川崎重工 2022年 株主総会
中国出向エンジニア過労死事件やメンタルヘルスへの取り組みなどについての質問と回答


第199期定時株主総会は、6月24日(金)に神戸国際会館で開催されました。

会社発表では、株主の来場者は135名(昨年76名)とのことでした。開催時間は10時から11時までで、質問は一人2問にそれぞれ限定されました。

質問者は昨年と同じ5名でした。その中から、中国出向エンジニア過労死事件とメンタルヘルスへの取り組みなどについての質問と会社回答を紹介します。

会社は報告事項に入る前に、次の3件について謝罪と再発防止に取り組んでいくことを表明しました。
昨年7月岐阜工場において死亡事故が発生したこと、同じく岐阜工場において、本年3月に不審物が発見され、川重従業員が逮捕されたこと、2021年8月に完全子会社となった川重冷熱工業株式会社が製造販売した一部の吸収式冷凍機の検査などにおいて、不適切行為が判明したこと。


中国出向エンジニア過労死事件やメンタルヘルスへの取組みなどについて
【株主質問】
この5月12日に、2013年に中国で過労死された方のご遺族が川崎重工に対して、安全配慮義務違反があったとして神戸地裁に提訴しました。
この事件に関しては、2016年に東神戸労働監督署が労災であることを認めました。
そのことにより、ご遺族の方が川崎重工に対して面談し、謝ってほしいと訴えましたが、川崎重工はそういう責任はない、ということを言ってきたので裁判に至りました。
この事件は大きくテレビのニュースや新聞で報道されました。
私は、このことに対し、非常に怒りを覚える次第です。ご遺族の娘さんにとっては、父との楽しい思い出が全く断ち切られたわけです。川崎重工はご遺族に対し、特に謝罪し謝るべきだと私は思っています。


【会社回答】
亡くなられた弊社の従業員の方に関しては、心からお悔やみ申し上げますし、我々にとっても非常に悲しい事件だったと思います。
マスコミで報道されましたが、中国に出向して、後で亡くなられたことは事実でありますし、この場で改めて心からご冥福をお祈りして、ご遺族の方に対して心からお悔やみを申し上げたいと感じております。
当社は、この事案が発生して以降、ご遺族に対しては、一貫して誠意を持って対応しており、出向先での状況については、当社が把握するすべての情報を提供し、また残されたご家族の育英と家庭生活の安定をはかるべく経済面での補助を継続しています。
本件に関しまして残念ながら裁判という形になりましたが、ご遺族の主張に対して当社はこれまで通り事実関係に基づき誠意を持って対応したいと考えております。
なお個人の駐在中の具体的な労働時間や健康状況に関しましては個人情報に触れることでありますので、この場では回答を控えさせていただきます。裁判の中でしっかり事実に基づき誠実に対応させていただきます。


【株主質問】
以前に私は従業員のメンタルヘルスについて質問しました。その時に、川崎重工は、増加はしているが、他社と比べてパーセント的には少ないという返答で、私は、そういうことを聞いているのではない、どのようにして減らしていくんだと訴えました。
そうした思いからメンタルヘルス委員会なるものを作ったらどうかと、インターネットを調べたら、ヘルス委員会というものがある。金花会長が社長だった頃に作ったそういう委員会があります。
そして、4つの分野で川崎重工は従業員のヘルスに務めていることを言っている。本当に4つの指針でやっているのか、到底信じがたい。
近々では、トヨタや三菱電機、NHKその他で過労死認定されたご遺族の方に対し、企業がちゃんと謝っています。
川崎重工も提訴されたわけですから、和解に向けて話合い、謝るべきということを私は思っています。よろしくお願いします。


【会社回答】
メンタル不調に関しては、我々経営に関わる重要な課題の一つだというふうに認識しております。それは昨年のお答えしましたけれど、4つのケアと先ほど申し上げました。
ご質問者の方の中にもありましたけれど、4つの指針とは4つのケアのことだと思います。
まずセルフケア、自分自身でストレスチェックをして、自分の状態に気づいていただく。その後にはラインケアということで上司、管理監督者がその人に対してコミュニケーションを図っていく。さらにそれでも何か問題があればスタッフケアということで、会社の産業医やスタッフによるケアを行う。しかし、どうしても発症した場合は外部の専門家にもお願いしてケアをしてもらう。
この4つのケアということを重要視しており、これをメンタルヘルス対策の基本というかたちで全社をあげて、心の健康の保持増進に取組んでいる所です。
出来るだけメンタルを発症しないようにする1次予防、発症しても早期に直す2次予防、そして、発症した方が職場に早く復帰して再発しないといった3次予防に全社をあげて取り組んでいるところです。 
【株主質問】
最初の方が裁判の話しで、会社は謝罪していない。非常に怒りをおぼえると発言したわけですが、社長の回答は謝罪の言葉は出なかった。おくやみなんかはいらない。謝罪がほしい。人の命がなくなったのですよ。謝罪して本当に早く解決してほしいと思う。

