川崎重工 車両およびモーターサイクル&エンジン事業の分社、船舶海洋とエネルギー・環境プラントの事業統合を発表
経営陣はすべてのステークホルダーに貢献する経営施策を示すべきでは!


川崎重工は11月2日に、『車両およびモーターサイクル&エンジン事業の分社、ならびに船舶海洋とエネルギー・環境プラントの事業統合について(方針決定)』とその基となる『グループビジョン2030』をあわせて発表しました。

社内では、10月30日に臨時中央経営協議会が開かれ、会社が「事業グループの再編成と車両事業・モーターサイクル&エンジン事業の分社について」を労働組合に提案し、協議を行ったとのことです。

まだ社内には、会社の方針・考えや労使協議の内容が十分に説明されていませんので、職場では「分社する必要が本当にあるのか」「分社して業績が悪かったら切り捨てされないか」「川重に入ったのになぁ」「会社を辞める人が増えるのでは」等々の不安や戸惑いの声が上がっています。

ここではまず、会社が分社化と事業統合の目的についてどう述べているかを簡単に整理し、分社化の問題を中心に解明すべきことや私たちの考え、そして、そもそも企業の経営にはどのような責任を持つべきかについて、大まかな点を述べたいと思います。

分社化と事業統合の目的・時期について(会社発表から)

会社発表の文章からそれぞれの目的について、キーワード的な文言を取り出すと以下のようになるのではと思います。

  目的  時期 
車両およびモーターサイクル&エンジン事業の分社  「自律的事業経営を徹底」「意思決定のスピードを向上」「業界関係各社との連携」等  2021年10月 
船舶海洋とエネルギー・環境プラントの事業統合  「両事業の統合により経営資源を集中し、水素エネルギー分野におけるリーディングカンパニーとして、水素社会実現に向けた取り組みを加速していく」等  2021年4月 

なお、11月2日の事業方針説明会では、航空機事業の人員を2020年度中に600人縮小(社員200人を一時的に他部門に配置転換し、派遣社員400人は契約更新をしない)することを橋本社長が語ったと報道されています。また、同じ説明会で「雇用を守るのが経営者の仕事だ」とも述べたということですが、どうも派遣社員は「雇用を守る」責任に入っていないと言わんばかりです。

それでは、分社化の問題について見ていきましょう。

なぜ分社化しなければならないのか

今回の発表は全体として、長期の株価低迷の中で、投資家やアナリストへのアピールが大きな狙いではと思います。これまでの分社化の目的(下の表)と比べると、「業界関係各社との連携」をあげた点が特徴となっています。

肝心の分社化の問題について、会社はその目的を述べていますが、なぜ分社化しないと目的が達成できないのか、分社せずに3つのグループ(陸・空輸送システム、モーションコントロール&モータービークル、エネルギー&マリンエンジニアリング)でなぜ達成できないのかの説明が不十分と言えます。

2019年に策定された中期経営計画『中計2019』では、「自律的事業経営と全社的企業統治の両立」を基本方針としました。この方針からなぜ「分社」の施策が打ち出されたのかがはっきりしませんし、分社化して企業統治をどういう形で強化するのかもよくわかりません。

過去の分社化と合併の経験からどう教訓を引き出しているのでしょうか。以下はその当時の会社の説明です。

2002年の船舶・精機部門の分社独立の目的、狙い  2010年の3社合併の目的 
「事業の選択と集中」「確固たる自立体制のもとで迅速に事業競争力の向上を図る」「一層スピーディーでフレキシブルな経営体質への転換」「賞与の業績連動を徹底すること等によりコストの弾力化を図る」「組織のスリム化による間接コストの低減」等  「当初の目的であった企業体質の転換と事業基盤の強化を実現することが出来た」「グループ全体の知的資産の効率的かつ迅速な融合と活用が不可欠となっている」「別会社であることにより生ずる制約を取り払い、各々が持つ技術的知見、人材等をグループとして最大限に有効活用する」「個別に採用活動を行って来たが、再統合によりこれを一体化することで人材維持の充実を図る」等
 


