職場で「ジェンダー平等」を前進させるために
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2017年にアメリカで、セクハラ被害に端を発し、数十名の女優達による、"Me too"の声があがりました。日本でも、セクハラ被害の無罪判決の怒りから"Me
too"運動が起き、昨年は“性暴力撲滅“を訴えた「フラワーデモ」が全国へと広がりました。そして今年の9月には、「女性はいくらでもうそをつける」と暴言を吐いた自民・杉田氏への抗議としてオンラインでのフラワーデモが行われ、さらに、米「TIME」誌2020年版の「世界で最も影響力のある100人」にジャーナリストの伊藤詩織さんとテニスの大坂なおみ選手が選ばれました。世界でも日本でも、「ジェンダー平等」を求める運動が大きく発展しています。
しかし、新型コロナパンデミックは、感染リスクにさらされている医療・介護現場の多くが女性であること、休業や失業などに追い込まれている経済的弱者の多くも女性であること、1人一律10万円の特別定額給付金の受取人が「世帯主」であったため、DVや虐待で逃げている女性が受け取れなかったことなど、女性は依然として、厳しい状況下におかれていることを浮き彫りにしました。
川崎重工の職場では、『同性パートナー登録規程』などの新しい動きも見られますが、後述のように、女性にとっては、まだまだ働きにくい職場環境となっています。
ポストコロナを展望して、「ジェンダー平等」を職場で前進させていくために、まずこの分野の国際的な流れと日本の国際的位置を確認し、そもそもジェンダーとは何か、そして、私たちの職場の現状や課題について大まかに考えてみたいと思います。
■「女性の平等」から「ジェンダー平等」への発展
国連は、1945年の発足当初から女性問題に取り組んできました。はじめは、先進国の要求を反映して「女性の平等」を目標にしていました。植民地体制が崩壊して途上国が国連の構成員になる中で、「貧困からの解放=開発なくして女性の地位向上はない」という要求が統合され、そして、「世界の女性の憲法」と呼ばれる画期的な「女性差別撤廃条約(1979年)」や、「女性に対する暴力撤廃宣言(1993年)」が採択されました。
1995年に北京で開催された第4回世界女性会議※1の行動綱領に、「ジェンダー平等」「ジェンダーの視点」などを掲げられたことが大きな契機となり、2000年に開催された国連ミレニアム総会で、新世紀への歴史的挑戦として確認された「ミレニアム開発目標(MDGs)
※2」の一つにジェンダー平等と女性の地位向上の促進が掲げられました。
2015年には、「ミレニアム開発目標」の後継として採択された「持続可能な開発目標 (SDGs) ※3」の1つに「ジェンダー平等」が掲げられ、すべての目標に「ジェンダーの視点」がすえられました。
今年1月に、チリの首都サンティアゴで開催された第14回中南米カリブ海地域女性会議では、メキシコの外務副大臣が、重要な決定過程に男性だけが参加することを批判し、「女性は違った見方ができる。それが議論を豊かにし、より現実的な解決策を示すのを助ける」と説明し、チリの女性・ジェンダー平等相も、女性を苦しめている社会的経済的格差を解決しなければ「持続可能な発展への門はくぐることはできない」と語り、閉会式では、アリシア事務局長が「女性がいなければ何もなしえないのです。女性の殺人も暴力もない世界、賃金や経済の分野で平等な社会を望みます」と決意を表明しました。そして、最終日には、女性への差別を一掃する課題、ジェンダー平等への努力を強化する方策を列挙した文書が採択されました。
このように「女性の平等」という目標が、人権の豊かで多面的な運動を通じて「ジェンダー平等」という国際的な潮流へと発展しています。
※1:女性の人権や社会的地位をテーマに開催された国連の会議。
※2:極度の貧困と飢餓の撲滅など,2015年までに達成すべき掲げた8目標。
※3:SDGsはMDGsを引き継ぎ 2030年までの開発の指針として達成すべき17目標。
川崎重工も「社会価値の最大化と持続的な成長を目指すとともに、SDGsの達成に貢献していきます」(HP)と宣言しています。
