4.21世紀の胎動
以上に述べてきたように、弱肉強食の新自由主義も世界を投機マネーが跳梁(ちょうりょう)するカジノ資本主義も、今回のアメリカ発の深刻な金融危機によって破産しました。もはや新自由主義もカジノ資本主義も21世紀の世界経済の指導原理となることはできません。20世紀の資本主義よさらば!というわけです。
また、今回のアメリカ発の金融危機によってアメリカが戦後の世界経済を支配してきたドルを機軸通貨とする体制が大きく動揺しました。そして、軍事面でもイラク戦争の失敗などによりアメリカの一国覇権主義はもはや通用しなくなりました。
「わが党は、戦後、二つの覇権主義とたたかってきました。その一つのソ連覇権主義は、18年まえに崩壊しました。それに続いて、昨年は、二つの覇権主義の残った一つであるアメリカ覇権主義の破綻が明瞭になった年として、歴史に記憶される年となるでしょう。・・・ソ連崩壊がもたらした世界の活性化の流れが、もう一つの覇権主義―アメリカを包囲し、アメリカの一国覇権主義は、軍事でも経済でも、大きな破綻に直面し、終焉に向かい始めているのであります。」(党旗びらきでの志位委員長挨拶、しんぶん赤旗09.1.6)
現在、金融危機に対処するさまざまな動きが始まっています。まず、2008年10月に先進7カ国の蔵相・中央銀行総裁会議が開かれて、「金融市場破綻を防ぐためにできることは何でもやる」という内容の「G7行動計画」を発表しました。しかし、株価の乱高下などの金融不安は収まらず、先進7カ国に加えて中国やブラジルなどの新興国も加えたG20が2008年11月に開かれました。いまや、世界的な金融危機に有効に対処するには、先進7カ国では不十分で、新興国を加えねばならないということです。
G20では、
(1)「いくつかの先進国では、政策・規制当局は、リスクを適切に評価せず、対応ができなかった」と、金融危機の原因が金融自由化政策であると断定し、新自由主義、カジノ資本主義を断罪しました。
(2)「すべての金融市場、商品、参加者が、適切に規制され、監督の対象になる」と、規制強化の方向を打ち出しました。
(3) IMF(国際通貨基金)などの体制を、「最貧国を含め新興国と途上国がより大きな発言権と代表権を持つようにする」と、アメリカに支配されていたIMFについて新興国や途上国の意見も反映するよう民主化する方向を打ち出しました。
(CS放送、志位委員長語る、しんぶん赤旗、08.11.22)
G20終了後の会見で、フランスのサルコジ大統領は、ドルを基軸通貨とすることで合意した1944年の「ブレトンウッズ体制」に替わる新たな金融体制に向けて「改革を求める」と表明。来年4月にも予定される次回会合でこれを論議する意欲を示しました。
国連でも、デスコト国連総会議長が演説で「危機の解決策は全ての国が参加する民主的なプロセスで進めなければならず、国際社会が求める新たな金融システムを作り上げるために国連が設置したフォーラムを活用しなければならない」と提案しています。(しんぶん赤旗、08.11.1)
国連に新たに設置される金融作業部会の議長にノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ米コロンビア大学教授が就任しました。スティグリッツ教授は、「最近の経済危機は、国際金融システムを再評価していく機会ともなっている」と表明。「21世紀に入っている今、国際金融システムを確固なものとし、すべての国の繁栄につながるような根本的な改革に取り組むときである」と述べ、国連こそがこの改革での合意を形成していく正統性を持っていると強調しました。そして、この作業部会には新自由主義者でなく規制資本主義に賛成の者を採用したいと述べています。(しんぶん赤旗、08.11.1)
一ノ瀬秀文氏はこのような金融危機を取り巻く状況について、次のように述べています。「このような形で、20世紀後半の世界の金融システムの機軸となってきたドルの支配、アメリカン・ヘゲモニーについに終止符が打たれる時代がやってきました。こうして『20世紀型資本主義』の退場、そして『21世紀型の、国際的勢力の民主的再編の下での、規制された世界資本主義』というものが、紆余曲折を経て実現されていくことになりましょう」(一ノ瀬秀文、「経済」、NO160、09.01、P86)
世界を跳梁(ちょうりょう)している数10兆に及ぶ投機マネーを規制する方法についても種々の研究が行われています。この過剰な投機資本の規制について高田太久吉氏は次のように述べています。「私はかねてから、投機を始めた現代の金融市場で発生している諸問題は、金融市場の中だけで解決することはできないと繰り返し述べてきました。一握りの大手金融機関と機関投資家が好き勝手に動かしている莫大な貨幣資本を、国際社会が共有すべき広義の『公共財』として位置づけ、何らかの形で緩やかな社会的管理のもとに置き、人々の暮らし向きの改善や環境の維持、国際紛争の解決その他の建設的な目的に振り向けることのできる経済体制を築く以外に、問題の根本的解決は見出せないと考えています。その意味で、私たちは今回の金融危機を、そうした経済体制を模索する国際的な議論を進めるための、歴史的な契機に変える必要があります。」(高田太久吉、"経済"、NO160、09.1、P32)
他方、アジアや中南米では、国連憲章を土台とした平和で民主的な国際関係をめざす動きが強まっています。アジアでは、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心として作られた東南アジア友好協力条約(TAC)が大きく広がってアジアのみでなくヨーロッパも含めた25カ国が参加し地球人口の57%を擁するまでになっています。そしてASEANはその憲法である「ASEAN憲章」を発効させ、2015年のASEAN共同体実現に向けて前進しています。
南北アメリカ大陸では、2008年12月に南北アメリカ大陸のアメリカとカナダを除く全ての33カ国が集まって中南米・カリブ海諸国首脳会議が開かれ、来年2月に「中南米・カリブ海諸国機構」を創設すると宣言しました。宣言では、紛争の平和的解決、領土保全の尊重など、国連憲章の諸原則を尊重し、平和で民主的な国際秩序を構築することを高らかにうたっています。(党旗びらきでの志位委員長挨拶、しんぶん赤旗09.1.6)
以上のように、今回の金融危機をきっかけとして、新自由主義やカジノ資本主義に毒された20世紀型資本主義を克服して、民主的に規制された21世紀型資本主義の構築を模索する動きが強まっています。これは、21世紀が平和で民主的な世界のあり方を目指して激しく動き始めたということであり、まさに21世紀の胎動といえるのではないでしょうか。