2010年代の「川崎重工の経営計画」分析
何が浮き彫りとなり、コロナ禍にどう臨むのか


はじめに

2020年3月に、ホームページに掲載した『川崎重工2010年代の経営業績の実態(『中計2019』批判の序として)』で、2007年以降の経営指標の数値から読み取れることを述べましたが、今回は、2010年代の川崎重工の中期・長期経営計画について、一歩踏み込み、次の立場から分析してみたいと思います。

日本共産党川崎重工委員会の基本的な立場

2018年に発行した『私たちの職場綱領』(私たちはこんな新しい職場をめざしています)の中で、次のように述べました。

「私たちは、働くすべての人と地域経済を大切にしてこそ、良い製品・サービスが供給できるし、中長期的には企業も社会も持続的に発展できると確信しています。そして、歴史ある会社が、いつまでも地域や社会から信頼され、誇りに思える会社であってほしいと願っています。」

以上のように、私たちの立場は「大企業敵視」などでは決してありません。大企業としての社会的責任に反する行為に対しては率直に批判し、真に日本経済と企業の健全な発展につながる経営施策に対しては、ともに力を尽くしたいというものです。

2010年代 企業経営の時代背景(投資家の動き)

経営の流れを読むに当たって、『企業経営を取り巻く時代背景(投資家の動き)』を参考として下さい。  

ご覧のように、企業経営に関する時代背景は、「新自由主義」の流れの中で、「株主主権」を重視する動きが急速に進み、(1)事業取捨選択、M&A(合併と買収)の実行と、(2)終身雇用システムの破壊と労働生産性向上への強引な流れがつくりだされ、2013年以降の第二次安倍政権が、この流れを政策に反映する形で、後押ししてきたということです。

それでは、こう言った経営環境の流れの中で、川崎重工がどう対応してきたのか、2010年代の中・長期の経営計画を2008年のリーマンショック前後の様子も交え、『川崎重工の中期・長期計画一覧表』に基づきながら分析してみましょう。

2010年代の長期経営計画『Kawasaki 事業ビジョン2020』

『Kawasaki 事業ビジョン2020』(『ビジョン2020』)は、「2020年における当社グループのビジョンとそこに至る道筋・戦略」として策定され、この長期ビジョンに沿って、2010年、2013年、2016年、2019年と3年毎に中期経営計画が組まれてきたということです。(『ビジョン2020』については、2016年、2019年に見直しされています。)

中長期のビジョンを持って事業展開を図ること自体は、短期的な利益を望み、企業価値を、その目的のためには損なうことも辞さない投資家がいるのに対して、「理性的」な経営姿勢と言えるでしょう。

とりあえず、『ビジョン2020』の「目指すべき姿(ビジョン)」「基本戦略」の内容を確認してみましょう。

6項目の「目指すべき姿(ビジョン)」自体の評価は、その後展開される施策次第になりますが、とくにC(環境に配慮した事業運営)、D(CSRの重視)、E(従業員が活き活きと働く企業)などは、ステークホルダー全体の賛同を受け入れられるものと思います。「基本戦略」には、明らかに投資家の評価を得るための戦略が、「事業基盤の強化」として登場しています。「選択と集中」から「事業取捨選択、M&Aの実行」へと突き進む時代背景を受けてのものと思われます。

とくに「『要検討事業』は市場動向を見極めた上で、事業の構造改革や縮小・撤退を進める」などは、労働者の雇用と生活、更には地域経済をも脅かすことになる項目ですが、この戦略・施策は、2010年代を通じて維持されました。また、従業員が「最大限に能力を発揮できる企業風土を構築する」は、「目指すべき姿」のEの具体化として、一人ひとりの尊厳を大切にすることがベースとなっておれば素晴らしいことなのですが、後述のK-Winへと繋がっていく中で、その正体がはっきりしていきます。

