原発からの脱却を
1.はじめに
当ホームページでは昨年(2010年)12月、「原発は環境にやさしくない」と題して、テレビCMなどで流されていた「原子力発電は発電時にCO2を出しません」という原発推進キャンペーンを批判しました。
翌2011年3月11日、東日本大震災によって東京電力福島第一原発で起こった運転中の原子炉の過酷事故は、核廃棄物の問題どころか稼動中の原子炉そのものが持つ致命的な危険性を明らかにしました。
そこで本稿では前回の論文では触れなかった、冷却水喪失から炉心溶融に至った問題を明らかにしながら、原発の「安全性」などは存在しない、よって撤退しかありえないということを明確にしたいと思います。
2.軽水炉の根本的危険性
原発の歴史は、前回書いたように軍事用として進められてきた経緯から、安全性は最初からほとんど考慮されていません。現在の原子炉の原形は原子爆弾に使うプルトニウムを取り出すために作られたものです。その技術を潜水艦や空母に使えるようにし、さらに商用原発として転用したのです。だから冷却水が失われたらどうなるかということの検討はほとんど考えてこなかったのです。
軽水炉では、沸騰型(BWR)加圧水型(PWR)共に炉内の冷却水は、発電用タービンを回すための蒸気発生源として、かつ燃料ウランが連続して核分裂を起こすのに必要な中性子の速度を落とすという、2つの役割を持っています。
ウラン235を含む放射性物質は一般的に、中性子を当てるという人為的操作がなくても自然に崩壊し、別の物質に変化します。そのときに熱が発生しますが、それを崩壊熱と呼びます。
原子炉で使う前のウラン235は非常に安定していて、発熱はわずかです。しかし冷却水の中で遅い速度の中性子を当てると核分裂の連鎖反応で高熱を発します。逆に冷却水がなくなると速度が速い中性子を当てても連鎖反応は起こらず、熱はほとんど発生しません。
問題は一度でも使い始めたら発生する、ヨウ素131(半減期8日)やセシウム137(30年)などの核分裂生成物にあります。これらはいずれも常に放射線を出し続けるとともに大量の崩壊熱を出すのです。いわばウラン235というエンジンを止めても、ブレーキが効かない自動車のようになります。
この放射性物質の自然崩壊、すなわち原子の崩壊による放射線発生と崩壊熱を止める技術を人類は持っていません。
だから核燃料は容器内に閉じ込めると同時に冷却水を流し続けて、崩壊熱をどこかに逃がし続けるしかないのです。それは使用済み燃料であっても長期にわたって続きます。もし冷却水が失われて燃料棒がむき出しになったら、高熱で壊れて溶け出します。これを「メルトダウン(炉心溶融)」と呼びます。過去のスリーマイル島、チェルノブイリ、そして今回の福島事故ではこの「メルトダウン」が発生しました。そして放射性物質が容器から漏れ出して大変なことになったことはご存知のとおりです。
東京電力が2011年5月15日に発表した福島原発事故の資料によれば、1号機では3月11日14:46の地震発生後、外部からの電源供給が失われ、津波到達後の15:41には非常用の発電機も停止してしまいました。そして炉心最高温度は18:00までは300℃程度でしたが、その直後から冷却水が急激になくなり、温度も急上昇して2時間後の20:00頃には2900℃近くになっています。
これでは燃料棒は確実に溶けてしまいます。
このことを東京電力は、翌12日6:00にはかなりの燃料が溶融し、遂には12日6:50には、完全に溶け落ちたと説明しています。
そして12日の15:36、遂に水素爆発が起こって大量の放射性物質が大気に放出されてしまいました。また2号機、3号機も同じく炉心溶融を起こして後に原子炉建屋で爆発が起こりました。
冷却水喪失から炉心溶融に至り、制御のきかなくなった原子炉がどのような被害をもたらすか、この一連の経緯でおわかりと思います。
3.日本の原発の問題
日本にはいたるところに活断層が存在し、地震とは無縁の土地はひとつもありません。プレートが4つもひしめき合うという、世界的にも例を見ない地震の多発地域に54基もの原発が存在することは異常です。
ところが政府は地震・津波対策を怠ったまま、「安全神話」によって炉心溶融などの重大事故は「ありえない」と、日本共産党を始めとする識者の声をすべて無視してきました。
例えば、2006年3月1日衆院予算委員会第7分科会で、日本共産党の吉井英勝議員は大津波と原発事故についてとりあげました。
原発を津波が襲ったときに「(押し波が高ければ)水没に近い状態で原発の機械室の機能が損なわれ」「(引き波が大きければ)原発の冷却機能が失われる」と、押し波・引き波、ともに想定せよと迫りました。
またチリ地震による経験から、「東北電力女川原発の1号機、東電福島第1の1、2、3、4、5号機、この6基では、基準水面から4メートル深さまで下がると冷却水を取水することができない事態が起こりえるのではないか」とただしました。
これに対して原子力安全・保安院は、非常用ポンプ吸い込み水位を下回る海面低下で取水困難になる原子炉は、4メートル低下で28基、5メートル低下で43基もあることを答弁しました。
吉井議員はさらに、今回の福島原発の事故を予見した発言もしています。
「崩壊熱が除去できなければ、炉心溶融であるとか水蒸気爆発であるとか水素爆発であるとか、要するに、どんな場合にもチェルノブイリ(原発事故)に近いことを想定して対策をきちんととらなければいけない」と政府を追及しました。
また、2010年5月26日の衆院経済産業委員会では過去の事例も示し、巨大地震で原発の外部電源や非常用の内部電源が切断されるため、炉心を水で冷やす機能が働かなくなり、最悪の事態を想定せよと迫りました。
政府答弁は「そういったことはあり得ないだろうというぐらいまでの安全設計をしている」「論理的に考え得る、そういうもの」(寺坂信昭・原子力安全・保安院長)。
「想定外」で、現実にはあり得ない頭の中の話という姿勢でした。
しかし福島の事故はそのような「安全神話」が虚構であることを明らかにしました。
4.脱原発を
6月17日、参院東日本大震災復興特別委員会で紙議員が使ったパネル |
(11.07.30)