上の表の合併の目的であげられている下線部分が、分社化によってまた問題になるのではと心配になります。

分社して労働者の雇用や労働条件、権利が本当に大丈夫なのか

昨年の『中計2019』の中で、「再建・構造改革」事業である商船と車両は「経営資源シフト」が必要と結論づけました。そのもとで6月に就任した橋本社長が、「総労務費の圧縮」を旗印に、処遇制度の見直し、旅費規則の見直し、航空宇宙ディビジョンの出向と次々と経営施策を打ち出しました。その間、多くの派遣社員が雇い止めされています。今回の分社化は、その延長線上で決定しています。

そして、今回の『グループビジョン2030』では「2021年度黒字化」するとし、そのために「コスト低減」「総労務費の圧縮」等を徹底して取り組むとしています。また、10月30日の臨時中央経営協議会で、分社後の賃金・一時金についての労組質問に対し、「業績に応じて弾力的に運用するようなもの(業績連動賞与など)は別途検討していく」と答え、維持するとは明言していません。

これでは、分社化は「総労務費の圧縮」等の一環としてしか受け取れず、対象カンパニーの正規・非正規社員だけでなく、全カンパニーの労働者と関係会社の人たちをも不安に陥れてしまいます。

目先の黒字化達成のために、コロナ禍の中でも頑張ってきた労働者に犠牲を転嫁するようなことは、大企業として決して許されるものではありません。そんなことを強行すれば、労働者のモチベーションを下げ、企業力も衰退させ、地域の経済や社会にも深刻な打撃を与えることになります。経営陣は、労働者への犠牲転嫁による業績回復の道は取らないと明言すべきではないでしょうか。

中期ビジョンとしてすべての事業を分社化するのか

2001年12月26日の『船舶および精機部門の分社独立について』の発表では、「今般の分社独立は、全事業部門の分社独立を視野に入れた経営スタイル変革の第二段階と言える」と述べています。

今回の『グループビジョン2030』では、車両およびモーターサイクル&エンジン事業の分社については記述されていますが、分社化の当初の目的が達成されたならまた本体に合併するのか、それとも全事業部門の分社化へと進むのか、どこを目指しているのかが示されていません。

私たちは、経営が厳しいときこそ、それを糧に、派遣社員も含めすべての労働者の持つ能力を引き出して乗り越えていくことにより、一体感や各人の能力も向上し、困難に強い企業へと成長できるのであり、分社化は必要ないと考えています。

次に、企業経営のあり方について少し述べます。

企業経営はすべてのステークホルダー(利害関係者)の利益と発展に責任を持つべき

私たちは、2018年に発行した『私たちの職場綱領』の中で、「私たちは、働くすべての人と地域経済を大切にしてこそ、良い製品・サービスが供給できるし、中長期的には企業も社会も持続的に発展できると確信しています」と述べました。これまで培ってきた技術・技能は、何よりも働く人々を大切にしてこそ、継承発展できるのであり、そして人間も成長できるのではないでしょうか。

いま世界で、「株主至上主義」「利益至上主義」の見直しが進んでいます。

アメリカでは、世界最大の資産運用会社のブラックロックが「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません。企業が株主、従業員、顧客、地域社会を含め、すべてのステークホルダーに恩恵をもたらす存在であることが、社会からの要請として高まっているのです」(2018年1月)と述べています。

また、北米の大企業経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルは、「米経済界は株主だけでなく従業員や地域社会などすべての利害関係者に経済的利益をもたらす責任がある」(2019年8月)と声明を発表しています。

日本でも、日本電産会長兼CEOの永守重信氏が「利益を追求するだけでなく、自然と共存する考え方に変えるべきだ・・・収益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じる働きやすい会社にする」(2020年4月)べきと語っています。

今回のコロナ禍を乗り越えたとしても、新しい感染症や大きな災害の襲来は避けられないでしょう。その度に、経営努力の要らない安易な「派遣切り」や出向・配転・応援、そして分社化などを繰り返しては、企業力が衰えていくばかりと思います。

経営陣は、機関投資家ファーストから、すべてのステークホルダーの利益と発展に貢献する経営に大転換することが求められているのではないでしょうか。


<ともに働くみなさんへ>
本件に関してどんな情報や意見でも結構です。お待ちしています。

日本共産党川崎重工委員会 
<E-mail> spum69u9@pony.ocn.ne.jp ここからメール送信  

<FAX>  078-341-3236

 

(20.11.12)