■「ジェンダーギャップ」121位の日本と進んだ北欧諸国
「世界経済フォーラム※4」は、昨年12月に、経済・政治・教育・健康の男女格差をはかる「ジェンダーギャップ(男女格差)指数」2019年版を発表しました。日本のジェンダーギャップ指数の総合指数は、121位(153カ国中)、主要7カ国(G7)の中で最低であり、昨年の110位より順位を下げ過去最低を更新しました。
総合指数の内訳は、経済参画115位(同一労働における賃金格差67位、年収格差108位、役員管理職男女比131位、専門技術職男女比110位)、政治参画144位(国会議員男女比135位、閣僚男女比139位)などであり、社会のリーダーシップを発揮すべき政治や、経済の分野でのジェンダー平等は、著しく遅れています。
ちなみにランキング上位は例年通り北欧諸国ですが、その中でも11年連続首位のアイスランドは、女性の割合を一定以上に定める「クォータ制度」の導入で、企業の役員や国会議員の4割以上を女性が占めています。現在、40代の子育て中の女性が首相を務めています。また男女間の賃金格差を違法とする法律「改正男女平等法」が施行されています。
フィンランドは、国連SDSN※5 発表の「幸福度ランキング」3年連続世界一です。仕事と家庭の両立と、趣味スポーツを楽しむ「ワークライフバランス」を大切に、午後4時には仕事が終わり残業はほとんどなし。夏には一カ月の休暇を取得。最低限の生活保障による安心感、ゆとりが世界一の背景にありそうです。現在の首相は女性として3人目であり、現職世界最年少の34歳です。国会では女性が閣僚17人の内12人、議員もほぼ半数を占めています。
男女平等が大きく進展している背景には女性たちのたたかいがありました。北欧諸国のジェンダー平等の先駆けであるアイスランドでは、1975年「女の休日」と呼ばれる運動に立ち上がっています。職場における男女の格差や、性別による役割分担に抗議の声を上げ、“社会を変えよう”と、成人女性の9割が仕事も家事も放棄し、広場の集会に駆けつけました。フリーゲンリング駐日大使は、「この日をきっかけに男性たちは、女性なしでは社会が回らないことを突きつけられました」と語っています。
※4:経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関。
※5:国連の持続可能な開発に役立つ実践的な解決策を推進するため、国連機関や多国間金融機関、民間部門、市民社会のグローバルなネットワーク。
■ジェンダーとは何でしょうか
LGBT※6の人口規模は、日本国民の3〜5%といわれていますが、7.6%(電通ダイバーシティ・ラボ 2015年4月調査)という調査もあります。日本でも、地方自治体や企業において「性的マイノリティー」への対応の取り組みが始まりつつあります。いまや大きな国際的な潮流へと発展した「ジェンダー平等」の「ジェンダー」とは何でしょうか。男女平等とは違うのでしょうか。
ジェンダーとは、社会が構成員に対して押し付ける「女らしさ、男らしさ」「男は会社につくし妻子を養って一人前」「女は家を守り家事をやるのが当たり前」などの行動規範や役割分担を指すと言われています。
ジェンダーは、日々呪文のように繰り返され、私たちの行動のあり方、価値判断、役割分担などを、無意識のうちに左右し縛っていくので、一般には「社会的・文化的につくられた性差」と定義されています。
日本共産党は、「ジェンダー」について、「それは決して自然にできたものではなく、人々の意識だけの問題でもありません。時々の支配階級が、人民を支配・抑圧するために、政治的につくり、歴史的に押し付けてきたものにほかなりません。」「ジェンダー平等社会を求めるたたかいは、ジェンダーを利用して差別や分断を持ち込み、人民を支配・抑圧する政治を変えるたたかいである」(日本共産党第28回大会決定集)と考えています。