同年策定の中期経営計画『中計2010』

『中計2010』は、『ビジョン2020』における「最初の3年間の具体的な実行計画として位置付け」られたものです。

2008年のリーマンショックによる世界不況の中、川崎重工の2009年度の業績は営業赤字△13億円と、大きく落ち込みました。トヨタ自動車ですら赤字決算でした。しかし、両社とも、投資家・株主対策として、配当は実施されました。株主偏重と言えるでしょう。

この間(2010年〜2013年)に、実際行われた経営施策を見ますと、汎用機カンパニーでの約80名の派遣労働者の雇止め、プラント・環境カンパニーの播磨工場技術部門の神戸工場集約、船舶海洋カンパニーでの神戸・坂出工場の協力事業者の単価引き下げ、坂出工場から他カンパニーへの大量配転、ブラジルへの進出、そして、精密機械カンパニーでの契約社員約80名の大量解雇、などが目につきます。

汎用機・船舶海洋・精密機械の各カンパニーについて、労使の中央経営協議会での会社説明によれば、「需要の低迷」「海運市場の低迷」「中国市場の停滞」とそれぞれ外的要因を挙げています。「Global Kの総括」では二つの課題(「損益分岐点を意識した経営」「新製品・新事業の事業化」)を挙げていますが、なぜそこに陥ったのかの本質的な解明は説明されていませんし、安易に非正規労働者の「非正規切り」や単価引き下げ、大量配転、海外進出などで、その場しのぎをしているようにしか見えません。

もう少し具体的に見ると、明石工場での派遣労働者の雇止めについては、2007年に労働者派遣法の改正により製造業務への人材派遣は最長3年となっていました。3年後の2010年に、3年を超えた派遣労働者も含めて雇止めしたことは、この法改正を悪用したと思われても仕方ないでしょう(本来、3年を超えた人は希望者全員を正社員に登用すべきでした)。

坂出工場から他カンパニーへの配転は、住居変更を伴うものです。住環境は、「基本的人権の基礎」と言われているようにその保障は、『中計2010』の基本目標で挙げている「D従業員の働きやすい職場環境の実現」にとって欠かせないものです。

西神戸工場で解雇となった契約社員の多くは、その年の6月に派遣社員から試験で契約社員になった方々で、一旦、契約社員として派遣元から切り離された上に、解雇通告後に、ただちに工場から強制退去させられるというたいへん非人間的ものでした。

また、この間も重大な官製談合(陸自ヘリ官製談合)が繰り返されました。先にあげた問題も含め、『中計2010』の基本目標で「CSR活動の進化」と掲げていますが、自ら決めたことが守れないようでは、コーポレートガバナンス(企業統治)が疑わしくなります。

2013年策定の中期経営計画『中計2013』

『中計2013』は、『中計2010』の総括から、「為替変動に強い、より競争力のある事業・ビジネスモデルの創出」「中国以外の新興国市場への展開加速」を今後の課題として挙げています。

その上で、重点施策に、「@ソリューションの提供」「A既存事業の領域拡大」「B成長市場に向けたグローバル展開の加速」などを挙げています。

Bの中に、「パートナーシップ・合弁も含めたグローバル展開を加速」「M&A、アライアンスによる早期事業化を促進」とありますように、M&Aを念頭に、造船事業のブラジルへの海洋事業進出や、後述の三井造船の子会社三井海洋開発(株)との連携を想定した内容と言えます。全体として、安倍内閣の「日本再興戦略」の動きに沿ったもので、労働者・国民より株主の利益優先へと大きく踏み出そうとするもので危うさを感じさせられます。

2013年6月の株主総会を前にして、現職の社長・副社長・常務が更迭されましたが、この頃、川崎重工は、三井造船と統合する話が進んでいました。この「政変」により、統合話は頓挫しましたが、『中計2013』は、この統合話が進む中で策定されたためか、何がしか統合後を想定した書きぶりのように見えます。

