労働時間はこれでいいのか

−川重における労働時間の実態と問題−

1.労働時間の現状
 下のグラフを見てください。これは会社が毎年公表している川重一般従業員の年間総労働時間と年休取得日数の変遷を示したものです。

 グラフは1991年からのものですが、法定労働時間を週48時間から週40時間に段階的に短縮させる労働基準法改正(1987年)(川重では既に実施していた)や、年間労働時間「1800時間」の達成を目指して制定された時短促進法の制定(1992年)の影響もあって、しばらく下降傾向が続いていました。そして阪神大震災をきっかけに労働時間は2000時間を切りました。
 しかしその後、総労働時間は徐々に増加し、2009年のみは1961時間だったものの、再び2000時間を超えるようになりました。
 年休の方も1995年をピークに取得日数は減少し、近年は15日前後で固定されています。会社は「ゆうゆう連休」や「記念日休暇」を設定して休暇取得のキャンペーンを張っていますが、その効果はほとんど出ていません。

2.減らない労働時間の原因
 原因についての考察の前に、グラフの数値が語っていない点について、いくつか指摘しておきたいと思います。
 まず、上記労働時間の調査範囲は「一般従業員」であって、基幹職や派遣労働者は含まれていません。その数は一般従業員に比べて決して少ないとは言えず、かつ労働時間は一般従業員と比べてもっと多いのではないかと考えられます。というのも基幹職は労働時間の管理から除外され、より大きい責任を負わされて過重労働を強いられることが多いためです。
 また派遣労働者も時間単価の低さを理由に「残業はいくらやらせても構わない」という指示が出されることが多いからです。
 そして、事務・技術職を中心に「サービス残業」(不払労働)がなくならないので、実際の労働時間は公表されている数値よりも大きいはずです。

 さて、労働時間が減らない原因に移りましょう。
 ひとつは生産計画が残業することを前提としたものになっていることです。会社側はよく「仕事量が多くてどうしても労働時間が増える」と言いますが、この発言は常態化していて、いつまでたっても改善されません。また、「仕事量が少ない」職場・事業所から「忙しい」とされる勤務地への異動や応援が非常に多いことも問題です。なれない仕事、生活で体調を崩し、精神的にも追い詰められて病気になったり、いやになって退職する例があります。また異動で人が減る側も、必要以上に人が減らされて、却って一人当たりの負担が増すこともあります。
 また、これは日本の労働環境全体に言えることですが、定時で帰ること、あるいは休暇を取ることが困難な実態があります。
 我々が年末に実施しているアンケートや、国内での各種の調査でも「仕事が忙しくて帰れない。早く帰ったり休むと他の人に迷惑がかかる」という理由が大半を占めます。要するに人が足らなくて過重労働が慢性化している証拠です。パンクしそうになると非正規雇用で一時的に補い、不要となればすぐに切り捨てるので、正社員の過重労働は相変わらず変わらないというのが実態ではないでしょうか。
 さらに、所定時間内だけの労働では生活が苦しい実態があります。特に家や車のローンの支払いが生活費を圧迫しています。だから残業せざるを得ないという側面もあります。

3.時短に向けて
 川重神戸工場の場合、2014年度の所定労働日は242日。これに年休を3日夏休みに強制取得すれば239日です。つまり所定労働時間は1912時間となります。従って所定労働時間そのものを賃下げなしに減らさない限り、効果はほとんど出ません。試算してみると、一日の所定労働時間を8時間からフランス並みの7時間にすれば239時間の時短が実現できることになります。
 もうひとつの重要な方法は、間接的ですが、時間外賃金の割増率を引き上げることです。川重の場合、平日の割増率は35%、夜間・休日は50%(労基法上は25%と35%)ですが、これを欧米並みの50%と100%に引き上げるべきです。
 欧米では30年以上も前から上記の割増率を適用していて、そのために社員を残業させるよりも雇用を増やした方が安くなる仕組みになっています。この根底には、「残業させる雇用主には罰金を科す」という考え方があるためです。
 その一方、職場では長時間残業や派遣労働者を必要とするほど慢性的な人員不足なのだから、正規雇用の社員を増やすべきです。しかも現在は「団塊の世代」が毎年大量に職場を去っています。従って余計に人員不足が加速しています。
 もうひとつ、表面化していないサービス残業の根絶も急務です。
 現在の事務・技術職の時間管理はロータス・ノーツの起動・停止時間を監視する仕組みです。しかしこれは不十分といわねばなりません。何故ならロータス・ノーツを停止させて仕事をするサービス残業は可能だからです。このような抜け穴を防ぐ方法は、パソコンの起動・停止を監視する方法、あるいは事業所の玄関に従業員証(IDカード)の読み取り機を置いて、入退場の管理を行うことが考えられます。
 いずれもそれほどコストがかかる話ではありません。なのに会社側はいつまでも現行方式にこだわり、就業時間管理のアプリにはロータス・ノーツを起動していても仕事をしていなかった理由を社員に入力させ、出勤していても仕事をしていないのだから時間外労働ではないと申告させる仕組みを作っています。このようなやり方は第三者から見て、会社側によこしまな意図をがあると想像されても仕方ありません。

4.法整備の問題
 もし上記の改善策が実現すれば画期的なことになります。しかしこれらが1企業の労使交渉だけで決まるには困難があります。
 最も決定的な方法は法律によって企業を縛り、日本全体に行き渡らせることです。例えば法定労働時間、時間外労働の上限設定、時間外労働の割増率などです。中でも労働基準法36条によって、労使協定が前提ながらも長期間の時間外労働が認められていることは問題で、国際的にも例を見ないひどい条文は一刻も早く例外なしにしなければなりません。
 そのためには労働者・国民の団結によって労働時間短縮の運動を高めることがどうしても必要です。先進国の中でも飛び抜けて長い労働時間を短縮して過労死、過労自殺を防ぐことは国民全体の利益になり、豊かな生活を取り戻すきっかけになります。

 なお、最後に付け加えておくならば、近年OECD(経済協力開発機構)が統計を出している日本の総労働時間が1800時間を割り続け、アメリカよりも少ないことをもって、「日本の労働時間は長くない」とする見解を唱える人がいます。しかしこれは誤りです。
 OECDは厚生労働省の「毎月勤労統計調査」に基づいた数字を使っているのですが、この統計はパートタイマーなどの短時間労働者も含まれており、どうしても低めになります。しかし総務省統計局の「労働力調査」の方が実態に近い数字を示しています。例えば2012年では、「毎月勤労統計調査」では1765.2時間、「労働力調査」は2096時間です。

 安倍内閣は産業競争力会議などを使って「労働時間規制の緩和、残業代ゼロ」の法制化を目論んでいます。
 このような長時間労働の野放し、労働者の生活と健康を破壊するたくらみは絶対に阻止しないといけません。

14.05.16)