「男女平等」は引き続き重要な課題ですが、法律や制度上で「男女平等」のようになっても、あらゆる分野で女性差別が根深く残っています。女性差別を生み出す大本にジェンダー差別があるからです。「ジェンダー平等社会をめざすとは、あらゆる分野で真の『男女平等』を求めるとともに、さらにすすんで、『男性も、女性も、多様な性をもつ人々も、差別なく、平等に、尊厳をもち、自らの力を存分に発揮できるようになる社会をめざす』ということ」(同前)と展望しています。
※6:LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつ。
■日本におけるジェンダ―差別の「二つの根っこ」
前述したように日本は、「ジェンダー平等」で著しく遅れています。その原因について、日本共産党は政治的・歴史的な「二つの根っこ」があると考えています。
以下は、志位委員長の著書『改定綱領が開いた「新たな視野」』からの抜粋です。少し長くなりますがご勘弁願います。
一つは、明治の時期に強化された差別の構造です。 1890年につくられた「教育勅語」というのがあります。天皇が、当時、「臣民」とされていた国民に対して、「勅語」という形で、さまざまな「徳目」を命令の形で言っているものです。ここには12の「徳目」が列挙されていますが、すべての「徳目」は…“ひとたび重大事態があれば天皇のために命を投げ出せ”というところにつながってきます。国民を戦争に動員する恐るべき役割を果たしたもので、戦後、排除・失効となったものです。 そうした12の「徳目」の三つ目に、「夫婦相和シ」とあります。これは…“妻は夫に逆らうな”―これが「夫婦相和シ」の意味だと、公式に解説していたわけです。「夫婦仲良く」どころの話ではありません。「教育勅語」でこうした男尊女卑の思想が、徹底的にたたき込まれました。 続いて1898年に制定された旧「民法」によって「家制度」がつくられます。戸主―家長が、すべての権限をもち、結婚も、どこに住むかも、家長の許可が必要とされました。妻となると「民法」上の「無能力者」とされ、夫の許可なしには経済活動もできない、訴訟もできない、労働契約もできないなど、一切合切ができなくなりました。夫婦同姓を強制する仕掛けも、旧「民法」の「妻は婚姻に 続いて1907年につくられた「刑法」にも、家父長制が深く刻まれました。妻は「夫の財産」のようにみなされ、強姦罪は財産犯のようなものと考えられました。つまり、強姦罪によって権利を侵害されるのは女性でなく、その夫や父だったのです。… こうした男尊女卑の構造は、戦後、日本国憲法の成立のさいに、本来ならば、一掃されるべきものでした。ところが戦後も引き継がれ、いまなお民法では夫婦同姓が強制され、刑法で強姦罪が強制性交等罪に変わっても、この犯罪が成立するためにはなお「暴行・脅迫要件」が必要とされています。明治時代に強化されたジェンダー差別の根は、今なお断たれていないのです。… 二つ目は、戦後、高度経済成長の時期以降に、財界・大企業主導でつくられた新たな差別の構造であります。 この時期に、財界・大企業が押し付けた価値観は、「男は、24時間、企業戦士として働くのが当たり前」―どんな長時間・過密労働も、単身赴任も、家庭を顧みることなく働くのが男の役目だと強調されました。 そして、そういう男を支えるために、「女は、結婚したら退職し、一切の家事をやるのが当たり前」―専業主婦になって、炊事、洗濯、掃除、子育て、介護、一切の身の回りの世話を行うのが女の役目だと強制したのです。 こうした価値観、役割分担の押し付けによって、男性も女性もひどい搾取のもとにおいていきました。利潤第一主義をあらゆるものに優先させて、財界・大企業が、戦後、ジェンダー差別の新たな構造をつくっていきました。この構造は、その後、女性の多くが仕事をもち、共働きが当たり前になっている現在でも、形を変えながらも再生産されています。ここにジェンダー差別のもう一つの根があります。 こうして、日本のジェンダー差別には、明治の時代に強化された差別の構造、戦後に財界・大企業によってつくられた新たな差別の構造という2つの根っこがあります。 |