しかし、一部の限られたメンバーで秘密裏に統合話を進めていたためか、並行して行われたはずの中計策定作業では、執行部全体の認識にはならず、具体的表現は盛られなかったように見えます。

1990年代から造船事業は、大手の間で、合従連衡の話がくすぶり続け、結果、川崎重工については飲み込まれることも、飲み込むことも無く、単独で中国に進出しました。

仮に、三井造船との統合が進められていたなら、当然、両社の間で事業別の仕訳(取捨選択)による設備の廃棄などの「合理化」が行われ、そこで働く人々の雇用や生活、地域経済・社会に深刻な打撃を与えていたでしょう。大企業の社会的責任に関わる重大なことが、一部の役員で進めることができるというコーポレートガバナンスの欠落さには驚かされますし、残念ながら、この反省は次の『中計2016』の中に見出すことができません。

2014年策定の『Kawasaki ROIC経営の展開 −グループ経営モデル2018−』

「ROIC」は、『中計2010』、『中計2013』では数値表示だけで、とくに経営施策の中心としては、書き込まれていませんでしたが、「政変」後の2014年10月、新体制からのメッセージとして、『Kawasaki ROIC経営の展開−グループ経営モデル2018−』が発表されました。

そこでは、「企業価値の向上を目指す」のが「ROIC経営」であり、「企業価値の向上を重視したあるべき財務指標」として「ROIC、営業利益率、NET D/Eレシオ、総資産回転率の目標レベルを設定」すると述べています。

ROICは、分子=利益(経常利益+支払い利息)を分母=投下資本(自己資本+有利子負債)で割った投下資本利益率で、投下資本の効率を見る上では、判りやすい指標となっており、投資家が投資企業を決める上では、対象企業の中長期の経営計画の内容と併せて、対象企業の将来性(成長度合い)を測る判断基準になるでしょう。
 
「ROIC経営」の打ち出しは、三井造船との統合という「成長戦略」に代わって、改めて、既存の事業の中での「投下資本効率の向上で成長する」という投資家に向けたメッセージとともに、副社長が「(ROIC)8%というのは、株主や投資家が期待するリターンを賄える最低ラインの投下資本利益率」(社内誌『かわさき』NO.216)と述べているように、「ROIC経営」を経営の中軸に据え、株主利益の最優先=利潤第一主義へと舵を大きく切ったということでしょう。この背景には、『企業経営を取り巻く時代背景(投資家の動き)』に示したように、安倍政権が2014年に国家目標として「ROE経営」を基準化したということがあります。

この後、2015年には、プラント・環境カンパニーの東京技術部門等(社員239名、派遣社員約60名)を神戸工場に集約する策を強行しました。『中計2013』の基本目標の「効率的な事業運営」、重点目標の「共通業務の効率化推進」の具体化でしょうが、配転に応じられない人は「切り捨てられる」という、非人間的なものでした。KCMの譲渡も含め、「ROIC経営」が具体的に推進されたということでしょう。

また、パートナー社員制度が新設されましたが、労働者派遣法の「3年ルール」の脱法的な対応であり、無期雇用を代償に、働き甲斐や人間として尊厳をもって働きたいという人格・人権を否定するものと言えるし、『ビジョン2020』の「従業員が活き活きと働く企業」というビジョンが忘れ去られています。

2016年策定の『2025年事業イメージ』、中期経営計画『中計2016』

『中計2016』の策定に当たって、「中計2013の振り返り」では、経営指標の数量目標についての「達成状況」の報告のみで、特段の課題提議はありませんでした。それは「Kawasaki-ROIC経営」の流れが2014年から継続しており、一体のものとの考えなのでしょう。

『2025年事業イメージ』では、重点投資分野を航空輸送、ロボット、エネルギーとしています。 
オフシェア事業で失敗した船舶海洋と、中国市場の低迷を被った油圧機器の事業構造変革を『中計2016』の課題としたのは、『ビジョン2020』に沿う事業振り分けの流れと思えます。 

