時間外労働の大幅規制は緊急の課題

−国際標準には程遠い日本の労働時間規制−

1.青天井の時間外労働−日本の労働基準法の基本的欠陥
 日本の労働基準法は、国際的な標準であるILO1号条約(1919年採択)※1を満たしていません。1号条約では労働時間は1日8時間、1週48時間を超えてはならないとされています。しかし日本の労働基準法は、32条で1日8時間、1週40時間を超えてはならないとされているものの、36条で労使協定があれば(通称:サブロク協定)限度なしの時間外労働が可能になっています。まさに青天井です。
 この点の詳細は後で述べます。
 このような無制限の時間外労働を認めているために、日本は今もってILO1号条約を批准できません。さらに労働時間・休暇に関する18の条約も日本はすべて批准していません。
また、日本は、48の条約を批准していますが、これは全条約のうち約4分の1、ヨーロッパ諸国のおよそ半分またはそれ以下です。※2

 労働基準法の問題は時間外労働のみならず、不払い労働についても深刻な事態を招いています。
 実は労働基準法ではいつからいつまでを労働時間とみなすかの明確な規定はありません。唯一、最高裁の判例で「労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間」というのが実質的な基準となっています。
 労働時間の把握については基本的に使用する側の義務ですが、残業時間を付けさせない、勝手にカットするなどに加え、時間外労働を労働者の申告制にするなどの不払い労働(いわゆるサービス残業)が蔓延しています。
 厚生労働省は2001年4月6日に労働時間管理に関する通達(通称:ヨンロク通達)を出していますが、申告制を許しているために効果は上がっていません。この46通達の問題も後で取り上げます。

 最近はマスコミなどでも労働者の健康を破壊する過労死、過労自殺、残業代未払いの問題が連日取り上げられていますが、これら問題の根本的解決には労働基準法の改正が不可欠です。
 ところが政府は「働き方改革」の名の下に問題の解決どころか過労死を生んでいる現状の固定化を狙っています。
 以下は労働基準法の問題点の詳細を明らかにすると共に、真に労働者のためになる改正について触れます。

※1) 1号条約は工業に適用されるものですが、商業・事務に対しては30号条約(1930年採択)があります。
※2) Wikipediaによる。

2.36(サブロク)協定は長時間労働の温床
 企業が労働者を雇った場合、就業規則と、36協定にもとづく労働組合あるいは労働者代表との合意書を労働基準監督署に届ける必要があります。
 時間外労働の限度については、厚生労働省の告示(1998.12.28労働省告示154号)によって週15時間、月45時間、年360時間以内と定めがあるものの、特別の事情(赤字:筆者)があればさらに労働時間を延長することができるのです。
 これらに法的拘束力はありませんが、残業が「月45時間」を超えると健康リスクが高まるという医学的根拠が示されています。にもかかわらず、多くの大企業が告示による限度を超え、過労死ラインとされる月80時間をはるかに上回る限度を設定しています。
 こういう現状ですから、過労死、過労自殺は減りません。政府があれこれ通達を出しても止まらないのです。だからここは労基法36条のような無制限の時間外労働を改正し、法律としてきちんと明文化された時間規制が必要なのです。

3.46(ヨンロク)通達は自己申告制の抜け道を容認したもの
 そもそも46通達が出た背景には蔓延するサービス残業、不払い労働がありました。そのことは46通達の前文にも「現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用に伴い、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである」とはっきり書いています。
 ところが通達の中身を見ると、「使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること」と、使用者による現認、タイムカード、ICカードによる確認としつつも、「自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合」と例外を認めています。しかし自己申告しか方法がない具体例については何も書かれておらず、サービス残業の歯止めにはなっていません。実際に電通で若い女性社員が過労自殺したケースでは、36協定をはるかに超えて働いていたにもかかわらず、申告には限度ぎりぎりの時間しか付けらていませんでした。
 だからタイムカードやICカードでの客観的な出退勤の記録以外の方法を許してはならないのです。その場合でも、川重でやられているような、メール・データベースソフトである「ロータス・ノーツ」の起動・停止時間の監視では不十分といわねばなりません。何故ならロータス・ノーツを停止させて別の仕事をするサービス残業は可能だからです。

4.過労死ラインの残業を容認する安倍政権
 以上に述べたような長時間労働、賃金未払いの問題がありながら、安倍政権はそれを抑制するどころか、さらに問題を拡大する方向で解決しようとしています。
 政府の働き方改革実現会議は3月28日、「実行計画」を発表しました。
 この中で残業時間については、繁忙期の上限は「月100時間未満」、休日労働を含めれば「年960時間、毎月80時間」まで働かせることが可能というものです。
 過労自殺した高橋まつりさんの母・幸美さんが、「過労死をさせよ!ということを認める法案でしょうか」と批判しています。
 政府は既に一部の労働者を労働時間規制から除外する「残業ゼロ法案」を提出しており、安倍政権は財界いいなりの、労働者を使い捨てにして死に追いやることもいとわない法律を作ろうとしているのです。

5.真の解決とは
 長時間労働や不払い労働の問題を真に解決するには、安倍政権が進める改悪ではなく、逆に労働時間の大幅な規制が必要です。
 日本共産党は3月3日、「長時間労働を解消し、過労死を根絶するために―日本共産党の緊急提案」と題する提案を発表しました。
 その中で特に労働時間に関する部分は以下の通りです。

1.残業時間の上限を、政府自身が働く人の健康を守るためとしてきた「週15時間、月45時間、年360時間」とし、この規制に穴をあける特例は設けない。
2.勤務間に最低11時間の連続休息時間を確保するインターバル規制を導入する。
3.長時間の残業、連日の残業には、割増率を50%にする
4.違法な「サービス残業」が摘発されたら、残業代を2倍にして支払わせる「倍返し」の制度をつくる。
5.労働時間台帳を法律で義務づけ、本人や本人の同意を得た職場の同僚、家族、友人が労働時間と支払われた残業代が正当かどうかチェックできるようにする。

 我々は過労死、過労自殺するまで働かされるいわれはありません。また奴隷でもありません。我々には人間として健康な生活を営む権利があります。マルクスは著書「賃銀・価格および利潤」の中でこう書いています。

時間あってこそ人間は発達するのである。勝手にできる自由な時間のない人間、睡眠・食事・などによる単なる生理的な中断は別として全生涯を資本家のための労働によって奪われる人間は、牛馬よりも憐れなものである。彼は、からだを毀(こわ)され、心をけだもの化された、他人の富を生産するための単なる機械である。(岩波文庫)

 そうです。法律を改正して人間的な生活を取り戻そうではありませんか。

17.04.08)