安倍前政権は、戦前につくられた「家制度」こそが良かった、この時代こそが「美しい国」だったと、戦前の日本への回帰を主張していました。その当時、官房長官だった菅氏は、芸能人の結婚のニュースに関し、「この結婚を機に、ママさんたちが一緒に子供を産みたいという形で国家に貢献してくれればいい」と語りました。権力者がジェンダー差別をふりまくなどということは、許されるものではありません。安倍政治の「継承・発展」を最大の看板として登場した菅政権には、決してジェンダー平等社会を託すわけにはいきません。
■ 互いの個性を尊重し合い、誰もが自分らしく力を発揮できる職場へ
川崎重工では、倫理基準として『行動規範』を制定し、「人財の多様性の尊重」の項目では、「グループミッションと事業目的を達成する上で従業員は最も重要な財産であると考え、『人財』と表現しています」「私たちは、多様性を尊重し、すべての人がいきいきと働ける職場を目指します」と宣言しています。
2018年には、従業員向けの『LGBTハンドブック』を発行し、「人それぞれに個性があり、LGBTは数ある中の1つです。従業員が気持ちよく働くためには、互いの個性を理解し尊重する姿勢が何よりも重要です」と啓蒙しています。そして今年の4月には、海外における同性カップルの法的保障への対応として『同性パートナー登録規程』を新設しました。一連の冊子や規程に記述されている内容は、たいへん立派なものだと思います。
また、SDGsにも取り組んでいますが、企業や社会の発展にとって大切な「5.ジェンダー平等を実現しよう」の目標を掲げられていないのが残念です。他に、女性の活躍推進の優良企業として「えるぼし」認定を取得しており、育児と仕事の両立のための「育児復帰者向けセミナー」等も実施しています。
それでは、職場の現状について、男女比較を表わした人事関係のデータから見てみましょう。(川崎重工のHPからピックアップして作成したものです。こちらをクリックしてください。)
ご覧のように、女性の採用や管理職登用は、わずかながら増加していますが、直近のデータで見てみると、女性の従業員は男性の9.3%、幹部職員(部長・課長)は1.4%、平均年間報酬額は73%、新卒採用は10.8%となっています。逆に離職率は1.8倍と増えています。データから見ると、女性にとっては、まだまだ「ジェンダーギャップ」が大きい職場環境と言えます。
では職場の声はどうでしょか。
私たちが毎年年末に行っている『要求アンケート』には、「子育てを考えれば女性には総合職はつとまらない」「女性は仕事内容の幅が狭く、資格を取得させてもらえない」「パートナー社員の薄給では生活出来ない」「同期の男性の昇進に比べ女性は遅い」「職場ではお茶当番、炊事場のゴミ捨て・清掃は女性がしてあたりまえになっている」などの回答が寄せられています。
また、職場では、「パートナー社員も同一労働同一賃金で、働き続けられるようにして欲しい」「育児がしやすいように出張日数を減らして欲しい」「職場の都合で利用出来ないリモートワーク制度を改善して欲しい」などの声もあがっています。どれも切実な声であり要求だと思います。
いま経営陣は、コロナ禍の影響による営業利益の赤字を理由に、総労務費の圧縮施策や雇用維持と言いながら出向まで提案しています。職場では、「一切の無駄の排除」「一層の収益改善」などが叫ばれています。これでは「ジェンダー差別」をさらに助長しかねませんし、女性や多様な性をもつ人々だけでなく、男性も含めて、自らの力を発揮できにくくなるのではと懸念されます。
橋本社長は、社内誌『かわさき』で「性に関する偏見を取り払い、互いに人として理解し尊重し合える職場を作っていけば、一人一人が能力や強みをより発揮しやすくなり、自由闊達に話し合えることで創造的なチームとして、さまざまな枠を超えていけると信じています」(社長メッセージ)と語っています。たいへん素晴らしい内容だと思います。コロナ禍のいまこそ、経営陣がこの内容を具体的な施策として実行すべきときでしょう。
労働組合も、「ジェンダー平等」の課題で、企業のチェック機能としての役割を発揮するとともに、自ら職場の声と要求を集め、職場としっかり連帯して要求実現に取り組んでいくことが求められていると思います。
そして、働く一人ひとりが、差別なく、平等に、尊厳をもって働けるように、声を上げ、行動していきましょう。
(20.10.14)