その流れの線上で、2016年9月末に船舶海洋事業の損益が悪化したということで、「構造改革会議を早急に設置し、事業の継続性を含め今後の方針を検討します」と発表しました。あまりの唐突さにマスコミは「撤退も視野」と報道し、神戸や坂出の町をも驚かせました。

会社発表の「損益の悪化」の中身を見ると、初めにブラジル関係の損失を挙げていますが、それは労働者の責任外の問題ですし、他のオフショア作業船や新LNG船のコストアップの問題も、それまでの目先の利益優先の経営がもたらしたものと言えます。

経営陣は、もうからない事業は「撤退」という姿勢であり、“120年もの歴史ある造船の灯を決して絶やさない”という覚悟も、また雇用や地域経済等を守るという大企業の社会的責任も感じられません。このような状況が影響し、将来に希望を失った優秀な若者たちが次々と離職しています。

同年の10月に、『企業経営を取り巻く時代背景(投資家の動き)』で述べた「日本再興戦略」を反映して、終身雇用システムの破壊と労働生産性向上の動きとして、『働き方改革〜K-Win活動〜』(K-Win:Kawasaki Workstyle Innovation)の社長メッセージが発表されました。そこには、「中長期的に収益力向上と成長戦略を実現し企業価値を向上させるためには、従業員が能力を十分発揮し、生産性を上げていくことが必須」と述べています。

社内誌『かわさき』No.228 (2017年3月)では、「K-Win活動」の特集を組み、「働き方改革が求められる3つの背景」として、「ホワイトカラーの生産性向上」「長時間労働の抑制」「ワーク・ライフ・バランスの推進」を挙げ、「公私とも充実した生活により豊かな感性を磨き」と耳当たりの良いことを述べていますが、この3つの中で「『業務改革』が一番の中心」であり、「企業価値向上の好循環を生み出す活動です」と真の狙いを告白しています。

その後、「生産性向上」の側面だけが強調され、一人ひとりの人事考課にまで「生産性」指標が持ち込まれました。これによって、管理業務が増加しただけでなく、多くの人たちの協働を必要とするものづくりに、セクショナリズムを持ち込み、人間関係の希薄化や「豊かな感性」の喪失を進め、逆に「生産性向上」を阻害しているのではと懸念されます。
(K-Winについては、労使による中央経営協議会での質疑等の抜粋を参考として下さい。)

その後の出来事を見てみますと、自殺・死亡退職者やメンタル疾患、離職者がかつてないほど増加しており、その背後に、どの工場でもパワハラのまん延があり、「公私とも充実した生活」どころの話ではありません。さらに解雇事件まで起きていますので、職場の中に「人を育てる機能」が喪失しているのではないかと心配させられます。

会社もそれを危惧したのか、2018年に倫理基準として『川崎重工グループ行動規範』を制定しています。たいへん立派な内容となっていますが、『中計2019』に反映させることを忘れています。

2017年12月には、新幹線「のぞみ」台車枠き裂問題が世間を震撼させました。会社は、製造不備の原因について、「2007年の製造開始時に、『過度な製造現場依存』により品質管理に関して脆弱な点があったことに加え、…『不具合を未然に防止するためのリスク管理不足』が生じていた」とし、再発防止として「KPSを徹底導入するなど、業務プロセスの見直し」「リスク管理の強化」等に取り組むとプレス発表(2018年9月28日)しました。

私たちは、それに先立って、作業ミスを個人責任とすることなく、各部門や協力会社などの多くの人たちの協働が、円滑に運ぶための設備や納期、人員、技術力向上、そして職場のコンプライアンスも含め「ものづくりの経営施策に問題がなかったのか徹底した究明が必要」と主張していましたが、残念ながらそこまでの究明に至らず、管理強化等の施策が『中計2019』に織り込まれました。

