イエローカード!


 今年に入って川崎重工や関連会社では、昨年8月に発生した川崎造船神戸工場でのクレーン倒壊事故の教訓を基に、いろいろな安全対策が実施されています。
 その安全対策のなかに、イエローカードの発行という内容が含まれている工場があります。
イエローカードは、そもそもサッカーで反則をした選手に審判が警告するために提示するカードですが、会社が出すイエローカードが本当に安全に繋がるのでしょうか。

イエローカード発行の意図

 ある工場では、災害発生の要因を個人の安全意識の欠落と位置付けて、厳格に安全管理を統制するとの名目で「イエローカード」の発行を決定しました。

 その内容は、正社員に対しては「人事考課への反映」「訓戒処分等」、派遣社員に対しては「出勤停止」「退場処分等」の処分内容が明記されています。また、相互注意を怠った人に対しても「違反者と同等の取扱い」をうたっています。

 本当にこの「イエローカード」の発行が災害発生の防止に繋がるのでしょうか?
 とてもそうは思えません。処分内容・相互注意内容を見て思い出されるのは、2005年4月に発生したJR西日本福知山線脱線事故の原因と言われている「日勤教育」です。

川崎造船労組神戸支部機関紙第20号:安全アンケート結果が物語るもの

 川崎造船労組は機関紙の中で「・・・二度と重大災害を起こさないという全員の決意が、仲間の命を守る事につながっていくと信じています。・・・このアンケートにより、災害が撲滅できるという大それた事は思っていませんが、考えるよりまず一歩を踏み出しました。」と語っています。

 そこで、このアンケートのうち事故撲滅に際して大切だと思われる部分を示します。

 Q6では2%の人が「報告しない」と回答しています。そのように回答した人のうち、Q7でその理由を問うと29%の人が「怒られるから」、14%の人が「人事考課(評価)に響くと思うから」と回答しています。

 さらにアンケートには自由記述欄があり、そのなかに大別して2つの点が書かれています。
 一つ目は、「工程が優先して安全がおろそかになっている。」「安全に時間がとられて工程が厳しくなる。」という内容でした。
 二つ目は、「設備の老朽化」についてでした。

 これらを裏付けるように、2008年1月29日付神戸新聞には、送検された人が「クレーンを休めることはできないと思った」と供述したことが書かれています。

真の災害防止策とは何でしょうか?

 アンケート結果にある「怒られるから」「人事考課(評価)に響くと思うから」という意識が従業員のなかにあり、尚且つ、「イエローカード」を発行されて処分される。ましてや、相互注意を怠った人に対しても「違反者と同等の取扱い」をするのでは、JR西日本の「日勤教育」と何ら変わるものではありません。

 先の安全アンケート結果のなかに、ヒヤリ・ハット報告(作業中にヒヤリとしたり、ハットしたりした危険な状況があったことを報告する。)についての質問があります。

 Q8には、47%の人が「督促があれば報告している」、15%の人が「殆ど報告しない」と答えています。

 Q8で「殆ど報告しない」と回答した人に対して、Q9でその理由を質問していますが、23%の人が「報告しても改善されない」、18%の人が「面倒くさい」と回答しています。

 Q8・Q9への回答からは、直接作業に従事している従業員の人が、ヒヤリ・ハットの状態を報告しづらい、または報告しても報告書作成が大変で、それだけの労力をかけても改善されない実態があることが見えてきます。

 では真の災害防止策とは何でしょうか?
 個人の安全意識まかせにするのではなく、アンケート自由記述欄やクレーン倒壊事故に関係した当事者が語っているように、安全軽視の工程最優先・老朽化設備という作業状況や作業環境の改善と適正な人員確保が、まず、川崎重工や関連会社として実施すべき安全対策ではないのでしょうか。

 また、川崎造船労組が「・・・二度と重大災害を起こさないという全員の決意・・・」「・・・考えるよりまず一歩を踏み出しました」と言っているように、従業員が全員力を合わせて二度と災害を起こさないという協力体制づくり、つまり、職場の仲間が何でも協力しあえて、何でも話し合える信頼関係を、今すぐにでもつくり上げる行動に一歩を踏み出すことではないのでしょうか。

 安全第一というスローガンは、1906年にUSスティール社の社長が発案したとされています。これによりUSスティール社は、事故が減って品質や生産が向上したそうです。

 イエローカード発行という個人罰則・相互監視体制ではなく、安全第一というスローガンの下に、適正作業状況や作業環境が整っているという前提条件で、尚且つ、個人罰則を排除した相互信頼による安全管理体制が、いま、求められているのではないのでしょうか。

(08.02.13)