川崎重工の「成長を支える」新人事処遇制度は大丈夫か?


読者の方から投稿がありましたので紹介します。

4月に、川重の「成長を支えるための仕組みの一つとして」*1能力・役割・成果で処遇を決める新人事処遇制度がスタートした。

    *1:6/3中央経営協議会での橋本社長あいさつ 

なのに、初めの業績評価・能力評価のところで、肝心の評価者の研修がまだ実施されていないことが明らかになった。

これに対し労働組合は、ともに推進してきたこともあり、「考課者研修が実施されていなければ、どのように『透明性のある正当な評価』を導き出すのか。歯を食いしばって希望に向かって頑張っている組合員の努力を裏切りであり、極めて遺憾である」*2と会社に怒りを表明した。
もっともなことである。従業員が仕事でこんなミスをしたら、どんなことになるやら。

    *2:労組ニュースNO.1977

まずは仕方ないので応急措置として、一時金は「2020年度下期業績評価を新制度における評価ポイントに読み替えて支給額を決定」し、能力評価は「旧制度の考課表を読み替えて実施」するとのことだ。
わかりにくいが、今年度の頑張りではなく、昨年度下期に行った評価で決めるということのようだ。とても納得できるものとは言えない。

研修の遅れも問題であるが、人事処遇制度の制度設計自体が本当に大丈夫なのか心配になる。
まず、V・A系列は、絶対評価が目玉となっているが、果たして、そんなことができるのだろうか?

カンパニー間・個人間で業務内容が異なる中で、掲げた目標やその数が違うのに、絶対評価などできるとは思われない。評価者や被評価者が異動する場合などもあり、さらに難しくなる。
労組も懸念しているように、評価者の研修でカンパニー間の「一定程度のレベル感を担保できる」のか大いに疑問である。

それにしても本制度は、一般従業員も大変であるが、評価者はもっと大変だと思う。これによって、本業に支障をきたすことがなければよいのだが。

また、仮に絶対評価ができたとしても、一時金の原資の総額が業績連動方式で決まれば、総額から決められた各職能資格の平均額を基準に、各人が相対的に計算されるのではないだろうか(平均を上回る分と下回る分で相殺されるのでは)。平均額を最低額として、評価された分が加算するのであれば、従来と違うということになるのだが。いったい、「絶対評価」とはどのようなことなのか理解に苦しむ。

それから、従来からそうであるが、一時金の支給算式があまりにも複雑である。
今年の年間一時金の支給額は、平均で4.03ヵ月相当ということだった。果たして、会社が、組合員への支給総額として、その月数分x全組合員数の額をきちんと支給しているのかどうかは、従業員にとっては検証のすべがない。各人が自分の基準賃金の月数分を支給されているとなれば、総額も信頼できるのだが。

新人事処遇制度の一時金支給算式は、従来に比べ個人業績反映部分を拡大し、さらに、2022年度からは「カンパニー業績反映部分」を廃止し「全社業績反映部分」のみに見直すということだ。
複雑な制度変更により、それに関わる本社従業員の仕事量がオーバーし、今回の評価者研修の遅れにつながったのではないかと心配になる。

新人事処遇制度の運用はこれからが本番であり、内在する矛盾や不都合部分の顕在化は避けられない。制度をつくる方も、制度を執行し、執行される方も、実に大変である。
本制度は、本当に川重の「成長を支える」ものになるのだろうか。私だけの杞憂であろうか。

(K.T 記)


(21.10.30)