管理強化や「誰が行っても同じ品質が確保できる標準作業」(2018年2月28日プレス発表)の画一的な強調をすれば、周囲への気配りや創意工夫が弱くなるのではないかと心配です。

2019年策定の『2030年度までの長期的方向性』、中期経営計画『中計2019』

10年先の事業イメージを描いた『2030年度までの長期的方向性』には、国連の「持続可能な開発サミット」(2015年)の流れを受けて、「幅広い事業を通して、SDGs達成に貢献」を掲げています。SDGs(持続可能な開発目標)は、17項目あり、「貧困に終止符を打ち、誰も置き去りにしないための行動計画」で、今年1月に署名した「国連グローバル・コンパクト」も含め、国際的なテーマに大企業が積極的に関与することは社会的責任を果たす上で大切なことです。

とくにSDGsの「目標5」の「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」と「目標8」の「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」は、自社の中で率先して実行してほしいところです。

『中計2019』は、まず『全社編』が公表され、その後約5カ月遅れて『詳細編』が公表されました。驚くのは、『詳細編』で『全社編』と違う「基本方針」が掲げられ、しかも「自律的事業経営と全社的企業統治の両立」という極めて経営計画の根幹となる内容が後付けで策定されたことです。

理由を読み解くと、まず『全社編』の「中計2016の振り返り」で、「税前ROIC目標未達の主因は収益率の低下にある」と断定し、その主な要因に「船舶オフショア事業、北米車両事業」などを挙げています。これらはまったくのところ経営側の問題と言えますが、『詳細編』で、収益改善するには「事業ポートフォリオの全体最適化」を図り、「再建・構造改革」事業である商船と車両は「経営資源シフト」が必要と結論づけています。そして、これを実行するための「基本方針」が、「自律的事業経営と全社的企業統治の両立」ということのようです。

その辺について、社内誌『かわさき』No.253 (2019年11月)で、社長は、『中計2019』について、「将来にわたりROICの改善が見込めない事業は、他の成長事業に人財などの経営資源の提供を促す」「組織の枠を超えて全体最適の観点から経営資源を融通しあえるような全社的企業統治を強化していきます」と述べています。2010年に策定した『ビジョン2020』の「『要検討事業』は市場動向を見極めた上で、事業の構造改革や縮小・撤退を進める」という基本戦略を、今度こそ実行するという決意なのでしょう。

そこには、事業部門任せでは「ROIC経営」が進まないという焦りや、手っ取り早くもうけたいという安易さ、投資家・アナリストの批評への意識が色濃くにじんでいるように思えますし、今度の株主総会で予定している「監査等委員会設置会社」への移行と同一線上の「取締役会の監督機能をさらに強化」が狙いではと思われます。

私たちは、技術や経済・社会の進歩とともに、市場のニーズが変化し必要とされなくなる製品も出てくるので、一律的に事業の「縮小・撤退」に反対しているわけではありません。製造業大手である川崎重工は、「良い製品・サービスを供給する経済活動を通じて社会進歩に貢献」(『私たちの職場綱領』)すると同時に、働く人々の雇用や生活、地域経済を守るという大企業の社会的責任を果たすべきであり、その両面を踏まえて「縮小・撤退」を検討する必要があると考えています。

いま経営陣が「経営資源シフト」しようとしている商船と車両の事業は、『ビジョン2020』で「輸送システム、エネルギー環境、産業機器を主な事業分野とし、顧客・世界に貢献する企業」として位置づけ、また、『Kawasaki Report 2019』では「陸・海・空における安心・安全、クリーン、快適な移動・輸送手段の提供」を通じて「SDGsの達成に貢献していきます」と宣言しています。環境に優しく未来ある成長産業である商船と車両事業から、成長に必要な経営資源を引き揚げるとなれば、川崎重工の「ミッションステートメント」にも反する経営行為になるのではないでしょうか。

