄構ビジネスセンターは、橋梁の談合問題で逮捕者を2名出し、社会から多大な批難を浴びています。現在、川崎重工では、コンプライアンス(法遵守)委員会という組織を通じて、企業の社会的責任を追求する姿勢を示しています。
しかし、先に述べたような違法行為を起こしてしまった点においては、コンプライアンス委員会のあり方や運用について、労働者・労働組合・会社が真摯に話し合い、社会の信頼を回復する努力を行っていく必要があると思います。
改めて、ここに川崎重工の経営の基本的理念(No.170かわさき)について記載します。
 (1) 優れた製品を最も適正な価格で顧客に提供する。
 (2) 絶えず生産性の向上に努め 常に適正な利益を確保する。
 (3) 最高水準の設備と技術を整備し安全にして衛生的な職場環境を維持する。
 (4) 全社に相互信頼と理解を基礎とする協力的な気風を培い 組織の総力を結集する。
 (5) 従業員の能力開発に努め 業績に応じた公正な処遇を行う。

職場では、「匿名が保証されないコンプライアンス委員会には、誰も告発しないよ」、「法遵守ということが、経営理念に無いから何回も違法行為が後を断たないんだ」と話されています。
今、ヨーロッパでは、企業評価の中に社会的責任が守られていることが、ビジネスの前提条件になろうとしています。この社会的責任とは、談合、サービス残業などの未払い賃金問題、人権を無視したセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどの、違法行為を働かないということは論外で、地球環境を守り、人間や自然界の動植物の維持発展を促進するというスタンスで、課せられている責任なのです。

「会社あってのワシらだからな」と言って単身赴任をしている労働者、「家族を残して遠い所まで行けない」と言って退職した労働者。鉄構ビジネスセンターの事業構造改革の推進が、たくさんの労働者の苦汁の選択によって成り立っている事実を、川崎重工は真摯に受け止めなければ、将来の発展は望めません。なぜなら、労働者あっての川崎重工であることは、100年以上にわたって先人達の技術・技能を発展させ伝承している労働者によって、成り立っている事実を見れば明確なのですから!
これからも、大企業である川崎重工の社会的責任について、皆さんと一緒に考えていくとともに、言動について十分注意を払っていきましょう!

(05.06.17)