60歳を目前に控えて
−会社はセミナーで「60歳以降も川重で働いた方がいい」と言うが−
川崎重工では、あと数年で60歳を迎える人達を対象にした「60歳以降の生活設計気付きセミナー」が開催されています。
「2007年問題」といわれるように、60歳を迎える社員が2007年から2016年頃まで毎年大量に発生することから、会社としても危機感を抱いており、新入社員をいつもより多く雇用したり派遣社員で補うなど、人員補充対策を取っています。一方で、定年を60歳から63歳に延長するなど、高齢者を職場に引き止める対策をすすめており、その一環として上記のセミナーが設けられました。
本稿では、このセミナーの概要を紹介するとともに、再雇用・年金など高齢者が抱える問題を明らかにしたいと思います。
1.セミナーで言われていること−引き続いて働く方が有利
高齢者がいちばん気になること、それは「老後も安心して暮らせる」収入が得られるかどうかです。
セミナーではモデル夫婦(夫58歳・80歳まで存命、妻57歳・85歳まで存命)での収支試算を行っていますが、結論として60歳で辞めて年金のみで生活した場合が700万円の赤字、65歳まで定年延長と再雇用を適用し、かつ年金併給を受けた場合が540万円の黒字、すなわち差し引き1240万円の差が出るとしています。
よって60歳以降も川重で働いた方が有利になる、との結論です。
また、賃金以外にも福利厚生の一部が60歳以降も受けられることも強調されています。
2.それでも雇用延長に不満は多い
会社側がセミナーでやっている計算そのものに大きな間違いがあるとは考えられません。しかし多くの労働者は現在の60歳からの定年延長・再雇用に多くの不満を持っています(2007年2〜3月のTAR-GETに関するアンケート調査結果)。何故でしょうか?
アンケートに示された不満の多くは、仕事の量も質も同じなのに賃金が激減してしまうことです。賃金についてはセミナーでも紹介している通り、60歳時点の6割にまで下がります。この不満はこの制度が始まった頃からずっと続いており、未だ解消されていません。最近開かれた川重労組の定期大会でも代議員が改善を要求しています。
このような現状に対して少なくない労働者が60歳を超えたらさっさと会社を辞めていきます。残った人達はローンの支払などのため、働かざるを得ないという状況にあります。
3.なぜこんなことに
現在の日本の雇用延長制度、すなわち「改正高年齢者雇用安定法」が始まったのは2006年ですが、改正前を含めてこの法律が定められた理由は、年金の支給開始年齢が、厚生年金の報酬比例部分を除いて65歳に引き上げられたことによるものです。つまり年金は65歳から貰えるのに会社の定年が60歳では5年間の空白ができてしまうので、その間を埋めるためと称して作られた法律です。
本来なら定年を一律65歳に引き上げれば問題はないのですが、財界からの抵抗で、労使協定が必要ではあるものの条件を満たす者だけ再雇用することを許す中途半端なものになりました。川重の場合、一般社員は63歳から、幹部社員は60歳からこの「条件付き」になり、毎年契約を更新する際に「条件を満たさなくなったあなたとの契約は更新しません」と会社が宣言できる制度になっています。
元をただせば、財源が足りないとして年金の支給開始年齢を引き上げた政府与党にその責任があるわけですが、それに見合う定年延長をきちんと制度化しなかったために起こった問題です。これは政府のみならず、高齢者に対する賃金の負担増を出し渋った財界大企業にも責任があります。
問題はこれだけにとどまりません。
年金の方も60歳から65歳までの報酬比例部分は、働いている場合には賃金の高さに応じて減額されます。
その結果、年金だけでは生活できない、かといって川重で引き続き働いても仕事は相変わらずきついし賃金と年金を足しても60歳からは大幅に年収が下がってしまう、という状態に陥ります。これでは「三方一両損」ならぬ「一方(労働者)三両損」で、政府と企業側が得をする仕組みでしかありません。だから労働者は皆怒っているわけです。
4.安心して暮らせる老後を!
会社は「技術・技能の継承を」とか「年金だけよりも働く方が有利」とか言って労働者をつなぎ止めようと宣伝しています。しかし実態は先に述べたように、労働者には「年金だけでは足らないから、不満はあっても働き続ける」という選択肢のみを迫られています。
年金や健康保険制度の改悪を続ける自公政権のもとで、高齢者は戦後経済の繁栄を支えてきたプライドも生活そのものも破壊されています。しかも消費税増税などさらにひどい制度が準備されています。
西欧では定年制そのものが原則存在しませんが、労働者が職場を去る時に「おめでとう!」と言われるほどの豊かな老後の生活が保障されています。それに比べて経済的には豊かなはずの日本の高齢者には何と冷たい政治でしょうか。
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が2007年2月に実施したアンケート調査によると、自分が最も希望する就業形態として、56.5%が「正社員」と答えています。勤務形態としてフルタイムを希望する人は51.2%、また半数近くの人が、継続雇用時の年収として、最低限現在の年収の8割以上を希望しています。
現在、これだけの希望と現実との大きなギャップが存在しますが、これを解決するには政府や会社にそれを埋めさせるよう、要求を突きつけることが必要です。そしてその要求は高齢者自身のものだけではなく、将来高齢者の仲間入りをする若者にとっても重要なことです。
(08.11.30)