「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」の企業風土はどこから?


読者の方から投稿がありましたので紹介します。

「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」の文言は、金融庁がみずほ銀行に対する行政処分(2021年11月26日)の中で指摘したもので、2021年だけで8回に及ぶシステムトラブルを起こしたことへの厳しいお叱りの名文句である。

昨年の2月28日の障害は、「システムに高い負荷がかかりやすい月末にデータ移行作業を実施することのリスクについて十分な検討を行わないまま作業を実施し、多数のATMが稼働停止する事態を招くとともに、ATMへの通帳やカード取込みを発生させ、多数の顧客にその場での待機を余儀なくさせる事態を生じさせた」ということだ。

これでは、日本経済と国民生活の社会インフラの一翼を担っているという自覚があるのか、と言われてもやむを得ないであろう。果たして、利益優先の民間銀行に、公共的性格を持つ業務を任せて本当によいのだろうかという根本的問題もある。

一連のシステム障害の原因や背景について、金融庁が指摘していることを大まかに言うと、みずほの執行部門は、複雑なシステムが抱えるリスクやIT現場の実態・声を十分把握・理解しないまま、MINORI*1の保守・運用に必要な人員や経費を削減し、運営体制を弱体化させる構造改革*2を実行したということのようだ。

   *1: みずほの新基幹システム 
  *2: 2018年就任した坂井社長が5カ年計画で掲げた「次世代金融への転換」―すでに従業員を2017年の約8万人から6万9千人に削減、支店等を500から108か所に削減した。 

そして、システム上、ガバナンス上の問題の真因について、以下の4点を指摘した。
(1)システムに係るリスクと専門性の軽視
(2)IT現場の実態軽視
(3)顧客影響に対する感度の欠如、営業現場の実態軽視
(4)言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢


なかなか鋭くごもっともな指摘だと思う。最後の4点目の企業風土のことを問題にしたのは、2002年、2011年にも大規模なシステム障害を起こし、その度に再発防止と改革を誓ってきたのに繰り返したからだと言われている。(今年の2月11日にも障害が発生した。)

みずほが指摘された4点は、「システム」と「IT」を「ものづくり」に置き換えれば、どこの大企業も少なからず当てはまるのではないかと思われる。危惧されるのは、企業風土の問題が経営陣だけでなく、企業全体を覆ってしまい、やがて、日本の大企業が瀕死の状態に追い込まれるのではないかということだ。

例えば、相次ぐ不正やパワハラなどで厳しい批判を浴びている三菱電機では、「見て見ないふりする組織風土」が問題視されている。「言うべきことを言わない」と同類の問題である。

また、川重でも気になることがある。現社長が就任あいさつ(2020年6月)で、「『会社や上司から言われたから』対応するのではなく、『自分がやらなければ会社が危なくなる』という意識」を持てと檄を飛ばしていることだ。そうさせてしまった経営陣の責任には触れず、一方的に従業員に説教がましく言うのは問題ではあるが、「言われたことだけしかしない姿勢」の風土が、全体ではないにしろ確かにあるのだろう。

それでは、「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」の企業風土はどこから生まれるのだろうか。

それぞれの企業は、人間生活に必要で役に立つモノやサービスを、多くの人たちの共同によってつくり供給している。

そこで働く人たちが、モノやサービス以上に必要で役に立つ存在として大切にされ、社会に貢献しているという実感と誇りを持ちながら、多くの人たちと楽しく共同し、能力を高め合う働き方をしておれば、「全体的な視野から自発的に言い、すすんで狭間のところまでやってしまう」であろう

だから問題になっている企業風土は、働く人たちが粗末にされ、人間らしい働き方が壊されている企業や労働現場から生まれるということになる

この傾向が強まりはじめたのは、「新自由主義」*3政策が台頭する1980年代以降である。2000年代に入った頃には、川重*4も含め、日本の大企業の大株主はカストディアン(資産管理信託会社)が占め、その背後にいるのが外国人投資家などだ。

   *3: すべてを市場原理にまかせ、資本の利潤の最大化を主張。 
  *4: 川重の上位株主は日本マスタートラスト信託銀行と(株)日本カストディ銀行。 

外国人投資家の目的は、日本の企業に投資して高い配当を得ること、株価をつり上げ株式売却益を稼ぎ出すことである。そして、「上場企業の所有者は株主であり、経営者ではない」「資本の効率的活用で株主価値の最大化」*5を図れと上場企業を脅しているように、何をつくるかは関心がなく、投資先の雇用や経済への責任も持たず、目先の利益だけを最大の目的としている。企業が倒産したら逃げるだけである

   *5: 68の海外有力機関投資家で構成されたAsian Corporate Governance Association(ACGA)が日本の上場企業に要求。 

このような「新自由主義」的な経営の流れに一役買って出たのは、第2次安倍内閣であり、その実行部隊はみずほを行政処分した金融庁であった。何と皮肉なことであろうか。

問題は、経営陣がそのような大株主の言いなりでよいのかということだ。言いなりであれば、労働者は大株主や経営陣のために、自分の首を絞めるようなことを何で進んで言えようか。わが身を守るには、「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」を貫くしかないではないか。

人間生活の基本的条件をつくり出している労働者を、利益を得るための道具のように扱い、ぎりぎりの低賃金で労働者同士の競争を煽る人事制度では、「自分がやらなければ」とはならないであろう。

ここからの脱出は、企業の問題だけではすまないであろう。日本の社会や教育などあらゆる分野に染み込んだ後進性や「自己責任論」などもあり、確かに厳しく長い道のりになるだろう。

しかし、世界に目を向ければ、「新自由主義」政策の行き詰まりの中で、「株主至上主義」や利潤第一主義の見直しが大きく進んでおり、日本でもようやく始まりつつある。

日本のものづくりと次の世代の明るい未来のためにも、その流れを後押しする声を上げていきたい。


(K.T 記)


(22.02.15 一部修正)(22.02.12)