定款の一部変更で社外取締役の比率が上がり、各カンパニーへの帰属意識の薄い取締役の構成で「監督機能をさらに強化」すれば、この道を猛進することにならないか不安が残ります。もし、不安が現実のものとなるならば、大企業の社会的責任はなおざりにされ、事業間・労働者間にいま以上の分断が持ち込まれることになり、行く手には暗雲が立ち込めることになるでしょう。

最後に

これまで、『川崎重工の中期・長期計画一覧表』に基づきながら、ざっと経営計画を見てきました。ここから見えてくることとして、川崎重工の経営の流れは、『企業経営を取り巻く時代背景(投資家の動き)』に示したように、機関投資家の圧力のもとに、安倍政権と財界が一体となって推進してきた株主利益の最優先の流れに沿ったものであったと言えます。

すでに述べたように、「ROIC経営」がその流れを加速させ、また、「公私とも充実した生活」という「K-Win活動」も、その線上で推し進められたということになるでしょう。

株主利益の最優先=利潤第一主義をベースとした「ROIC経営」と「K-Win活動」は、働く人々と職場に多くの犠牲と弊害をもたらしてきたのではないでしょうか。

冒頭の私たちの「基本的な立場」で述べたように、何よりも働く人々が大切にされてこそ、そして、みんなが成長しながらものづくりの楽しさを実感できるような会社にしてこそ、歴史ある会社がこれからも長く地域や社会の役に立てると確信しています。

中期・長期経営計画は、株主だけへのメッセージではないはずですから、その中に、経営計画を実現する働く人々のビジョン ― “あの会社に入りたい”、“この会社に入ってよかった”、“ここで長く働きたい”などと思えるもの ― を書き込み、すべてのステークホルダーに発信してもらいたいと思います。(『ビジョン2020』の「目指すべき姿」に「E安全で働きやすい職場環境の中で従業員が活き活きと働く企業」という項目がありましたが、その後の中期・長期経営計画からは消え去っています。)

いま日本は、戦後最悪の深刻な感染症とのたたかいの最中にあります。
川崎重工は、緊急事態宣言を受けて、派遣社員も含め、従業員とその家族の健康を優先して、テレワークや勤務形態の柔軟な対応などに取り組んできたと思います。

しかし、明石工場のMC&Eカンパニーは、非正規社員の雇用情勢が厳しくなり始めた矢先に、しかも、厚生労働省や日本経済団体連合会の「雇用の安定とその保護」の要請に背を向け、これまで「カワサキ・ブランド」を一緒に支えてきた派遣労働者を5月末で雇止めにしてしまいました。

5,000億円を超える内部留保を持つ大企業が、多くの派遣労働者とその家族の生活基盤を奪い、地域社会にも深刻な影響を及ぼす「派遣切り」を、「需要の減退」や「契約満了」などの理由で正当化できるのでしょうか。

コロナ禍は、ワクチンができるまでかなり長期になるだろうし、その後も新しい感染症とのたたかいは避けられないと言われています。その度に、経営努力の要らない安易な「派遣切り」や住居変更を伴う他工場への配転・応援などを繰り返すと言うのでしょうか。

それでは、川崎重工の「グループ経営原則」の「社会的責任を認識し、地球・社会・地域・人々と共生する」というミッションステートメントに反しますし、多くの人たちでの協働に必要な人間関係や技術・技能も育たなくなり、社会からも見放されることになるでしょう。

いま経営者には、コロナ禍に強い企業をつくりあげることが求められていると思います。そのためには、コロナ禍から働く人々の命と健康を守る積極的な方策(例えば、プライバシーによく配慮した定期的な全員検査と陽性者の保護など)や、「雇用は正社員が当たり前」、長時間労働の是正だけでなく時間短縮、「健康で文化的な生活」を保障する賃金・労働条件、ジェンダー平等、地域経済の活性化などの課題に勇敢に取り組むことが必要であり、まさに経営者として冥利に尽きる情勢を迎えているということではないでしょうか。

 

(20.07.07一部修正)(20.06.21)