自殺については2019年の株主総会で質問していますが、「2017年以前の過去5年間の自殺者は7人、2018年の自殺者は7人」と発表されました。この事件以降も多くの自殺者を出しており、その要因につながる職場環境は改善されていないと判断できます。その要因をどのように分析しているのでしょうか、答えてほしい。
もう一つは、川重グループにおいて2000年から現時点までの海外赴任者とそれ以外の自殺者の人数をお聞かせ下さい。


【会社回答】
先ほども繰り返し申し上げましたけれども、私どもは誠意をもってご家族に対しておりました。
まあ自殺だったか事故だったか、そう言うことも含めまして、これから事実関係を元に裁判の中で我々は明らかにさせていただきたいと思います。
そうした事実関係をもとに誠実に対応していきたいと思いますので、ここではそう言った対応はご容赦願いたいと考えております。

自殺者の人数がどうかという質問については、申し訳ありませんが2000年以降現在までの海外勤務全ての自殺者の人数についてのデータは、今手元に持っておりませんのでお答えすることは出来ません。
ただ2020年、2021年にそれぞれ自殺された方が1名おられました。もちろん原因等について職場の人間あるいは友人含めて色々と聞いて何とか、原因を探ろうとしましたが、それが職場に起因するものなのかどうなのか、全く見つけることは出来ませんでした。
自殺の要因については人それぞれです。もちろん本人の気質、職場の人間関係、プライベートなことなどいろいろあるのだろうと思います。我々はそうした場合には、徹底的に調査をして職場に問題が無かったか、どうかと言うことを検証しているということだけはお伝えします。
 
【株主質問】
ロシアのウクライナ侵攻、それから日本近海、中国、北朝鮮、ロシアに対する緊張が高まっております。
政府も防衛力の増強、防衛予算の増強を岸田総理もこのようにおっしゃいました。
川崎重工の現在の防衛産業の売上比率、これらこういった状況に対する対応をどのように考えておられるかお聞かせ願いたいと思います。



【会社回答】
我が国を取り巻く安全保障は非常に著しく変化する中、政府におかれましては防衛力を強化して、国の安全を担保するという政策を発信された。そして、防衛費もアップするといった指針が出されています。
私どもは、全売り上げの中で十数パーセントというのが防衛関係の売上比率ですが、その中で我々はどういった形で上げていくか云々に関しては、政府が決めることであるが、我々としては日本の安全を担保するために、川崎重工が貢献できる部分に関しては誠実に対応して、さらに、昨今防衛に関しては、私どものスタイニングサプライチェーン等々非常に厳しい環境の中で、撤退する人たちが多い環境の中でサプライチェーンを守って、しっかり、非常時に対しても、防衛環境を維持できるような形のものを、しっかり保っていきたいということは、我々の方からも発信させて頂いている。
我々に関しましては、いろいろ有事のこともあるが、基本的には、平和を維持できる対応が出来るように日本の国防の指針に従って粛々と対応していきたい。
 
 


【中国出向エンジニア過労死事件やメンタル疾患、自殺者の問題】
会社は、「この事案が発生して以降、ご遺族に対しては、一貫して誠意を持って対応」と回答しました。
しかし実際は、事件の当初からご遺族に対し、会社は責任がないという対応を取り、そして、労災認定の後も話合いを求める通知書等に対しても、「一切対応いたしかねます」と一貫して「誠意」に欠ける対応でした。
そのため、やむを得ずに提訴したものです。
また、会社は「まあ自殺だったか事故だったか、そう言うことも含めまして、これから事実関係を元に裁判の中で我々は明らかにさせていただきたいと思います」という、労災認定を否定するような回答もありました。

会社は、メンタルヘルス問題について全社をあげて取組んでいますが、メンタル疾患者数は増えています。
自殺者について、「2020年、2021年にそれぞれ自殺された方が1名おられました」「職場に起因するものなのかどうなのか、全く見つけることは出来ませんでした。」と回答されました。
厚労省のメンタルヘルスでの4つのケアの推進は当然として、過重労働や職場においてお互いに気づき合うような人間関係が出来ているか、などを点検することが必要なのではないでしょうか。

2000年から現時点までの海外赴任者の自殺者数について、この総会が終わるまでに報告するように要求し、社長は「調べられる数字があれば可能なかぎり調査する」との返答があったが、回答がないまま総会を終了しました。

【防衛予算について】
会社は、「私どもは、全売り上げの中で十数パーセントというのが防衛関係の売上比率ですが、その中で我々はどういった形で上げていくか、云々に関してましては、政府がお決めになることでございます」と回答されました。
しかし、そもそも防衛費のアップはアメリカと経団連の要求です。経団連は2022年4月12日に「防衛計画の大綱に向けた提言」を出しており、その要求に沿って、政府は防衛計画の見直し進めています。
川重は経団連の一員として自ら防衛費の増額を要求しているのではないでしょうか。


参考: 2021年の株主総会での質問と回答はこちらをクリックしてください。


(22.06.28)